上 下
68 / 79

67

しおりを挟む
67

「第三王子の俺は結婚すれば臣籍降下するし、この国へ住んでも問題ない。ただ曲がりなりにも王子だし、臣籍降下となれば公爵位を賜るだろうから、我が国では公爵、この国では公爵扱いの侯爵になる…かな?」
 顎に手を当ててエドモンドが言うと、グレイはイライザを抱きしめる手に力を入れてエドモンドを睨む。
「何を言うんだ。イライザは俺と…」
「うん?あ!違う!違うよ。グレイ」
 エドモンドが慌てて手を顔の前で振った。
「エドがイライザと結婚してフォスター家を継ぐと言う事だろう?何が違う?」

 イライザはエドモンドの婚約者候補だ。
 隣国で公爵位を持つ者がこの国の侯爵位を継げるのか、隣国の爵位は返上しこの国で侯爵となるのか…王子が侯爵になるとは降格となる事で、果たしてそれが許されるのか、はたまた侯爵位を従属爵位にするのか、身分は侯爵だが公爵として扱われるのか…など、爵位に関しての諸々の問題はあるが「イライザと結婚したエドモンドがフォスター家を継ぐ」と言う事自体はそう不自然ではないのだ。
「ならば、俺が臣籍降下すれば良い」
 グレイがそう言うと、イライザは顔を上げて首を横に振る。
「グレイ殿下が我が家のために臣籍降下なさるなんて…」
「フォスター家のためではなく、俺のためだ。エドとイライザが結婚するなど」
「だから、違うんだよ。イライザは第一王子グレイの妃になる。俺はフォスター家で他の令嬢を娶る。フォスター侯爵と侯爵夫人が後継ぎに養子を迎えても良いと言うなら、悪くない話しだろう?」
 人差し指を立ててエドモンドが言うと、イライザとグレイは互いに顔を見合わせてからエドモンドの方を向いた。
「イライザの兄上がサクソン公爵家に行かず、フォスター家を継ぎたいと言うなら、俺がサクソン公爵家の養子になっても良いし」
「エド…何故そこまで?」
「そうです。エドモンド殿下、どうして我が家のためにそこまでしてくださると仰るんですか?」
 不思議そうに二人が言うと、エドモンドは苦笑いを浮かべる。
「俺も、フォスター家のためではなく、俺のためだよ」
「?」
 どうしてエドモンド殿下が我が家やサクソン公爵家の養子になって後を継ぐのが、エドモンド殿下のためになるの?

「好きな女性ひとができた」
 エドモンドが少し姿勢を正して言った。
「え?」
「帰国する前にイライザに『言いたい事がある』と言っただろう?」
「あ…」
 そうだ。ミアがエドモンド殿下には好きな人ができたと思うって言ってた。本当にそうなんだ。

「と、言っても、まだその女性に告白もしていないんだけどね」
 エドモンドは苦笑いを浮かべると肩を竦める。
「え?そうなの?」
「そこはやはり順序があるだろう?イライザに話してからでないと、その女性に告白する事はできないよ」

「正式な婚姻の申し入れをするのではなく、相手にエドと結婚をする意思があるかを確認してから話を進めたいと言う事か?それは、相手に…相応の身分がないからか?」
 グレイがそう言うと、エドモンドはもう一度肩を竦めた。
「当たり」
 王子と結婚するなら、格式として相応しいのは公爵家または侯爵家の令嬢よね。隣国はどうなのかはわからないけど、この国では王子が望んだ場合には伯爵令嬢もアリって感じだから…エドモンド殿下の好きな人は所謂上位貴族ではないって事?
「上位貴族の養女になるなどの段階を踏まないと難しいと思う」
「あ!フォスターうち家かサクソン公爵家の養女になればって事ね」
 イライザがポンっと手を叩きながら言う。
「そう言う事。でもその前に肝心の相手の意思を確認しなければ…ね」
 エドモンドはそう言うと、ソファから立ち上がった。

 え?告白しに行くの?
 え?今から?どこに?
 エドモンドは部屋の隅に控えているアンリの方へと歩いて行く。
「……は…?」
 アンリの口から声にならない声が漏れる。
 口を開け、目をまん丸にして近付いて来るエドモンドを見ているアンリの前でエドモンドは立ち止まると、すっとその場に跪いてアンリの方へと手を差し出した。

「アンリ。君が好きだ。俺と結婚して欲しい」

 ア、アンリ!?
 エドモンド殿下が好きな人ってアンリなの!?
「アンリは…貴族令嬢なのか?」
 両手で口を押さえているイライザに小声でグレイが言う。
「男爵家の次女です」
「そうか」
 グレイの声色にはホッとしたような安堵感があった。
 事程作用にこの世界では貴族か貴族でないかの間には深い隔たりがあるのだ。

「…………」
 アンリは口も目も大きく開けたままエドモンドを見つめる。
「驚くのも無理はない。今すぐ婚約などとは言わないから、前向きに考えてくれないか?」
 エドモンドが言うと、アンリの口元がピクリと動いた。

「…む、無理です」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...