悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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 イライザがミアの病室を出ると、廊下に控えていた騎士から「グレイ殿下が中庭の東屋でお待ちです」と声を掛けられた。

 さっき、プ…プロポーズとか言われてたけど…それに妃とか…
 中庭に向かって廊下を歩きながら、イライザは自分の手首を見る。
「やっぱり見えないな…」
 赤い糸。私の手には見えないけど…殿下…ほほほ本気なの?

 中庭に出ると、東屋のベンチで何かの書類を見ているグレイの姿が目に入った。
 イライザは立ち止まってグレイの手首をじっと見る。
 …見えない。
 今は見えないけど、もしいつかグレイ殿下の手首に赤い糸が見えて、それが繋がってるのが私じゃなかったら……?
 ドクンッと心臓が鳴って、イライザの額に冷や汗が滲んだ。

 イライザに気が付いたグレイが、顔を上げて嬉しそうに笑う。
「イライザ」
「!」
 …こんな笑顔を私に向けてくださるなんて。

「どうした?顔色が悪い」
 立ち上がって東屋を出たグレイが立ち止まっていたイライザの近くまで歩み寄って来た。
「…殿下」
 イライザが少し震える声で言うと、イライザの前に立ったグレイは微笑む。
「名前」
 優しい声で言われ、イライザの視界がぼやけた。
「…グレイ殿下」
「うん?」
「好きです」
 イライザの頬を涙が伝う。
 グレイは驚いたように瞠目し、次の瞬間、手を伸ばしてイライザの腕を掴むと、もう一方の手を背中へ回し、イライザを抱きしめた。

 ぎゅうっと抱きしめられたイライザの目から涙が溢れて、グレイの上着の胸元を濡らす。
「…グレイ殿下の赤い糸がもしも他の女の人と繋がったとしても、私はグレイ殿下が好きです」
 グレイはイライザの背中を撫でた。

ーーーーー

「今、エドからの手紙を読んでいたんだ」
 東屋のベンチに二人で並んで座ると、先程見ていた紙を手に取り、イライザへ差し出した。
「エドモンド殿下からの…」
「ああ。秋期にエドが戻ってくるまで待つつもりだったが、少し先走ってしまった。だから許しを乞う手紙を出したんだ」
「許し?」
 ん?「エドが戻って来るまで待つつもりだった」って確か前にも聞いたような?

「イライザがエドのガイド役である事は変更できないが、婚約者候補であると言う暗黙の取り決めについては、履行できないが許して欲しいと」
 履行できないって、私はエドモンド殿下の婚約者にはならないって事…よね?
「エドからは『直ぐに戻る』と返事が来た。まあ夏期休暇もあと一週間しかないが」
「折角の里帰りなのに私のせいで短縮させてばかりですね…」
「イライザのせいではないだろう?」

 グレイは両手の手袋を外すと、イライザが自分の膝の上に置いていた手を握る。
 イライザはグレイの手をじっと見つめた。
「どうした?」
「…痕は…残っていないみたいですね」
 グレイの綺麗な手の甲を確認し、イライザはホッと息を吐く。
「痕?」
「私が紅茶を溢した時の…グレイ殿下は火傷はしていないと仰いましたが、水脹れができていたと聞きました」
 グレイは一瞬目を見開くと、バツが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「知っていたのか」
「はい」
「イライザが泣きそうな表情かおをしていただろ?泣かせたくないと思ったんだ。あの時」
 イライザの手を握る手にぎゅっと力を入れるグレイ。
「泣くのを堪えていた顔もかわいかった」
「かわ…!?その顔を見て大笑いされたではないですか」
「ははは。そうだったな」

 少し照れるイライザの手を、グレイは自分の口元へと引き寄せ、指先にキスをする。
「!」
 イライザは頬を染めて俯いた。
「あの時、俺は確かにイライザをかわいいと感じた。それでもそれが明確な好意にはならなかったのは、赤い糸を切られていたせいなんだろうな」
「あ…」
「それに俺があまり他人ひとに興味が持てないでいたのも、心の多くを占める『恋』を不自然に断ち切られていたせいなのかも知れない」
 口元から手を下ろしたが、イライザの手を握ったままでグレイは言う。
「恋?」
「ああ」
 目を見開くイライザを見ながらグレイは頷いた。

「赤い糸が繋がっていない今、俺は明確にイライザが好きだと感じている」
「……」
 …え?
 グレイ殿下が…私の事…好き?

 イライザがグレイを見ながら呆然としていると、グレイは優しく微笑んだ。

「だから、万一俺の赤い糸がイライザ以外と繋がった時には、イライザが切ってくれ」



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