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 フォスター家の庭園の小路を並んで歩いているイライザとグレイ。グレイは毎日フォスター家を訪れ、イライザの体力回復リハビリの庭の散歩に付き合っているのだ。

 私は嬉しいけど、グ…グレイ殿下、毎日来てくださるほど責任を感じる事はないんじゃないかと思うんだけど…まあ私は嬉しいんだけどさ。
 でももうすぐ二十日くらいになるけど、毎日だし、世間的にもそろそろ噂になりそうでちょっと怖い。
「ん?」
 横目でグレイを見ていたイライザの視線に気付き、グレイが首を傾げてイライザを見た。
「私も随分体力付きましたし、そろそろ庭の散歩はしなくても良いんじゃないかと思うんです」
「そうか?」
「最初は庭一周で息も絶え絶えでしたけど、四日経った今は三周してもこの通り、平気です」
 ブンブンと腕を振って数歩歩き、振り向いてグレイへ言う。
「そうだな」
 微笑んでイライザを見るグレイ。
 イライザは踵を返してグレイに背を向けた。
 笑顔!
 最近よく殿下が笑顔を向けてくださるけど、毎度心臓に悪いわ。

「イライザ、帰国前にエドと話しをしたのか?」
「え?」
 グレイがイライザに追い付いて、また隣に並ぶ。
「エドが隣国へ帰国する前にイライザと話したい事があると言っていたから…」
「あ、はい。エドモンド殿下、保養地から戻ったら残りの夏季休暇は国へ帰られる予定だったのに、私の目が覚めるまで帰国を延ばしてくださっていたのですよね?」
「ああ」
「帰国前に来てくださって、確かに『言いたい事がある』とは仰られていたんですけど、またこちらに戻った時改めて言う、と言われました」
「…そうか」

「あの、グ…レイ殿下、アレックス様は毎日王城に通われているんですよね?」
「ああ。アレックスは卒業後、俺の側近になるからな。夏期休暇は父上…王太子殿下の側近に付いて卒業後に備えて勉強している」
「王城へ行けばお会いできますか?お仕事中だと難しいですかね?」
「休憩時間なら大丈夫だが…アレックスに会いたいのか?」
 グレイがほんの少し眉を寄せた。
「はい。湖に飛び込んで私を助けてくださったそうなので、お礼を言いたくて。階段の時にも救護室へ運んでくださって…アレックス様には助けていただいてばかりです」
「……」
 グレイの眉間の皺が深くなる。
「?」
 イライザはそれを不思議に思いながら、続けて言った。
「護衛騎士の方々にもお礼をしたくて。差し入れなどをお持ちしても良いでしょうか?」
「ああ。元気になった姿を見せてやれば皆喜ぶだろう」

 しばらく二人とも黙って小径を歩く。

 イライザは隣りを歩くグレイを見上げた。
「あの…殿下は」
「イライザ、名前」
 グレイが苦笑いしながら言う。
 イライザが「殿下」と言うと、グレイは名前を呼ぶように促す。ここ最近、何度もある遣り取りだ。
「…グレイ殿下は、私やミアの言う『ゲーム』や『赤い糸』『転生』などの話をどこまで信じておられますか?」
「どこまで?」
「そう簡単に信じられる事ではないかと」
「まあそうだな。しかしイライザとミアは互いにこの事について話した事はないと言ったが、二人の言う事はかなりの部分が共通していて、そこに嘘はないと感じられる。食い違う点もあるが…そこはエドが言っていたように赤い糸に関するイライザとミアの能力的な違いと言う事なんだろう。ただ正直に言えば、赤い糸の伝承に関しては半信半疑ではあるな」
 グレイは顎に手を当てて言った。
「ミアは『誰と誰の赤い糸を切った』とか『誰と誰の赤い糸を結んだ』とか、具体的な事は話していないんですよね?」
「ああ。そこは頑なに言わないな。状況などから推測できる部分はあるが…例えば、舞踏会でアレックスとディアナ嬢の赤い糸を切った。そうなのだろう?」
「…はい」
 イライザは小さく頷く。
「後は、俺のだな」
 グレイが言うと、イライザは胸元に手を当てて息を飲んだ。

「俺の本来の赤い糸を切って、ミアが自分と結んだ。ミアがゲームのあらすじに添ってそうしたのは間違いないだろう」
「……」
「俺の本来の赤い糸は…イライザに繋がっていたのか?」
 じっとイライザを見ながらグレイは言う。
「…それは…私は実際に見ていないので……」
 イライザはウロウロと視線を彷徨わせた。
 今、イライザ、グレイ、エドモンド、ディアナの手首に赤い糸は見えない。
 ブリジットとアドルフの赤い糸は見える。
 一度切られた赤い糸は見えなくなったのか、見えないだけで繋がっているのか、それとも繋がっていないのか…わからない。
 やっぱり早くミアに会って擦り合わせてみなくちゃ。
「確かに、実際見ていないなら断言はできないか…」
 グレイがふうっと息を吐く。
 イライザは顔を上げた。
「私もかなり体力回復しましたし、そろそろミアに会わせていただけませんか?」



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