悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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「ミアは大逆罪で捕縛された」
 グレイは目を閉じてハッキリと言う。
「捕縛!?」
 大逆罪って、王族に危害を加えたり、加えようとしたりする罪よね?
 それって不敬罪よりもっと重い罪じゃなかった?
「一体何をしたんですか?」
「俺と乗っている馬の腹を蹴って、暴走させた」
「な…」
 あんぐりとイライザは口を開けた。
 あの時、ミアと殿下が乗った馬が突進して来たのはそのせいだったんだ。
「イライザの乗る馬に衝突し、俺とミアは馬から転落した。下が芝生で打撲のみで済んだが…」
 一歩間違えば。打ち所が悪ければ。

「護衛騎士がその場でミアを拘束し、王都へ送還した。命じたのは俺だ」
 眉を顰めてグレイが言う。
「当然です」
 私たちしかいない保養地での出来事でも、護衛騎士や侍女やメイド、侍従や、料理人や…沢山の人間がいるんだから、殿下がミアに目溢しをしても、いつかどこかでこの出来事が世間に知られてしまうかも知れない。
 そうしたら、殿下は「私情で犯罪を見逃した王子」になってしまう。将来は王太子、そして国王になる殿下に影を落とす事になりかねないわ。
 でも、殿下はミアを好きなんだから、そのミアを自らの手で罰するのは辛いわよね…

「そう言ってくれると…俺も報われる」
 安堵の表情でグレイが息を吐いた。

「ミアが、イライザを挑発して自ら酷遇されるよう仕向けていたと聞いた」
 グレイが声を少し低くして言う。
「え?」
「舞踏会でも…イライザを態と怒らせた、と」
「ミアがそう言ったのですか?」
「ああ。王城の拘留部屋で面会した際、そう言っていた」
 ミアが自分で私を挑発してたって言ったの?
 何で?
「それに、ブリジット嬢や、ディアナ嬢やナタリア嬢にも話を聞いた。イライザとミアが階段から落ちた時にも、ミアが態とイライザに衝突して行ったと。ミアが手作りしたと言った菓子の件も」
「……」
「皆の証言は一致していた。だからミアがイライザを貶めていた事に間違いはない。そんなミアを傍に置いてイライザに不当な評価を与えていたのは俺の罪でもある。本当に申し訳なかった」
 改めて頭を下げるグレイ。
 イライザは慌てて首を振った。
「いえ、煽られた部分もあるにはありますが、私は本当にミアを憎々しく思って虐めていたんです。それに殿下に付き纏って嫌な思いをさせたのはミアは関係なく私の意志です。私の方が殿下に謝罪をしなければならないんです」
「その付き纏いについても、そもそもミアがいなければ、イライザはそんな事はしていないだろう?」
「それは…」
 それはそうなんだけど…でも。
「だからと言って、私が謝罪をせずに済むのも違うと思います」
「そうか。ではイライザの謝罪は受けよう。ただ、それは今ではない」
 グレイがそう言うので、イライザは「わかりました」と頷いた。

「そういえば、ミアがおかしな事を言っていた」
 グレイが顎に手を当てて言う。
「おかしな事…ですか?」
「ああ。『赤い糸が消えた』『私はヒロイン』などと…保養地で拘束された時にも、拘置部屋でも同じように言っていた」
「!」
 赤い糸!
 イライザは目を見開いた。
「何の事かと尋ねたが、ミアは俺にはわからないと言った。しかし『イライザにはわかる』と。本当にイライザはミアの言う事がわかるのか?」
 グレイが首を傾げる。
「…はい」
 ごくんと息を飲んでイライザは頷いた。

「ミアが『イライザと話したい』と希望しているのだが、どうする?自分を利用し、貶め、更には危害を加えて来た相手でもあるんだ。断っても構わないが」
「いえ…私もミアに聞きたい事があります」
「……」
 グレイがじっとイライザを見る。
「?」

「イライザ、ミアと…共謀したりは…していないよな?」
「え?」
 あ、私とミアが手を組んでるって疑われてるって事?
 私がミアを虐めるフリでミアが殿下に近付く手助けをしてた、とか?
 グレイが真剣な眼差しでイライザを見ていた。
 そうだ。もしかしたら、これからミアが「イライザとは共犯関係だった」「馬を暴走させろとイライザに言われた」「イライザに裏切られたから捕まった」とか言い出すかも知れない。ちゃんと否定しておかなきゃ。
 殿下にだけは、疑われたくない。
「天地神明に誓って、私はミアと共謀などしていません」
 グレイの目を真っ直ぐに見ながら、イライザはハッキリと言う。
「わかった」
 グレイは安心したように息を吐いた。



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