50 / 79
49
しおりを挟む
49
「ミアは大逆罪で捕縛された」
グレイは目を閉じてハッキリと言う。
「捕縛!?」
大逆罪って、王族に危害を加えたり、加えようとしたりする罪よね?
それって不敬罪よりもっと重い罪じゃなかった?
「一体何をしたんですか?」
「俺と乗っている馬の腹を蹴って、暴走させた」
「な…」
あんぐりとイライザは口を開けた。
あの時、ミアと殿下が乗った馬が突進して来たのはそのせいだったんだ。
「イライザの乗る馬に衝突し、俺とミアは馬から転落した。下が芝生で打撲のみで済んだが…」
一歩間違えば。打ち所が悪ければ。
「護衛騎士がその場でミアを拘束し、王都へ送還した。命じたのは俺だ」
眉を顰めてグレイが言う。
「当然です」
私たちしかいない保養地での出来事でも、護衛騎士や侍女やメイド、侍従や、料理人や…沢山の人間がいるんだから、殿下がミアに目溢しをしても、いつかどこかでこの出来事が世間に知られてしまうかも知れない。
そうしたら、殿下は「私情で犯罪を見逃した王子」になってしまう。将来は王太子、そして国王になる殿下に影を落とす事になりかねないわ。
でも、殿下はミアを好きなんだから、そのミアを自らの手で罰するのは辛いわよね…
「そう言ってくれると…俺も報われる」
安堵の表情でグレイが息を吐いた。
「ミアが、イライザを挑発して自ら酷遇されるよう仕向けていたと聞いた」
グレイが声を少し低くして言う。
「え?」
「舞踏会でも…イライザを態と怒らせた、と」
「ミアがそう言ったのですか?」
「ああ。王城の拘留部屋で面会した際、そう言っていた」
ミアが自分で私を挑発してたって言ったの?
何で?
「それに、ブリジット嬢や、ディアナ嬢やナタリア嬢にも話を聞いた。イライザとミアが階段から落ちた時にも、ミアが態とイライザに衝突して行ったと。ミアが手作りしたと言った菓子の件も」
「……」
「皆の証言は一致していた。だからミアがイライザを貶めていた事に間違いはない。そんなミアを傍に置いてイライザに不当な評価を与えていたのは俺の罪でもある。本当に申し訳なかった」
改めて頭を下げるグレイ。
イライザは慌てて首を振った。
「いえ、煽られた部分もあるにはありますが、私は本当にミアを憎々しく思って虐めていたんです。それに殿下に付き纏って嫌な思いをさせたのはミアは関係なく私の意志です。私の方が殿下に謝罪をしなければならないんです」
「その付き纏いについても、そもそもミアがいなければ、イライザはそんな事はしていないだろう?」
「それは…」
それはそうなんだけど…でも。
「だからと言って、私が謝罪をせずに済むのも違うと思います」
「そうか。ではイライザの謝罪は受けよう。ただ、それは今ではない」
グレイがそう言うので、イライザは「わかりました」と頷いた。
「そういえば、ミアがおかしな事を言っていた」
グレイが顎に手を当てて言う。
「おかしな事…ですか?」
「ああ。『赤い糸が消えた』『私はヒロイン』などと…保養地で拘束された時にも、拘置部屋でも同じように言っていた」
「!」
赤い糸!
イライザは目を見開いた。
「何の事かと尋ねたが、ミアは俺にはわからないと言った。しかし『イライザにはわかる』と。本当にイライザはミアの言う事がわかるのか?」
グレイが首を傾げる。
「…はい」
ごくんと息を飲んでイライザは頷いた。
「ミアが『イライザと話したい』と希望しているのだが、どうする?自分を利用し、貶め、更には危害を加えて来た相手でもあるんだ。断っても構わないが」
「いえ…私もミアに聞きたい事があります」
「……」
グレイがじっとイライザを見る。
「?」
「イライザ、ミアと…共謀したりは…していないよな?」
「え?」
あ、私とミアが手を組んでるって疑われてるって事?
私がミアを虐めるフリでミアが殿下に近付く手助けをしてた、とか?
グレイが真剣な眼差しでイライザを見ていた。
そうだ。もしかしたら、これからミアが「イライザとは共犯関係だった」「馬を暴走させろとイライザに言われた」「イライザに裏切られたから捕まった」とか言い出すかも知れない。ちゃんと否定しておかなきゃ。
殿下にだけは、疑われたくない。
「天地神明に誓って、私はミアと共謀などしていません」
グレイの目を真っ直ぐに見ながら、イライザはハッキリと言う。
「わかった」
グレイは安心したように息を吐いた。
「ミアは大逆罪で捕縛された」
グレイは目を閉じてハッキリと言う。
「捕縛!?」
大逆罪って、王族に危害を加えたり、加えようとしたりする罪よね?
それって不敬罪よりもっと重い罪じゃなかった?
「一体何をしたんですか?」
「俺と乗っている馬の腹を蹴って、暴走させた」
「な…」
あんぐりとイライザは口を開けた。
あの時、ミアと殿下が乗った馬が突進して来たのはそのせいだったんだ。
「イライザの乗る馬に衝突し、俺とミアは馬から転落した。下が芝生で打撲のみで済んだが…」
一歩間違えば。打ち所が悪ければ。
「護衛騎士がその場でミアを拘束し、王都へ送還した。命じたのは俺だ」
眉を顰めてグレイが言う。
「当然です」
私たちしかいない保養地での出来事でも、護衛騎士や侍女やメイド、侍従や、料理人や…沢山の人間がいるんだから、殿下がミアに目溢しをしても、いつかどこかでこの出来事が世間に知られてしまうかも知れない。
そうしたら、殿下は「私情で犯罪を見逃した王子」になってしまう。将来は王太子、そして国王になる殿下に影を落とす事になりかねないわ。
でも、殿下はミアを好きなんだから、そのミアを自らの手で罰するのは辛いわよね…
「そう言ってくれると…俺も報われる」
安堵の表情でグレイが息を吐いた。
「ミアが、イライザを挑発して自ら酷遇されるよう仕向けていたと聞いた」
グレイが声を少し低くして言う。
「え?」
「舞踏会でも…イライザを態と怒らせた、と」
「ミアがそう言ったのですか?」
「ああ。王城の拘留部屋で面会した際、そう言っていた」
ミアが自分で私を挑発してたって言ったの?
何で?
「それに、ブリジット嬢や、ディアナ嬢やナタリア嬢にも話を聞いた。イライザとミアが階段から落ちた時にも、ミアが態とイライザに衝突して行ったと。ミアが手作りしたと言った菓子の件も」
「……」
「皆の証言は一致していた。だからミアがイライザを貶めていた事に間違いはない。そんなミアを傍に置いてイライザに不当な評価を与えていたのは俺の罪でもある。本当に申し訳なかった」
改めて頭を下げるグレイ。
イライザは慌てて首を振った。
「いえ、煽られた部分もあるにはありますが、私は本当にミアを憎々しく思って虐めていたんです。それに殿下に付き纏って嫌な思いをさせたのはミアは関係なく私の意志です。私の方が殿下に謝罪をしなければならないんです」
「その付き纏いについても、そもそもミアがいなければ、イライザはそんな事はしていないだろう?」
「それは…」
それはそうなんだけど…でも。
「だからと言って、私が謝罪をせずに済むのも違うと思います」
「そうか。ではイライザの謝罪は受けよう。ただ、それは今ではない」
グレイがそう言うので、イライザは「わかりました」と頷いた。
「そういえば、ミアがおかしな事を言っていた」
グレイが顎に手を当てて言う。
「おかしな事…ですか?」
「ああ。『赤い糸が消えた』『私はヒロイン』などと…保養地で拘束された時にも、拘置部屋でも同じように言っていた」
「!」
赤い糸!
イライザは目を見開いた。
「何の事かと尋ねたが、ミアは俺にはわからないと言った。しかし『イライザにはわかる』と。本当にイライザはミアの言う事がわかるのか?」
グレイが首を傾げる。
「…はい」
ごくんと息を飲んでイライザは頷いた。
「ミアが『イライザと話したい』と希望しているのだが、どうする?自分を利用し、貶め、更には危害を加えて来た相手でもあるんだ。断っても構わないが」
「いえ…私もミアに聞きたい事があります」
「……」
グレイがじっとイライザを見る。
「?」
「イライザ、ミアと…共謀したりは…していないよな?」
「え?」
あ、私とミアが手を組んでるって疑われてるって事?
私がミアを虐めるフリでミアが殿下に近付く手助けをしてた、とか?
グレイが真剣な眼差しでイライザを見ていた。
そうだ。もしかしたら、これからミアが「イライザとは共犯関係だった」「馬を暴走させろとイライザに言われた」「イライザに裏切られたから捕まった」とか言い出すかも知れない。ちゃんと否定しておかなきゃ。
殿下にだけは、疑われたくない。
「天地神明に誓って、私はミアと共謀などしていません」
グレイの目を真っ直ぐに見ながら、イライザはハッキリと言う。
「わかった」
グレイは安心したように息を吐いた。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

婚約破棄された悪役令嬢ですが、訳あり騎士団長様に溺愛されます
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは、婚約者であるラインハルト王太子から突然の婚約破棄を言い渡される。しかもその理由は、王宮に仕える公爵令嬢リリアナへの乗り換え――クロエが彼女をいじめたという濡れ衣まで着せられていた。
「こんな女とは結婚できない!」
社交界の前で冷たく言い放つラインハルト。しかしクロエは、涙を流すこともなく、その言葉を静かに受け入れた。――むしろ、これは好機だとさえ思った。
(こんな裏切り者と結婚しなくて済むなんて、むしろ嬉しいわ)
だが、父である侯爵家はこの騒動の責任を取り、クロエを国外追放すると決めてしまう。信じていた家族にまで見捨てられ、すべてを失った彼女は、一人で王都を去ろうとしていた。
そんな彼女の前に現れたのは、王国最強と名高い騎士団長、セドリック・フォン・アイゼンだった。冷酷無慈悲と恐れられる彼は、クロエをじっと見つめると、思いがけない言葉を口にする。
「……お前、俺の妻になれ」
冷たい瞳の奥に宿るのは、確かな執着と、クロエへの深い愛情。彼の真意を測りかねるクロエだったが、もう行く場所もない。
こうして、婚約破棄された悪役令嬢クロエは、訳ありな騎士団長セドリックの元へと嫁ぐことになったのだった――。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる