悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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 王子が臣下である侯爵家の娘に跪くなんて、いくら謝罪でもありえないわ!
「や…やめてください!殿下」
「いや。俺はイライザに最大級の謝意を示さなければならないんだ」
 グレイがイライザを真っ直ぐに見る。
 真剣な瞳。これはもう…周りに人が居なくて他の人にこの状況を見られてないだけ良かったと思って納得するしかないか…

「…謝罪を受ける理由が思い当たらないのですが…?」
 おずおずとイライザが言うと、グレイは眉を寄せた。
「も、申し訳ありません」
 イライザが言うと、グレイは悲しそうな表情になる。
 怒らせた?悲しませた?
 わからない。どうしよう。
「…そんな風にイライザを萎縮させているのも、全て俺のせいなんだな」
「え?」

「俺がイライザに謝罪する理由は、ミアに関する全てだ」
「…え?」
 ミアに関する?全て?ってどう言う事?
「ミアがイライザにした事全て、そして俺がイライザにした事全てについて謝罪する」
 そう言うと、グレイは跪いたまま、頭を深く下げた。

「……」
 どう言う事かわからないまま、頭を下げるグレイを見つめるイライザ。
 とりあえず、頭を上げていただきたい。けど、何に謝られてるのかわからない。謝意を受け入れないと言う事はほぼ不可能なんだから「許す」と言えば良いの?
 でも、何を「許す」のかわからないのにそれも違うと思うし。
 だったら私は今この場面で何をどうすれば良いのだろう?
「…質問しても宜しいでしょうか?」
 イライザがそう言うと、グレイは頭を上げて「もちろん」と言う。
「では、とにかく椅子に座ってください。殿下が跪いて、私がベッドに座ってるなんて…私が落ち着きませんから」
「しかし」
「いえもう、私のためだと思って是非、椅子に」
 必死で言うイライザ。
「わかった」
 グレイは渋々と立ち上がるとライティングデスクの前に置いてあった椅子をひょいと持った。
「あ、侍女を呼びます!」
「このくらいで人を呼ばなくても良い」
 グレイはイライザのベッドの傍に椅子を置いた。
「申し訳ありません」
「謝るな。イライザに謝られると俺の方が余計に申し訳なくなる」
 グレイは困ったように言いながら椅子に座る。

「考えてみれば、事情と状況も説明せず、何も知らないイライザに謝罪して、イライザが許すも許さないも決められる訳がない。それでもまず謝意を、と思ったが…俺も大概狡いな」
「狡い?ですか?」
 きょとんとしたイライザに、グレイは苦笑いを浮かべた。
「王族の謝罪を受け入れない選択肢はないだろう?つまり許される前提での謝罪と言う事だ。これは狡いだろう」
「ああ…」
 確かにそうかも。

「では殿下、その『事情』や『状況』を説明していただけますか?その上で謝意を受け入れるかどうかを決めます」
 とは言え、受け入れないって選択肢はやっぱりないけど。
 イライザがニコリと笑って言うと、グレイもふっと微笑む。
「しかし目覚めたばかりで…長く話しをして身体は大丈夫か?」
「身体は重いですけど、睡眠充分で頭はスッキリしています」
 殿下に心配していただいただけで気分上がってるしね。 

「そうか。ただ、その前に一つ」
 グレイがそう言うと、イライザは首を傾げた。
「はい?」
「イライザが最近ずっと俺の事を『殿下』とだけで呼ぶのは、俺が名前を呼ぶのを禁じたせい、だな?」
「…はい」
「すまない。もう二度と名を禁じたりはしない」
 グレイは神妙な表情でまた頭を下げる。
「え…と」
 それは、名前を呼んでも良いって事…よね?
 でも…「名を呼ぶな」って低い声と冷たい瞳を思い出すと…やっぱり怖い。

「はい。わかりました」
 口角を無理矢理上げて言った。
 頭の中でも名前を出さないようにしてたんだもの。ちょっとリハビリ期間がないと、急には呼べないわ。
「ああ」
「それで、その『事情』とは…」
 と、言い掛けてイライザはふと気付く。

 …あれ?
 殿下の赤い糸が…見えない?

 自分の膝の上で手を組むグレイは今日は手袋をしていない。その手首に結ばれている筈の赤い糸が、見えなかった。
 え?
 イライザは自分の手へ視線を落とす。
「…ない」
 イライザの手首に、確かに結ばれていたリボン状の赤い糸。
 それが、見えなくなっていた。
 え!?
 ない!赤い糸がない!!
 イライザは自分の両方の手首をじっと見つめる。フリルの付いた寝衣から覗く白い手首。赤い糸はやはり見えなかった。
 …どう言う事?
 もしかして前回死に掛けてから赤い糸が見えるようになったから、今回死に掛けて、逆に見えなくなったとか?
 ううん。見えるのが当たり前すぎて特に何とも思わなかったけど、さっきブリジットの手首には赤い糸があったわ。うん。確かにあった。
「イライザ?」
 イライザを不思議そうに見ているグレイの手を改めて見るが、やはり赤い糸は見えない。
 あ、もしかして、ミアがまた何かしたのかも!

「ミアは何をしたのですか?」
 イライザはグレイの方へ身を乗り出したながら言った。








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