48 / 79
47
しおりを挟む
47
「イライザ!待って!」
ハッと目を開けると、見慣れたベッドの天蓋が見えた。
…ん?
この感じ、覚えがある。私が初めて目覚めた時もこんな感じだったな。
と言う事は、ここは王都のフォスター侯爵家のイライザの部屋なのね。
あの時は天蓋から降りてるカーテンを開けてアンリが顔を覗かせたっけ。きっとまたアンリが私の声を聞きつけて声を掛けて来る筈だわ。
イライザがぼんやりと考えていると、カーテンの向こうから声がした。
「イライザ」
ドックンッ!
ショックで止まるかと思う程、心臓が跳ねる。
「……」
この声。ありえない。何で!?
イライザは声も出せずにパクパクと口を開け閉めした。
ででで殿下の声。
空耳?似た声色?ううん。私が殿下の声を聞き間違える訳がない。
何で私の部屋に殿下が居るの!?
「イライザ?目が覚めたのか?開けても?」
「ひぃ!」
思わず悲鳴に似た声が出た。
待って。ね…寝起きって…一番見られたくない顔じゃない!?
「お待ちください。流石に起き抜けの姿を異性に晒すのは…」
あ、ブリジットの声だわ!
さすが女子!良くわかってる!
「私が様子を見ますので、少しお待ちください」
そう言うと、カーテンを開けてブリジットが顔を出す。
「ブリジット…」
カーテンが開いた事により見える範囲にはグレイの姿はなく、イライザはホッと息を吐いた。
「姉様、気分はどう?」
心配そうなブリジットの表情に、多分階段から落ちて一週間目が覚めなかった時のブリジットはこんな心配そうな表情はしなかったんだろうな、とイライザは思う。
「…大混乱中よ」
眉を顰めてイライザが言うと、ブリジットは
「思ったより大丈夫そうね」
と少し微笑んだ。
「起きられそう?とりあえずアンリを呼ぶわ」
「うん」
ブリジットが寝室から続く部屋で待機しているアンリを呼びに行く。
イライザは起きあがろうとするが、ものすごく身体が重くて腕に力が入らなかった。
「お嬢様!」
戻って来たブリジットに続いてアンリが手に小さな籠を持ってカーテンの中に入って来る。
「アンリ、久しぶりね」
敢えて明るくイライザが言うと、アンリは瞳を潤ませながら籠をベッドの端に置いた。
「お嬢様ったらもう…」
そう言いながらイライザの背中に手を入れて起き上がらせると、寄りかかれるように背中にクッションを入れていく。
「心配かけてごめんね」
「本当ですよ」
泣き笑いのアンリは座らせたイライザの顔を籠から取り出した濡らした手巾で手早く拭くと、髪を梳いた。
髪を整えられながら、イライザはブリジットへ視線を送る。
ブリジットと目が合うと、小さく手招きして口の横へ手を当てた。内緒話がしたいというジェスチャーだ。
ブリジットがイライザに近付いて、口元へ耳を寄せる。
「…どうして殿下が?」
小声で言うと、ブリジットは首を傾げた。
「『謝りたい』と仰ってたけど…」
「何を?」
「さあ?ただ…姉様が王都に戻ってから毎日来られてるのよ」
毎日?
って、あれから何日経ってるんだろう?
王家の保養地から王都まで馬車で二日かかるから、少なくともそれ以上なんだろうけど。
「毎日って…何日?」
「八日よ」
「…は!?」
思わず声が出て、イライザは慌てて自分の口を両手で押さえた。腕も重くていつもより随分のろのろとした動きではあったが。
「姉様が湖に落ちてから今日で十二日経つの。エドモンド殿下も毎日ではないけれど来られてるわ。でもグレイ殿下は毎日。もちろん朝から晩までって訳ではないけど」
「……」
イライザは口を押さえたままでコクコクと頷く。
そりゃあ朝から晩までベッタリここにおられる訳はないだろうけど、毎日は毎日なのね。
一体何をそんなに謝りたいんだろう…?
支度を整えて、ブリジットがカーテンを出て
「お待たせしました」
と声を掛けた。
ほ、ほんとに殿下がそこにおられるのね…
アンリが天蓋から吊るされたカーテンを開けていく。
ベッドの足元の方の窓の前にグレイが立っていた。
窓からの光で顔が良く見えないけれど、髪が光に反射して紫に光っている。
ブリジットとアンリが出て行き、部屋にはイライザとグレイだけになる。もちろん扉は開けたままだが、二人きりだと認識すると、ドッドッドッとイライザの心臓が鳴った。
「イライザ」
グレイがベッドに近付いて来て、真剣な表情がイライザの眼に映る。
「ベッドの上で、不調法で申し訳ありません」
イライザが頭を下げると、グレイが申し訳なさそうな表情になった。
「目が覚めたばかりなんだ。気にする事はない」
「ありがとうごさいます」
「それに…謝るのは俺の方だ」
そう言うと、グレイはベッドの傍らに跪いた。
「イライザ!待って!」
ハッと目を開けると、見慣れたベッドの天蓋が見えた。
…ん?
この感じ、覚えがある。私が初めて目覚めた時もこんな感じだったな。
と言う事は、ここは王都のフォスター侯爵家のイライザの部屋なのね。
あの時は天蓋から降りてるカーテンを開けてアンリが顔を覗かせたっけ。きっとまたアンリが私の声を聞きつけて声を掛けて来る筈だわ。
イライザがぼんやりと考えていると、カーテンの向こうから声がした。
「イライザ」
ドックンッ!
ショックで止まるかと思う程、心臓が跳ねる。
「……」
この声。ありえない。何で!?
イライザは声も出せずにパクパクと口を開け閉めした。
ででで殿下の声。
空耳?似た声色?ううん。私が殿下の声を聞き間違える訳がない。
何で私の部屋に殿下が居るの!?
「イライザ?目が覚めたのか?開けても?」
「ひぃ!」
思わず悲鳴に似た声が出た。
待って。ね…寝起きって…一番見られたくない顔じゃない!?
「お待ちください。流石に起き抜けの姿を異性に晒すのは…」
あ、ブリジットの声だわ!
さすが女子!良くわかってる!
「私が様子を見ますので、少しお待ちください」
そう言うと、カーテンを開けてブリジットが顔を出す。
「ブリジット…」
カーテンが開いた事により見える範囲にはグレイの姿はなく、イライザはホッと息を吐いた。
「姉様、気分はどう?」
心配そうなブリジットの表情に、多分階段から落ちて一週間目が覚めなかった時のブリジットはこんな心配そうな表情はしなかったんだろうな、とイライザは思う。
「…大混乱中よ」
眉を顰めてイライザが言うと、ブリジットは
「思ったより大丈夫そうね」
と少し微笑んだ。
「起きられそう?とりあえずアンリを呼ぶわ」
「うん」
ブリジットが寝室から続く部屋で待機しているアンリを呼びに行く。
イライザは起きあがろうとするが、ものすごく身体が重くて腕に力が入らなかった。
「お嬢様!」
戻って来たブリジットに続いてアンリが手に小さな籠を持ってカーテンの中に入って来る。
「アンリ、久しぶりね」
敢えて明るくイライザが言うと、アンリは瞳を潤ませながら籠をベッドの端に置いた。
「お嬢様ったらもう…」
そう言いながらイライザの背中に手を入れて起き上がらせると、寄りかかれるように背中にクッションを入れていく。
「心配かけてごめんね」
「本当ですよ」
泣き笑いのアンリは座らせたイライザの顔を籠から取り出した濡らした手巾で手早く拭くと、髪を梳いた。
髪を整えられながら、イライザはブリジットへ視線を送る。
ブリジットと目が合うと、小さく手招きして口の横へ手を当てた。内緒話がしたいというジェスチャーだ。
ブリジットがイライザに近付いて、口元へ耳を寄せる。
「…どうして殿下が?」
小声で言うと、ブリジットは首を傾げた。
「『謝りたい』と仰ってたけど…」
「何を?」
「さあ?ただ…姉様が王都に戻ってから毎日来られてるのよ」
毎日?
って、あれから何日経ってるんだろう?
王家の保養地から王都まで馬車で二日かかるから、少なくともそれ以上なんだろうけど。
「毎日って…何日?」
「八日よ」
「…は!?」
思わず声が出て、イライザは慌てて自分の口を両手で押さえた。腕も重くていつもより随分のろのろとした動きではあったが。
「姉様が湖に落ちてから今日で十二日経つの。エドモンド殿下も毎日ではないけれど来られてるわ。でもグレイ殿下は毎日。もちろん朝から晩までって訳ではないけど」
「……」
イライザは口を押さえたままでコクコクと頷く。
そりゃあ朝から晩までベッタリここにおられる訳はないだろうけど、毎日は毎日なのね。
一体何をそんなに謝りたいんだろう…?
支度を整えて、ブリジットがカーテンを出て
「お待たせしました」
と声を掛けた。
ほ、ほんとに殿下がそこにおられるのね…
アンリが天蓋から吊るされたカーテンを開けていく。
ベッドの足元の方の窓の前にグレイが立っていた。
窓からの光で顔が良く見えないけれど、髪が光に反射して紫に光っている。
ブリジットとアンリが出て行き、部屋にはイライザとグレイだけになる。もちろん扉は開けたままだが、二人きりだと認識すると、ドッドッドッとイライザの心臓が鳴った。
「イライザ」
グレイがベッドに近付いて来て、真剣な表情がイライザの眼に映る。
「ベッドの上で、不調法で申し訳ありません」
イライザが頭を下げると、グレイが申し訳なさそうな表情になった。
「目が覚めたばかりなんだ。気にする事はない」
「ありがとうごさいます」
「それに…謝るのは俺の方だ」
そう言うと、グレイはベッドの傍らに跪いた。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
転生令嬢と王子の恋人
ねーさん
恋愛
ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件
って、どこのラノベのタイトルなの!?
第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。
麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?
もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?
没落令嬢は僻地で王子の従者と出会う
ねーさん
恋愛
運命が狂った瞬間は…あの舞踏会での王太子殿下の婚約破棄宣言。
罪を犯し、家を取り潰され、王都から追放された元侯爵令嬢オリビアは、辺境の親類の子爵家の養女となった。
嫌々参加した辺境伯主催の夜会で大商家の息子に絡まれてしまったオリビアを助けてくれたダグラスは言った。
「お会いしたかった。元侯爵令嬢殿」
ダグラスは、オリビアの犯した罪を知っていて、更に頼みたい事があると言うが…
クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜
アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。
そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。
とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。
主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────?
「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」
「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」
これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
シスコン婚約者の最愛の妹が婚約解消されました。
ねーさん
恋愛
リネットは自身の婚約者セドリックが実の妹リリアをかわいがり過ぎていて、若干引き気味。
シスコンって極めるとどうなるのかしら…?
と考えていた時、王太子殿下が男爵令嬢との「真実の愛」に目覚め、公爵令嬢との婚約を破棄するという事件が勃発!
リネット自身には関係のない事件と思っていたのに、リリアの婚約者である第二王子がリネットに…
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる