39 / 79
38
しおりを挟む
38
「ブリジット!これ見て」
草むらにしゃがみ込んでいたマリアンヌは、満面の笑みで立ち上がると、大きな木の側で日傘を差してシートに座っているブリジットに手招きをした。
「何?」
ブリジットは立ち上がると、マリアンヌに近付く。
「この花はね雪が降り積もる寒い土地が主な生息地なの。ここで見られるなんて珍しいわ」
マリアンヌの足元に、小さくて白い花が三輪咲いていた。小さな蕾も何個か見える。
「かわいい。王都にはないの?」
「王都は暖かいから育たないのよ。ね、かわいいわよね」
ニコニコ笑いながらまたしゃがみ込んで白い花を眺めるマリアンヌ。
「ねぇマリアンヌって昔はこんなに園芸好きじゃなかったわよね?」
ブリジットが花を見て微笑むマリアンヌの後ろに立ち、首を傾げた。
「そうね」
花に視線を向けたままマリアンヌが頷く。
「マリアンヌ、ブリジット。ここにいたんだね」
ガサガサと草を鳴らして、林の中からロイとワイゼルが現れた。
ワイゼル・ゲイディスはロイと同じ歳の伯爵令息。ロイとはクラスが違うが園芸部で仲良くなり、将来はロイの側近になると目されているのだ。
ワイゼルが小さな鉢を何個か乗せたトレイを両手で持っている。それを見たマリアンヌは立ち上がると嬉しそうにロイとワイゼルの方へ歩み寄った。
「ロイ殿下、ワイゼル様、これは王都に持ち帰る鉢ですか?」
「ああ。マリアンヌも何か持って帰りたい植物があるかい?」
「あります!いいんですか!?」
「もちろん」
嬉しそうなマリアンヌと、ロイ殿下、穏やかな微笑みを浮かべて二人を見るワイゼル様。
何だか上手く表現できないけど、何だか「しっくりくる」感じ。
ブリジットは少し離れた所からマリアンヌを見る。
「ブリジットは、楽しいかな?」
「え?」
ロイに話し掛けられ、ブリジットはマリアンヌからロイに視線を移して三人に近付いた。
「いや…僕たちは兄上やエドモンドたちのように街へ出たり、観劇に行ったり、ボート遊びをしたりしていないから、ブリジットは退屈なんじゃないかな、と…」
確かに、ロイたちは連日こうして植物観察と採集や、保養所の庭の手入れや植栽などをしていて、遊びらしい遊びはしていないのだ。
「いえ。姉に付いて街へ行ったりもしましたし、マリアンヌと一緒に景色を見たりも楽しいですし、退屈などしておりません」
「それなら良かった」
「お気遣いありがとうございます」
ニコリと笑い合うブリジットとロイ。
そんな二人をマリアンヌが見ている。
「マリアンヌ様はどんな植物を王都に持って帰りたいんですか?」
ワイゼルが言うと、マリアンヌはハッとしたようにワイゼルに視線を移した。
「湖の近くに芍薬が咲いていて…色が綺麗だったので持って帰れたらなあと」
「花は王都に着くまでに枯れてしまうのではないかな?」
ロイがそう言うと、マリアンヌは首を横に振る。
「いえ、株を。家の庭で咲かせたいんです」
その芍薬、マリアンヌと一緒に見たわ。
紫で、グレイ殿下やロイ殿下の髪の色みたいってマリアンヌと話した…あの花を家に持ち帰りたいって事は、マリアンヌはロイ殿下の事を…
ワイゼル様は私とロイ殿下が話してると、さっきみたいにさり気なくロイ殿下の気を引くようにマリアンヌに話を振ってるのよね。つまりワイゼル様はマリアンヌがロイ殿下を好きなのに気付いてて、マリアンヌを応援してるって事なのかしら。
「ワイゼル様」
ブリジットが小声でワイゼルに話し掛けると、ワイゼルはロイとマリアンヌには気付かれないように目線だけでブリジットに応えた。
「その芍薬…何色だと思います?」
ブリジットも視線はマリアンヌの方に向けたまま小声で言うと、ワイゼルはほんの少し片眉を上げる。
「紫」
ブリジットは「当たり」と言う代わりにニッコリと笑った。
「ねえ、マリアンヌ。芍薬の花って色々な色があるわよね?」
マリアンヌに向かって言うと、マリアンヌは小さく首を傾げる。
「え?そうね。色々あるわね」
「緑色の花ってあるのかしら?」
「あるわよ」
「私はそれを庭に植えたいわ。私の好きな人の瞳が緑色なの」
ブリジットは両手を合わせて嬉しそうに言った。
今夜はマリアンヌにお兄様の事を話そう。そしてマリアンヌからもロイ殿下の事を聞こうっと。
「好きな、人…」
ロイが呆然としてブリジットを眺めて呟くと、ワイゼルが無言でロイの肩に手を置いてポンポンと慰めるように叩いた。
「ブリジット!これ見て」
草むらにしゃがみ込んでいたマリアンヌは、満面の笑みで立ち上がると、大きな木の側で日傘を差してシートに座っているブリジットに手招きをした。
「何?」
ブリジットは立ち上がると、マリアンヌに近付く。
「この花はね雪が降り積もる寒い土地が主な生息地なの。ここで見られるなんて珍しいわ」
マリアンヌの足元に、小さくて白い花が三輪咲いていた。小さな蕾も何個か見える。
「かわいい。王都にはないの?」
「王都は暖かいから育たないのよ。ね、かわいいわよね」
ニコニコ笑いながらまたしゃがみ込んで白い花を眺めるマリアンヌ。
「ねぇマリアンヌって昔はこんなに園芸好きじゃなかったわよね?」
ブリジットが花を見て微笑むマリアンヌの後ろに立ち、首を傾げた。
「そうね」
花に視線を向けたままマリアンヌが頷く。
「マリアンヌ、ブリジット。ここにいたんだね」
ガサガサと草を鳴らして、林の中からロイとワイゼルが現れた。
ワイゼル・ゲイディスはロイと同じ歳の伯爵令息。ロイとはクラスが違うが園芸部で仲良くなり、将来はロイの側近になると目されているのだ。
ワイゼルが小さな鉢を何個か乗せたトレイを両手で持っている。それを見たマリアンヌは立ち上がると嬉しそうにロイとワイゼルの方へ歩み寄った。
「ロイ殿下、ワイゼル様、これは王都に持ち帰る鉢ですか?」
「ああ。マリアンヌも何か持って帰りたい植物があるかい?」
「あります!いいんですか!?」
「もちろん」
嬉しそうなマリアンヌと、ロイ殿下、穏やかな微笑みを浮かべて二人を見るワイゼル様。
何だか上手く表現できないけど、何だか「しっくりくる」感じ。
ブリジットは少し離れた所からマリアンヌを見る。
「ブリジットは、楽しいかな?」
「え?」
ロイに話し掛けられ、ブリジットはマリアンヌからロイに視線を移して三人に近付いた。
「いや…僕たちは兄上やエドモンドたちのように街へ出たり、観劇に行ったり、ボート遊びをしたりしていないから、ブリジットは退屈なんじゃないかな、と…」
確かに、ロイたちは連日こうして植物観察と採集や、保養所の庭の手入れや植栽などをしていて、遊びらしい遊びはしていないのだ。
「いえ。姉に付いて街へ行ったりもしましたし、マリアンヌと一緒に景色を見たりも楽しいですし、退屈などしておりません」
「それなら良かった」
「お気遣いありがとうございます」
ニコリと笑い合うブリジットとロイ。
そんな二人をマリアンヌが見ている。
「マリアンヌ様はどんな植物を王都に持って帰りたいんですか?」
ワイゼルが言うと、マリアンヌはハッとしたようにワイゼルに視線を移した。
「湖の近くに芍薬が咲いていて…色が綺麗だったので持って帰れたらなあと」
「花は王都に着くまでに枯れてしまうのではないかな?」
ロイがそう言うと、マリアンヌは首を横に振る。
「いえ、株を。家の庭で咲かせたいんです」
その芍薬、マリアンヌと一緒に見たわ。
紫で、グレイ殿下やロイ殿下の髪の色みたいってマリアンヌと話した…あの花を家に持ち帰りたいって事は、マリアンヌはロイ殿下の事を…
ワイゼル様は私とロイ殿下が話してると、さっきみたいにさり気なくロイ殿下の気を引くようにマリアンヌに話を振ってるのよね。つまりワイゼル様はマリアンヌがロイ殿下を好きなのに気付いてて、マリアンヌを応援してるって事なのかしら。
「ワイゼル様」
ブリジットが小声でワイゼルに話し掛けると、ワイゼルはロイとマリアンヌには気付かれないように目線だけでブリジットに応えた。
「その芍薬…何色だと思います?」
ブリジットも視線はマリアンヌの方に向けたまま小声で言うと、ワイゼルはほんの少し片眉を上げる。
「紫」
ブリジットは「当たり」と言う代わりにニッコリと笑った。
「ねえ、マリアンヌ。芍薬の花って色々な色があるわよね?」
マリアンヌに向かって言うと、マリアンヌは小さく首を傾げる。
「え?そうね。色々あるわね」
「緑色の花ってあるのかしら?」
「あるわよ」
「私はそれを庭に植えたいわ。私の好きな人の瞳が緑色なの」
ブリジットは両手を合わせて嬉しそうに言った。
今夜はマリアンヌにお兄様の事を話そう。そしてマリアンヌからもロイ殿下の事を聞こうっと。
「好きな、人…」
ロイが呆然としてブリジットを眺めて呟くと、ワイゼルが無言でロイの肩に手を置いてポンポンと慰めるように叩いた。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

婚約破棄された悪役令嬢ですが、訳あり騎士団長様に溺愛されます
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは、婚約者であるラインハルト王太子から突然の婚約破棄を言い渡される。しかもその理由は、王宮に仕える公爵令嬢リリアナへの乗り換え――クロエが彼女をいじめたという濡れ衣まで着せられていた。
「こんな女とは結婚できない!」
社交界の前で冷たく言い放つラインハルト。しかしクロエは、涙を流すこともなく、その言葉を静かに受け入れた。――むしろ、これは好機だとさえ思った。
(こんな裏切り者と結婚しなくて済むなんて、むしろ嬉しいわ)
だが、父である侯爵家はこの騒動の責任を取り、クロエを国外追放すると決めてしまう。信じていた家族にまで見捨てられ、すべてを失った彼女は、一人で王都を去ろうとしていた。
そんな彼女の前に現れたのは、王国最強と名高い騎士団長、セドリック・フォン・アイゼンだった。冷酷無慈悲と恐れられる彼は、クロエをじっと見つめると、思いがけない言葉を口にする。
「……お前、俺の妻になれ」
冷たい瞳の奥に宿るのは、確かな執着と、クロエへの深い愛情。彼の真意を測りかねるクロエだったが、もう行く場所もない。
こうして、婚約破棄された悪役令嬢クロエは、訳ありな騎士団長セドリックの元へと嫁ぐことになったのだった――。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる