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「こっちは華やかだけど、あっちは…明らかにおかしいな」
 ボートのオールを漕ぎながらエドモンドが言う。
 こっちと言った時の視線の先には、エドモンドと向かい合うようにボートの座席に座るイライザとディアナ。あっちと言った時の視線の先には、少し離れた湖面に浮かぶ手漕ぎボートが一艘。
 そこにはオールを持つアレックスと、アレックスと向かい合って座っているグレイとミアが見えた。
 その向こうにはジェフリーとナタリアが二人で乗るボートが見える。
 うん。ジェフリー様とナタリア様のボートが本来あるべき姿よね。
 なのにミアのボートは男二人に女一人。確かに明らかにバランスがおかしいわ。
「そう…ですね…」
 日傘を差したディアナが気不味そうに言う。
「私、どうしてもディアナ様とボートに乗りたくて。ディアナ様もエドモンド殿下も私のわがままで済みません」
 つばの大きな帽子を被るイライザがそう言うと、ディアナが眉を寄せて苦笑いを浮かべた。
「俺は構わないよ。美女を二人も乗せられてむしろ役得だしね」
 エドモンドはニッコリと笑う。
 ディアナは日傘を傾けてアレックスたちのボートの方からの視線を遮りつつ、日傘の陰からアレックスの方をチラチラと見ていた。

 イライザも帽子を直す振りをしながらミアを見る。
 ミアの帽子の向こうに紫色の髪の毛が見えるが、イライザはそれをなるべく見ないよう、ミアだけを視界に入れようと努力した。
 それでもミアがグレイの方を見て、グレイもミアの方を見ているのがわかる。
 二人は見つめ合っているようで、そんな様子にイライザの胸はザワザワと騒めいた。
「イライザ」
 エドモンドに名前を呼ばれてハッとしてエドモンドの方を見るイライザ。
「向こうの島まで行ってみようか」
 エドモンドは微笑んでエドモンドの背中側にある小さな島を示して言う。
「遠くないですか?」
「大丈夫。すぐだよ。どう?ディアナ嬢」
「行ってみたいです」
 ディアナも微笑む。
 ディアナ様は多分、アレックス様のボートから離れたいんだと思う。私も、ミアの…ううん殿下のボートから離れたいし。
「じゃあ行きましょう!」
 イライザは敢えて明るい声を出した。

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 朝食後の東屋で、俯くディアナにイライザは問う。
「ディアナ様、アレックス様と二人きりになりたくないって…」
「…アレックス様は親が決めた婚約者だわ。でも、私、確かにアレックス様を好きで、婚約者がアレックス様で良かったと…そう思っていたの。なのに、最近…アレックス様をお慕いする気持ちが……」
 俯くディアナが苦し気に言うと、イライザの胸がズキンッと痛んだ。
 …赤い糸を切られたせいだわ。
「アレックス様も、私を想ってくださっていた筈。でも…何かが違うの。私が変わったせいなのか、アレックス様が変わったせいなのかはわからない。ただ…今はアレックス様と一緒にいるのが辛いの」
 ディアナの腿の上にパタパタと涙が落ちた。
 
 今はまだアレックス様の手首にも赤い糸は見えないけど、エレノーラ様とアレックス様の赤い糸が結ばれてしまったら…
「わかりました。ボート、一緒に乗りましょう!」
 イライザは両手でディアナの手を取り、ぎゅっと握る。
「イライザ様…」
「頑張って漕ぎます!」
「え?イライザ様が漕ぐの?」
「ボート、進まないかも知れませんけど…」
 涙で潤んだ目を見開くディアナは、イライザを見ながら「ふふっ」と微笑んだ。

 ディアナ様は私が「悪役令嬢」だった時でも私を遠ざけたりせずに、私が殿下を好きな気持ちも尊重してくださったわ。
 もちろんミアに対する意地悪は嗜められたけど…
 ミアが私を挑発するために、ディアナ様の幸せが奪われるなんて許されない。

 ミアと対峙するのは本当に嫌だけど、とにかくミアに、ディアナ様とアレックス様の赤い糸を繋ぎ直す方法があるのかないのか、聞かなくちゃ。
 でもミアが私を誘うのは、私に虐められる様子を誰かに見せるためだから、ギャラリーがいないと成り立たないのよね。だから本当の意味で二人だけになる事って実はあんまりないから…ミアにとって一番のギャラリーは殿下だろうし、でも殿下に近寄りたくはないし…うーん、どうしよう。









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