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「咄嗟でしたので。分を弁えず申し訳ありませんでした。とりあえず花壇を荒らした事を謝りに行った方が良いのではないですか?」
 感情の籠らない声でブリジットと呼ばれた令嬢が言う。
「い、嫌よ!私は雑草と勘違いしただけだわ!」
「私もよ。謝りたいなら貴女が勝手に謝れば良いじゃない!」
 慌ててそう言うと、二人の令嬢が小走りでロイのいる方へ走って来た。
 おっと。
 ロイは二人に見つからないようにバラの垣根の影へ隠れる。

「仕方ないですね。私、庭師を訪ねて謝罪します」
 ブリジットの声。
「わ…私も、行きます」
 もう一人の女の子の声。

 二人もロイの隠れているバラの垣根の側を通った。
 ロイは通り過ぎる二人を影から見る。
 茶色の巻き髪にヘーゼルの瞳の意志の強そうな女の子が真っ直ぐ前を見ながら歩いて行き、向こう側に並んで薄茶色の髪の女の子が見えた。
 あのが、ブリジットか。

-----

「それで、僕は急いで先回りして庭師に『女の子が二人謝罪に来たら快く許すと言っておいて』と頼んだんですよ」
 ロイがブリジットに好意を持ったきっかけを話し終えると、グレイとエドモンドは「なるほど」と頷いた。
「その話だと、ブリジット嬢はその花壇がロイの花壇だとは知らないんだよな?今も知らないままなのか?」
 エドモンドがふと気付いたように言う。
「そうです」
「それで、その後ブリジット嬢と親しくなったんだな」
「いえ…あまり親しくは…」
 ロイが言い淀むと、エドモンドはあんぐりと口を開けた。
「は?それでファーストダンスを申し込む気だったのか?」
「ゔっ」
 エドモンドが呆れたように言うと、ロイは言葉に詰まった。

「…それはさすがに先走り過ぎたと自分でも思いますけど…でも、ブリジットはイライザ嬢の妹なんですよ。ブリジットが兄上の婚約者候補に上がっていたイライザ嬢の妹だと知った時の僕の絶望的な気持ちがわかりますか?でもイライザ嬢はミア嬢を虐めて、兄上に付き纏って、兄上に嫌われているから、その妹と僕が、なんて無理ですし、逆にもしもイライザ嬢が兄上と婚約するなら尚更です。どちらにしても、ブリジットと僕が親しくなったとして、そのがなかったんです。だから敢えて親しくならないようにしていたんです!」
 ロイは一気にそう言うと、悔しそうに俯く。
「ロイ…」
 グレイがそんな弟を見て眉を下げた。
「イライザがミア嬢を虐めて、グレイに付き纏っていたと俺も色々な処から聞いたが、本当なのか?俺の知るイライザは理不尽に人を虐めたりはしなさそうなんだが…」
 エドモンドが言うと、グレイはエドモンドを軽く睨む。
「本当だ。エドも見ただろう?イライザが何もしていないミアの頬を打ったのを」
「俺はイライザがミア嬢たちの方へ走って行く所からしか見ていない。その前に何かきっかけがあったのかどうかはわからないな」
 肩を竦めるエドモンド。
「しかし、ミアは泣いて…」
「イライザだって泣いていたじゃないか」
 そうだ。イライザも泣いていた。
 あのイライザが人前で泣くなんて…

「兄上」
 ロイが姿勢を正してグレイの方を見た。
「……」
「兄上はミア嬢と…いえ、この先兄上がイライザ嬢と婚約する事はないと、僕は思って良いのでしょうか?イライザ嬢はエドモンドへ…隣国へ嫁ぐと。その確約がいただけるなら、僕は本気でブリジットを口説きます」
「……」
 俺とイライザが婚約…いや、それはない。
 しかし、イライザがエドと結婚すると言うのは…
 グレイは自分の前髪を掻き上げた。
「グレイがどう思っていようと、俺はイライザを娶るけどね。まあでも、この間イライザを連れ去ったグレイと、今日のイライザへ冷淡に接するグレイが俺の中で同一人物だと思えない奇妙な気持ち悪さがある」
「あ、それ、僕もわかります。結局兄上はミア嬢を好きなのか、本当にイライザ嬢を嫌いなのか、見ていてどちらも確信が持てないような感じがします」
 エドモンドが腕を組んで言う。
 ロイも頷きながら言った。

 俺がミアを好きなのか、本当にイライザを嫌いなのか、か。
 正直に言えば…
 ふう。とグレイは息を吐くと、もう一度前髪を掻き上げる。
「…実は、自分でもわからないんだ」
 グレイは自分の膝の上で両手を組み合わせて言った。








 
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