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「ミア!!」
名前を叫びながらミアとディアナ、アレックスに駆け寄るイライザ。
「イライザ様?」
「イライザ嬢?」
ディアナとアレックスが振り向いた。
イライザは無言でアレックスの手首を掴む。
「イライザ嬢!?」
あ、手袋!
アレックス様、舞踏会だから手袋してる!
素肌!出てる所!
あ、顔!
手袋を脱がせてる暇はない。イライザは頭突きをする勢いで、自分の額をアレックスの頬にぶつけた。
「なっ!?」
「イライザ様!?」
イライザの身体がピンクの光に包まれる。
困惑するアレックスとディアナに頓着せず、イライザはアレックスの手首を見た。
薄っすらと、ディアナの手首と繋がっているリボンが見えて…
…消えた。
ああ。間に合わなかった。
「ミア!」
イライザはミアをキッと睨む。
「……」
黙って顔を下に向けているミアの、口角が上がっている事に気が付いたのは、きっとイライザだけだったろう。
「!」
パアンッ!
舞踏会の会場である学園の講堂に乾いた音が響く。
イライザたちの騒ぎに注目していた生徒たちは、振り下ろした手を震わせるイライザと、イライザの前に膝をついて頬を押さえるミアの姿にどよめいた。
「何て事を…!」
イライザが震える声で怒鳴る。
ミアは頬を押さえた手に隠して密かに口角を上げた。
「イライザ様!?どうしたの!?」
ディアナがイライザの手を押さえる。
「痛たぁい。イライザ様、いきなり叩くなんて酷いです」
ミアが目を潤ませてイライザを見上げた。
「とぼけないで!」
「私が何をしたって言うんですかぁ」
ポロポロと涙を流すミア。
「とぼけても無駄よ!私にはわかってるんだから!戻しなさいよ!早く!」
「戻すって何をですかぁ?」
「イライザ様!」
ミアに掴みかからんとするイライザをディアナが止めようとする。
「放して!」
イライザがディアナの腕を振り解くと、ディアナはよろけてアレックスにぶつかった。
「きゃ!」
「ディアナ」
ディアナを受け止めたアレックス。
「あ…」
我に返ったイライザはディアナとアレックスを見た。
「大丈夫か?ディアナ」
「はい。アレックス様」
ディアナとアレックスは顔を見合わせる。
「……」
「……」
そして、ディアナは小さく首を傾げ、アレックスは眉を顰めた。
やっぱり。
イライザはミアを睨む。
「イライザ様、怖ぁい」
怯えた様子のミア。
「この…!」
イライザがまた手を振り上げると、ビクリと身を震わせたミアは顔を俯け…ニヤリと笑った。
「やめろ」
静かな声がして、男性の手がイライザの手を後ろから握って止める。
「邪魔しないで!」
イライザが振り向くと、イライザの手を握っていたのはグレイだった。
「フォスター嬢、やめろと言っている」
無表情なグレイ。
「…グレイ殿下」
「名を呼ぶな」
「!」
グレイの冷たい声に、イライザは息を飲んだ。
グレイはイライザの手を放すと、ミアへと近付く。
「大丈夫か?ミア」
跪いて、ミアへ手を差し出すグレイ。
「グレイさまぁ。私、何もしていないのにイライザ様が突然…」
ミアはグレイに抱きつくと泣き出した。
「ああ、わかっている」
グレイはポンポンとミアの背中を叩く。
「……っ」
グレイに抱きつくミアと、ミアの背中を撫でるグレイ。
…やっぱり。
この間のグレイ殿下の言動は何かの間違いで、これが本当なんだ。
でも…一瞬でも期待した後、こんな風に現実を見せられるくらいなら、名前を呼ばないで欲しかった。頬に触れたりしないで欲しかったな。
「イライザ様…」
立ち竦むイライザにディアナが声を掛ける。
「…ディアナ様…ごめんなさい」
イライザはドレスのスカートをギュッと握って小声で言った。
「え?」
ごめんなさい。
ミアを止められなくて。
イライザの金の瞳が揺れて、涙がボロボロと流れる。
踵を返すと、イライザは講堂の出入口へと駆け出した。
「イライザ様!?」
背中にディアナの声。
ディアナ様とアレックス様を繋いでいた赤い糸が切られて、消えてしまった。
周りを取り囲んでイライザたちを見ていた生徒たちは、泣きながら走っているイライザへ道を開けながらザワザワと騒めいている。
「泣いていたな」
「ああ。イライザ・フォスターが泣く処なんて初めて見た」
「ミア様が何かしたのかしら?」
「何かしたようには見えなかったわ」
「いつもの虐めだろ?」
「ミア様かわいそうに…」
「でも…殿下が止めに入る前、あの娘…笑ってなかった?」
「ええ?」
「本当に?滅多な事を言うものじゃないぞ?」
「そりゃあ一瞬だし、確信はないけど…」
ヒソヒソと交わされる会話。
「……」
その側に立っていたエドモンドは、黙って講堂を出て行った。
「ミア!!」
名前を叫びながらミアとディアナ、アレックスに駆け寄るイライザ。
「イライザ様?」
「イライザ嬢?」
ディアナとアレックスが振り向いた。
イライザは無言でアレックスの手首を掴む。
「イライザ嬢!?」
あ、手袋!
アレックス様、舞踏会だから手袋してる!
素肌!出てる所!
あ、顔!
手袋を脱がせてる暇はない。イライザは頭突きをする勢いで、自分の額をアレックスの頬にぶつけた。
「なっ!?」
「イライザ様!?」
イライザの身体がピンクの光に包まれる。
困惑するアレックスとディアナに頓着せず、イライザはアレックスの手首を見た。
薄っすらと、ディアナの手首と繋がっているリボンが見えて…
…消えた。
ああ。間に合わなかった。
「ミア!」
イライザはミアをキッと睨む。
「……」
黙って顔を下に向けているミアの、口角が上がっている事に気が付いたのは、きっとイライザだけだったろう。
「!」
パアンッ!
舞踏会の会場である学園の講堂に乾いた音が響く。
イライザたちの騒ぎに注目していた生徒たちは、振り下ろした手を震わせるイライザと、イライザの前に膝をついて頬を押さえるミアの姿にどよめいた。
「何て事を…!」
イライザが震える声で怒鳴る。
ミアは頬を押さえた手に隠して密かに口角を上げた。
「イライザ様!?どうしたの!?」
ディアナがイライザの手を押さえる。
「痛たぁい。イライザ様、いきなり叩くなんて酷いです」
ミアが目を潤ませてイライザを見上げた。
「とぼけないで!」
「私が何をしたって言うんですかぁ」
ポロポロと涙を流すミア。
「とぼけても無駄よ!私にはわかってるんだから!戻しなさいよ!早く!」
「戻すって何をですかぁ?」
「イライザ様!」
ミアに掴みかからんとするイライザをディアナが止めようとする。
「放して!」
イライザがディアナの腕を振り解くと、ディアナはよろけてアレックスにぶつかった。
「きゃ!」
「ディアナ」
ディアナを受け止めたアレックス。
「あ…」
我に返ったイライザはディアナとアレックスを見た。
「大丈夫か?ディアナ」
「はい。アレックス様」
ディアナとアレックスは顔を見合わせる。
「……」
「……」
そして、ディアナは小さく首を傾げ、アレックスは眉を顰めた。
やっぱり。
イライザはミアを睨む。
「イライザ様、怖ぁい」
怯えた様子のミア。
「この…!」
イライザがまた手を振り上げると、ビクリと身を震わせたミアは顔を俯け…ニヤリと笑った。
「やめろ」
静かな声がして、男性の手がイライザの手を後ろから握って止める。
「邪魔しないで!」
イライザが振り向くと、イライザの手を握っていたのはグレイだった。
「フォスター嬢、やめろと言っている」
無表情なグレイ。
「…グレイ殿下」
「名を呼ぶな」
「!」
グレイの冷たい声に、イライザは息を飲んだ。
グレイはイライザの手を放すと、ミアへと近付く。
「大丈夫か?ミア」
跪いて、ミアへ手を差し出すグレイ。
「グレイさまぁ。私、何もしていないのにイライザ様が突然…」
ミアはグレイに抱きつくと泣き出した。
「ああ、わかっている」
グレイはポンポンとミアの背中を叩く。
「……っ」
グレイに抱きつくミアと、ミアの背中を撫でるグレイ。
…やっぱり。
この間のグレイ殿下の言動は何かの間違いで、これが本当なんだ。
でも…一瞬でも期待した後、こんな風に現実を見せられるくらいなら、名前を呼ばないで欲しかった。頬に触れたりしないで欲しかったな。
「イライザ様…」
立ち竦むイライザにディアナが声を掛ける。
「…ディアナ様…ごめんなさい」
イライザはドレスのスカートをギュッと握って小声で言った。
「え?」
ごめんなさい。
ミアを止められなくて。
イライザの金の瞳が揺れて、涙がボロボロと流れる。
踵を返すと、イライザは講堂の出入口へと駆け出した。
「イライザ様!?」
背中にディアナの声。
ディアナ様とアレックス様を繋いでいた赤い糸が切られて、消えてしまった。
周りを取り囲んでイライザたちを見ていた生徒たちは、泣きながら走っているイライザへ道を開けながらザワザワと騒めいている。
「泣いていたな」
「ああ。イライザ・フォスターが泣く処なんて初めて見た」
「ミア様が何かしたのかしら?」
「何かしたようには見えなかったわ」
「いつもの虐めだろ?」
「ミア様かわいそうに…」
「でも…殿下が止めに入る前、あの娘…笑ってなかった?」
「ええ?」
「本当に?滅多な事を言うものじゃないぞ?」
「そりゃあ一瞬だし、確信はないけど…」
ヒソヒソと交わされる会話。
「……」
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