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「ハンナ、これを届けておいて」
自分の部屋にハンナを呼んだイライザはドレスのデザイン画を渡した。
「畏まりました」
両手で紙を受け取るハンナの手首から伸びる赤い糸。
「ねえハンナ、好きな人を好きじゃなくなる方法があるって聞いたら、ハンナは試す?」
「…え?」
ハンナが目を見開いてイライザを見る。
「好きな人を諦められないのって…辛くて苦しいから…」
イライザは自分の事を話しているかのようにため息混じりに言う。いや、実際それはイライザ自身の事でもあったのだ。
「そう…ですね」
母のような年齢の侍女はイライザを見ながら呟く。
「ハンナなら試すかしら?」
「…ええ。私なら試してみると思いますわ。お嬢様」
「そう」
イライザはハンナの手首に手を伸ばし、手首から伸びるイライザにしか見えないリボンを手に平に乗せた。
「お嬢様?」
「おまじないみたいなものよ。ちょっと練習させて?」
「はあ…」
ハンナが首を傾げる。
イライザはリボン…赤い糸をギュッと握ると、心の中で
「切れろ」
と念じた。
すると、赤い糸がどんどん薄くなって、消えた。
「消えた…」
小声で呟く。
「お嬢様?」
首を傾げるハンナに、さっきまでと変わった様子はない。
イライザはニッコリとハンナに笑い掛けた。
「良い練習になったわ。ありがとう」
-----
昼休憩に久しぶりに小さな中庭を訪れたイライザは、ホッと息を吐きながら花壇の縁のレンガに座る。
やっぱり人が居ないのって落ち着く…今日の生徒会役員とエドモンド殿下や他の留学生との昼食会も本当は参加した方が良かったんだろうけど「私は生徒会役員じゃないので!」と逃れて来て良かったわ。
エドモンドが来て約一か月、クラスも同じ、席も隣りになったイライザは、寮と週末家に帰っている時以外、ほぼ全ての時間をエドモンドと行動を共にしていたので些か疲れているのだ。
静かで落ち着く場所でイライザが寛いでいると、校舎の角からロイが顔を出した。
「あ、イライザ嬢!」
「ロイ殿下?」
「やっと会えた。毎日イライザ嬢が来ていないか見ていて良かったな」
ロイはそう言いながらイライザの方へ歩いて来ると、イライザの隣に座った。
「…何ですか?私に用事が?」
「ブリジットの事」
「はあ」
ロイ殿下、マリアンヌ様と赤い糸が繋がってるのに、まだブリジットを好きなの?
最終的にマリアンヌと結ばれるってだけで、それまでの恋愛には赤い糸って影響しないものなのかな?
「再来週の舞踏会で…ブリジットをダンスに誘っても良いかな?」
学園では、春期の終わり、夏季休暇に入る前に舞踏会があり、冬期の終わりには卒業パーティーがあるので、貴族の令息令嬢は社交を学び、貴族でない者も貴族社会との繋がりを作ろうと励む場となる。
イライザがこの間家に戻った時に選んでいた宝飾品は、来週開催される舞踏会で身に付ける物なのだ。
「それは…ブリジットに直接申し込めば良いのでは…?」
「でもファーストダンスだよ?」
「え!?」
ファーストダンスの相手は婚約者とか恋人とかだから、逆にブリジットがロイ殿下とファーストダンスを踊ったら、ブリジットはロイ殿下の恋人だって周りに認識されるって事で…
でも第二王子にダンスに誘われたら侯爵令嬢の立場で断るのは難しいかも。いくら一生徒同士だって言っても学園内の平等なんて建前だし。
「イライザ嬢がエドモンドとファーストダンスを踊るなら、そうだと認識されるから、僕がブリジットを誘っても良いかなあって」
「え?私ですか!?いえいえいえ、ファーストダンスなんて踊りませんよ?」
「でもエドモンドは誘う気満々だったよ」
「…週末にそんな話してるんですか?」
もちろんエドモンドも寮に入っているが、留学生であり国賓でもあるため、滞在先は王宮であり、週末や長期休暇にはグレイやロイと一緒に過ごす事になる。
歳が近い王子たちは兄弟か従兄弟かのように仲良くなっているのだ。
「うん。でもこの話をした時は兄上はいなかったけどね」
「…そうですか」
去年ミアが学園に入って来てから、舞踏会と卒業パーティーがあったけど、グレイ殿下はどちらもファーストダンスは踊られなかった。舞踏会では私も一曲踊っていただいたけど、卒業パーティーではダンスを拒否されたっけ…
「エドモンドに誘われたらイライザ嬢はどうするの?」
「ファーストダンスは断りますけど、それ以外なら誘われたら踊ります」
「うーん、じゃあ僕がブリジットを誘うのも駄目かなあ」
「私は断れますけど、普通は王子に申し込まれたら断りにくいんです。ですから言いにくいんですけど、ファーストダンスに誘うなら恋人同士にでもなってからにしてください」
「言いにくそうには見えないけど?」
ロイは苦笑いを浮かべる。
「妹とロイ殿下のために心を鬼にして言いにくい事を言ってるんです」
イライザはわざとツンッとしながら言った。
「ハンナ、これを届けておいて」
自分の部屋にハンナを呼んだイライザはドレスのデザイン画を渡した。
「畏まりました」
両手で紙を受け取るハンナの手首から伸びる赤い糸。
「ねえハンナ、好きな人を好きじゃなくなる方法があるって聞いたら、ハンナは試す?」
「…え?」
ハンナが目を見開いてイライザを見る。
「好きな人を諦められないのって…辛くて苦しいから…」
イライザは自分の事を話しているかのようにため息混じりに言う。いや、実際それはイライザ自身の事でもあったのだ。
「そう…ですね」
母のような年齢の侍女はイライザを見ながら呟く。
「ハンナなら試すかしら?」
「…ええ。私なら試してみると思いますわ。お嬢様」
「そう」
イライザはハンナの手首に手を伸ばし、手首から伸びるイライザにしか見えないリボンを手に平に乗せた。
「お嬢様?」
「おまじないみたいなものよ。ちょっと練習させて?」
「はあ…」
ハンナが首を傾げる。
イライザはリボン…赤い糸をギュッと握ると、心の中で
「切れろ」
と念じた。
すると、赤い糸がどんどん薄くなって、消えた。
「消えた…」
小声で呟く。
「お嬢様?」
首を傾げるハンナに、さっきまでと変わった様子はない。
イライザはニッコリとハンナに笑い掛けた。
「良い練習になったわ。ありがとう」
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昼休憩に久しぶりに小さな中庭を訪れたイライザは、ホッと息を吐きながら花壇の縁のレンガに座る。
やっぱり人が居ないのって落ち着く…今日の生徒会役員とエドモンド殿下や他の留学生との昼食会も本当は参加した方が良かったんだろうけど「私は生徒会役員じゃないので!」と逃れて来て良かったわ。
エドモンドが来て約一か月、クラスも同じ、席も隣りになったイライザは、寮と週末家に帰っている時以外、ほぼ全ての時間をエドモンドと行動を共にしていたので些か疲れているのだ。
静かで落ち着く場所でイライザが寛いでいると、校舎の角からロイが顔を出した。
「あ、イライザ嬢!」
「ロイ殿下?」
「やっと会えた。毎日イライザ嬢が来ていないか見ていて良かったな」
ロイはそう言いながらイライザの方へ歩いて来ると、イライザの隣に座った。
「…何ですか?私に用事が?」
「ブリジットの事」
「はあ」
ロイ殿下、マリアンヌ様と赤い糸が繋がってるのに、まだブリジットを好きなの?
最終的にマリアンヌと結ばれるってだけで、それまでの恋愛には赤い糸って影響しないものなのかな?
「再来週の舞踏会で…ブリジットをダンスに誘っても良いかな?」
学園では、春期の終わり、夏季休暇に入る前に舞踏会があり、冬期の終わりには卒業パーティーがあるので、貴族の令息令嬢は社交を学び、貴族でない者も貴族社会との繋がりを作ろうと励む場となる。
イライザがこの間家に戻った時に選んでいた宝飾品は、来週開催される舞踏会で身に付ける物なのだ。
「それは…ブリジットに直接申し込めば良いのでは…?」
「でもファーストダンスだよ?」
「え!?」
ファーストダンスの相手は婚約者とか恋人とかだから、逆にブリジットがロイ殿下とファーストダンスを踊ったら、ブリジットはロイ殿下の恋人だって周りに認識されるって事で…
でも第二王子にダンスに誘われたら侯爵令嬢の立場で断るのは難しいかも。いくら一生徒同士だって言っても学園内の平等なんて建前だし。
「イライザ嬢がエドモンドとファーストダンスを踊るなら、そうだと認識されるから、僕がブリジットを誘っても良いかなあって」
「え?私ですか!?いえいえいえ、ファーストダンスなんて踊りませんよ?」
「でもエドモンドは誘う気満々だったよ」
「…週末にそんな話してるんですか?」
もちろんエドモンドも寮に入っているが、留学生であり国賓でもあるため、滞在先は王宮であり、週末や長期休暇にはグレイやロイと一緒に過ごす事になる。
歳が近い王子たちは兄弟か従兄弟かのように仲良くなっているのだ。
「うん。でもこの話をした時は兄上はいなかったけどね」
「…そうですか」
去年ミアが学園に入って来てから、舞踏会と卒業パーティーがあったけど、グレイ殿下はどちらもファーストダンスは踊られなかった。舞踏会では私も一曲踊っていただいたけど、卒業パーティーではダンスを拒否されたっけ…
「エドモンドに誘われたらイライザ嬢はどうするの?」
「ファーストダンスは断りますけど、それ以外なら誘われたら踊ります」
「うーん、じゃあ僕がブリジットを誘うのも駄目かなあ」
「私は断れますけど、普通は王子に申し込まれたら断りにくいんです。ですから言いにくいんですけど、ファーストダンスに誘うなら恋人同士にでもなってからにしてください」
「言いにくそうには見えないけど?」
ロイは苦笑いを浮かべる。
「妹とロイ殿下のために心を鬼にして言いにくい事を言ってるんです」
イライザはわざとツンッとしながら言った。
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