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 緩くウェーブした金の髪を後ろで束ね、綺麗な二重瞼の奥の青い瞳を瞬かせる線の細い美男子、隣国からの留学生であるエドモンド・ウィバリー第三王子は、初対面でイライザが挨拶をするとすぐに「イライザと呼んでも?」と言い微笑んだ。
「光栄です。エドモンド殿下」
 イライザも微笑んで言う。
「エドモンドで良いよ?」
「いきなりは無理ですわ」
 いくら学園内では身分は問わず皆平等と謳っていても、所詮そんなのは建前よ。初対面の隣国の王子を呼び捨てになどできる訳がないわ。
 イライザが笑顔で言うと、エドモンドもニッコリと笑った。
「そうだね。俺、イライザと同じクラスだそうだし、それはもっと個人的に親しくなってからで」

 生徒会長ジェフリーがコホンと咳払いすると、恭しく礼をする。
「エドモンド殿下、校舎をご案内します」
「ジェフリーも、そう畏まらなくて良いよ。傅かれたくて留学して来たのではないし、ジェフリーとも良い友人になれたらいいと思っているんだ」
「ありがとうございます」
「イライザとも、良い関係を築きたいと思っているよ」
 笑顔のエドモンドに、イライザは会釈をした。

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 イライザの部屋で、テーブルの上に馴染みの宝石店の店主の男性が次々とネックレスやピアス、指輪などの宝飾品を広げていく。
「ドレスは青ですよね?」
 歳の頃は四十前後の店主は薄い青色の石のネックレスを手に取るとイライザの前にかざした。
「青と言うよりは紺に近いわ。髪が赤いから似合う色が限られちゃって」
「イライザ様はお美しいですから、どんな色でも着こなせますよ。紺色なら金が良いですかね?イライザ様の瞳の色にも映えますよ。着けてみますか?」
「そうね」
 金のピアスをイライザの耳に着けるため、店主の指が触れるとイライザの身体がピンクの光に包まれた。
 あ、耳でも顔に触った事になるんだ。
「どうですか?」
 鏡をイライザの前に差し出す店主の手首に赤いリボンが巻かれているのが見える。
 まあでもこの店主は結婚しているから奥様に繋がってるだけだろうけど…
 そう思いながらリボンの先を目で辿ると、店主の後ろに立っているフォスター家の侍女の手首に視線が行き着いた。

「はあ!?」
「イライザ様?」
 いきなり声を上げたイライザを店主と侍女が驚いて見ている。
 …あの、侍女、確かこの店主が来ている時いつも控えてるけど…え?これって、ふ…不倫?
 侍女…何て名前だったか…あ、そうハンナ!ハンナは普段はお母様に付いてる侍女で、確か歳はお母様や店主と同じくらいだけど、ハンナも結婚してたような…え?ダブル不倫?
「急用を思い出したわ!宝飾品は金で、ドレスのデザインを見て合いそうなのを揃えてちょうだい!」
 イライザはそう言って立ち上がると、店主と侍女を残して部屋を出た。

 廊下に出たイライザは、周りを見回す。
 誰もいない事を確認すると、少し開いた扉に耳を近付けた。
 盗み聞きなんてはしたないけど…
「イライザ様はどうされたんだい?以前はもっと…高飛車…いや、横柄…いや、威風堂々とされていたのではなかったかな?」
 イライザに対するより砕けた口調で店主がハンナに話し掛けた。
「イライザお嬢様、少し前から変わられたんです」
「へえ。これからは怒鳴られなくなるかな?」
 テーブルの上の宝飾品を片付けながら店主は少し笑う。
 もう以前のイライザみたいに「石が小さい」とか「重い」とか「手が胸元に触れた」とか、理不尽な事で怒鳴ったりしませんから、暴君イライザの事は早く忘れてください…

「……」
「……」
 二人が黙り込むと、イライザは扉の隙間から部屋の中を覗いた。

 黙々と宝飾品の入った箱を鞄へ収める店主と、離れた場所に立ってその背中を見つめるハンナ。
 二人きりになったら抱き合ったりキスしたりするのかと思ったけど、そう言う雰囲気でもないわ。
 そうね。好き合っていてもどちらも行動には移してないって感じに見える。
 これって、赤い糸で結ばれているのと、その相手と付き合うもしくは結婚するのはイコールではないって事よね?
 そうか。そうよね。政略とか身分とか色々で、例え想い合ってるのがわかっててもお付き合いとか結婚はできないとか、他の相手と結婚しなきゃいけないとか、そう言う事が当たり前にある世界なんだわ。ここは。

「じゃあ、明日にでもイライザ様のドレスのデザインを店へ知らせてくれるか?すぐ宝飾品を用意するから」
 店主は鞄を持って立ち上がる。
「わかりました」
 ハンナの前を横切る時、店主はハンナを見ていたが、ハンナは頭を下げたまま店主の方は見なかった。





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