上 下
14 / 79

13

しおりを挟む
13

「『げ』って何ですか。イライザ様」
 生徒会の面々と同じテーブルにつくイライザと、その側に立つミアを見ながらグレイは席についた。
「ちょっと、ミア様、こっちは昼休憩を利用した会議中なんですから邪魔しないで。それに皆が食事を摂る場所で走らないの!」
 グレイたちの方を見ないようにしながらイライザがミアと話している。
「何でイライザ様が生徒会の皆さんと会議を?あ、隣国の王子のガイドになるんですっけ?イライザ様」
「良く知ってるわね。そうよ」
 イライザの隣に座っていた生徒会長ジェフリー・ハドックがすっと立ち上がりミアとイライザの間に入った。
「ミア・サンライズ嬢。先程イライザ嬢が言った通り、私たちは今会議中なんだ。そろそろ遠慮していただけるかな?」
 ジェフリーがにっこりと笑って言う。
「あ、はあい。ごめんなさい。お邪魔しました」
 ミアも小首を傾げてにっこりと笑った。

 近付いて来るミア越しに、グレイは赤く波打つ髪が流れる背中を見つめる。
 隣に座るジェフリーがイライザに身体を寄せた。二人で一つの書類を見ているらしい。
「グレイ殿下?」
 ミアがグレイの顔を覗き込む。
「ミアは…フォスター嬢と普通に話しているんだな」
「え?」
「いや。何でもない」

-----

 先週末、家に帰ると、イライザは父から執務室へ来るよう呼ばれた。
 執務室に行くと「来週から留学生として隣国の王子が学園へ来る」と聞かされた。
 隣国の第三王子エドモンド・ウィバリーは攻略対象者だもん。パイロット版でこの王子パージョンもプレーしたから、このタイミングで留学して来るのは知ってたわ。
「イライザ、お前が留学生の王子のガイド役に選ばれたんだ」
 父の言葉にイライザは瞠目した。
「ガイド役!?私が!?」
 ななな、何で!?
 ゲームではエドモンドのガイド役はマリアンヌ。
 元々花嫁探しも兼ねての留学で、その花嫁候補がガイド役をやる事で接する機会が多くなり、エドモンドとマリアンヌは婚約したのよ。
 あ、マリアンヌがロイ殿下と赤い糸で結ばれているから?だからガイド役が他の人になって………って、何でそれが私なの!?

「王宮から内々に指名があって、な」
 父が少し不満そうに、少し悔しそうに言う。
 …あ、そう言う事か。
 この国の第一王子であるグレイに纏わりつくイライザ。婚約者候補として名前も上がったが、グレイに拒否されたイライザ。男爵令嬢ミアを虐めているのも皆に知られているイライザ。
 つまり、悪役令嬢らしく評判の悪いイライザを第一王子から遠ざけたい、あわよくば隣国へ嫁がせたいって事ね。
 王宮って事は、それがグレイ殿下の父母、祖父祖母である王太子夫妻、国王夫妻の総意って事。もちろんグレイ殿下も。
 隣国の王子に嫁ぐなら、外聞も悪くないし、私の立場も悪くならないし…
ていのいい厄介払いって事…」
 ふっと思わず笑って呟くイライザを、父が心配そうに見ていた。
 イライザは顔を上げて波打つ髪を手で後ろに払うと、敢えて居丈高に言う。
「大丈夫ですわお父様。首尾良く隣国の王子を射止めたら玉の輿ですもの。私、頑張りますわ」
 そう。ゲームでよくある断罪されて国外追放、悪役令嬢の家が没落するってバッドエンドも避けられるし、お兄様とブリジットの仲を裂くより隣国へ嫁ぐ方がよっぽどいいわ。

 でも。
 そうか…私…やんわりと、穏便に、でも国外へ追放したいくらい嫌われてるんだわ。グレイ殿下に。

 自分の部屋に戻ったイライザは、脱力してソファへと座り込んだ。
「ど…どうなさったんですか?お嬢様…」
 侍女ヘレンがおずおずと声を掛けて来る。
 ヘレンはこの間、髪を梳いてもらって以来、イライザの元によく来るようになっていた。
「…ヘレンは…今何歳だったかしら?」
「はい?あの…十五です」
「そう…」
 アンリは私より二歳上だから今十九歳。男爵家の次女で学園も出ているから、そろそろ縁談もあるだろうし、私が隣国に嫁ぐ事になったとしてもアンリに着いて来てもらうのは難しいかも知れないわ。
 ヘレンの身元はまだよく知らないけど、十五歳なのに学園へ行っていないと言う事は、貴族の家の娘ではないから…実家の状況によっては隣国に着いて来てくれるかも。

「まあ…まだ会ってもいないのに、そんな心配しても仕方ないか…」
 エドモンドだってヒロインでもない、悪役令嬢の私を気に入るかどうかなんてわからないもん。
 むしろ気に入られる気がしない…

「よし!クッキー焼くわ!」
 イライザは勢い良くソファから立ち上がった。
 元気な声を出すイライザに、ヘレンは安心したように笑って「お手伝いします!」と言った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

処理中です...