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「『げ』って何ですか。イライザ様」
生徒会の面々と同じテーブルにつくイライザと、その側に立つミアを見ながらグレイは席についた。
「ちょっと、ミア様、こっちは昼休憩を利用した会議中なんですから邪魔しないで。それに皆が食事を摂る場所で走らないの!」
グレイたちの方を見ないようにしながらイライザがミアと話している。
「何でイライザ様が生徒会の皆さんと会議を?あ、隣国の王子のガイドになるんですっけ?イライザ様」
「良く知ってるわね。そうよ」
イライザの隣に座っていた生徒会長ジェフリー・ハドックがすっと立ち上がりミアとイライザの間に入った。
「ミア・サンライズ嬢。先程イライザ嬢が言った通り、私たちは今会議中なんだ。そろそろ遠慮していただけるかな?」
ジェフリーがにっこりと笑って言う。
「あ、はあい。ごめんなさい。お邪魔しました」
ミアも小首を傾げてにっこりと笑った。
近付いて来るミア越しに、グレイは赤く波打つ髪が流れる背中を見つめる。
隣に座るジェフリーがイライザに身体を寄せた。二人で一つの書類を見ているらしい。
「グレイ殿下?」
ミアがグレイの顔を覗き込む。
「ミアは…フォスター嬢と普通に話しているんだな」
「え?」
「いや。何でもない」
-----
先週末、家に帰ると、イライザは父から執務室へ来るよう呼ばれた。
執務室に行くと「来週から留学生として隣国の王子が学園へ来る」と聞かされた。
隣国の第三王子エドモンド・ウィバリーは攻略対象者だもん。パイロット版でこの王子パージョンもプレーしたから、このタイミングで留学して来るのは知ってたわ。
「イライザ、お前が留学生の王子のガイド役に選ばれたんだ」
父の言葉にイライザは瞠目した。
「ガイド役!?私が!?」
ななな、何で!?
ゲームではエドモンドのガイド役はマリアンヌ。
元々花嫁探しも兼ねての留学で、その花嫁候補がガイド役をやる事で接する機会が多くなり、エドモンドとマリアンヌは婚約したのよ。
あ、マリアンヌがロイ殿下と赤い糸で結ばれているから?だからガイド役が他の人になって………って、何でそれが私なの!?
「王宮から内々に指名があって、な」
父が少し不満そうに、少し悔しそうに言う。
…あ、そう言う事か。
この国の第一王子であるグレイに纏わりつくイライザ。婚約者候補として名前も上がったが、グレイに拒否されたイライザ。男爵令嬢ミアを虐めているのも皆に知られているイライザ。
つまり、悪役令嬢らしく評判の悪いイライザを第一王子から遠ざけたい、あわよくば隣国へ嫁がせたいって事ね。
王宮って事は、それがグレイ殿下の父母、祖父祖母である王太子夫妻、国王夫妻の総意って事。もちろんグレイ殿下も。
隣国の王子に嫁ぐなら、外聞も悪くないし、私の立場も悪くならないし…
「体のいい厄介払いって事…」
ふっと思わず笑って呟くイライザを、父が心配そうに見ていた。
イライザは顔を上げて波打つ髪を手で後ろに払うと、敢えて居丈高に言う。
「大丈夫ですわお父様。首尾良く隣国の王子を射止めたら玉の輿ですもの。私、頑張りますわ」
そう。ゲームでよくある断罪されて国外追放、悪役令嬢の家が没落するってバッドエンドも避けられるし、お兄様とブリジットの仲を裂くより隣国へ嫁ぐ方がよっぽどいいわ。
でも。
そうか…私…やんわりと、穏便に、でも国外へ追放したいくらい嫌われてるんだわ。グレイ殿下に。
自分の部屋に戻ったイライザは、脱力してソファへと座り込んだ。
「ど…どうなさったんですか?お嬢様…」
侍女ヘレンがおずおずと声を掛けて来る。
ヘレンはこの間、髪を梳いてもらって以来、イライザの元によく来るようになっていた。
「…ヘレンは…今何歳だったかしら?」
「はい?あの…十五です」
「そう…」
アンリは私より二歳上だから今十九歳。男爵家の次女で学園も出ているから、そろそろ縁談もあるだろうし、私が隣国に嫁ぐ事になったとしてもアンリに着いて来てもらうのは難しいかも知れないわ。
ヘレンの身元はまだよく知らないけど、十五歳なのに学園へ行っていないと言う事は、貴族の家の娘ではないから…実家の状況によっては隣国に着いて来てくれるかも。
「まあ…まだ会ってもいないのに、そんな心配しても仕方ないか…」
エドモンドだってヒロインでもない、悪役令嬢の私を気に入るかどうかなんてわからないもん。
むしろ気に入られる気がしない…
「よし!クッキー焼くわ!」
イライザは勢い良くソファから立ち上がった。
元気な声を出すイライザに、ヘレンは安心したように笑って「お手伝いします!」と言った。
「『げ』って何ですか。イライザ様」
生徒会の面々と同じテーブルにつくイライザと、その側に立つミアを見ながらグレイは席についた。
「ちょっと、ミア様、こっちは昼休憩を利用した会議中なんですから邪魔しないで。それに皆が食事を摂る場所で走らないの!」
グレイたちの方を見ないようにしながらイライザがミアと話している。
「何でイライザ様が生徒会の皆さんと会議を?あ、隣国の王子のガイドになるんですっけ?イライザ様」
「良く知ってるわね。そうよ」
イライザの隣に座っていた生徒会長ジェフリー・ハドックがすっと立ち上がりミアとイライザの間に入った。
「ミア・サンライズ嬢。先程イライザ嬢が言った通り、私たちは今会議中なんだ。そろそろ遠慮していただけるかな?」
ジェフリーがにっこりと笑って言う。
「あ、はあい。ごめんなさい。お邪魔しました」
ミアも小首を傾げてにっこりと笑った。
近付いて来るミア越しに、グレイは赤く波打つ髪が流れる背中を見つめる。
隣に座るジェフリーがイライザに身体を寄せた。二人で一つの書類を見ているらしい。
「グレイ殿下?」
ミアがグレイの顔を覗き込む。
「ミアは…フォスター嬢と普通に話しているんだな」
「え?」
「いや。何でもない」
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先週末、家に帰ると、イライザは父から執務室へ来るよう呼ばれた。
執務室に行くと「来週から留学生として隣国の王子が学園へ来る」と聞かされた。
隣国の第三王子エドモンド・ウィバリーは攻略対象者だもん。パイロット版でこの王子パージョンもプレーしたから、このタイミングで留学して来るのは知ってたわ。
「イライザ、お前が留学生の王子のガイド役に選ばれたんだ」
父の言葉にイライザは瞠目した。
「ガイド役!?私が!?」
ななな、何で!?
ゲームではエドモンドのガイド役はマリアンヌ。
元々花嫁探しも兼ねての留学で、その花嫁候補がガイド役をやる事で接する機会が多くなり、エドモンドとマリアンヌは婚約したのよ。
あ、マリアンヌがロイ殿下と赤い糸で結ばれているから?だからガイド役が他の人になって………って、何でそれが私なの!?
「王宮から内々に指名があって、な」
父が少し不満そうに、少し悔しそうに言う。
…あ、そう言う事か。
この国の第一王子であるグレイに纏わりつくイライザ。婚約者候補として名前も上がったが、グレイに拒否されたイライザ。男爵令嬢ミアを虐めているのも皆に知られているイライザ。
つまり、悪役令嬢らしく評判の悪いイライザを第一王子から遠ざけたい、あわよくば隣国へ嫁がせたいって事ね。
王宮って事は、それがグレイ殿下の父母、祖父祖母である王太子夫妻、国王夫妻の総意って事。もちろんグレイ殿下も。
隣国の王子に嫁ぐなら、外聞も悪くないし、私の立場も悪くならないし…
「体のいい厄介払いって事…」
ふっと思わず笑って呟くイライザを、父が心配そうに見ていた。
イライザは顔を上げて波打つ髪を手で後ろに払うと、敢えて居丈高に言う。
「大丈夫ですわお父様。首尾良く隣国の王子を射止めたら玉の輿ですもの。私、頑張りますわ」
そう。ゲームでよくある断罪されて国外追放、悪役令嬢の家が没落するってバッドエンドも避けられるし、お兄様とブリジットの仲を裂くより隣国へ嫁ぐ方がよっぽどいいわ。
でも。
そうか…私…やんわりと、穏便に、でも国外へ追放したいくらい嫌われてるんだわ。グレイ殿下に。
自分の部屋に戻ったイライザは、脱力してソファへと座り込んだ。
「ど…どうなさったんですか?お嬢様…」
侍女ヘレンがおずおずと声を掛けて来る。
ヘレンはこの間、髪を梳いてもらって以来、イライザの元によく来るようになっていた。
「…ヘレンは…今何歳だったかしら?」
「はい?あの…十五です」
「そう…」
アンリは私より二歳上だから今十九歳。男爵家の次女で学園も出ているから、そろそろ縁談もあるだろうし、私が隣国に嫁ぐ事になったとしてもアンリに着いて来てもらうのは難しいかも知れないわ。
ヘレンの身元はまだよく知らないけど、十五歳なのに学園へ行っていないと言う事は、貴族の家の娘ではないから…実家の状況によっては隣国に着いて来てくれるかも。
「まあ…まだ会ってもいないのに、そんな心配しても仕方ないか…」
エドモンドだってヒロインでもない、悪役令嬢の私を気に入るかどうかなんてわからないもん。
むしろ気に入られる気がしない…
「よし!クッキー焼くわ!」
イライザは勢い良くソファから立ち上がった。
元気な声を出すイライザに、ヘレンは安心したように笑って「お手伝いします!」と言った。
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