悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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 イライザが出て行った図書室の出入口を、グレイは黙って見つめていた。
「何だか…いつもと違ったな。イライザ嬢」
「……」
「いつもなら絶対にグレイに絡むだろ?絶好の機会だし。でも今日はグレイの方をまったく見なかった」
「…そうだな」
「絡まれなくて良かったな」
 アレックスはそう言いながらイライザに渡された紙袋を覗き込んだ。
「お、クッキーだ。変な物は入れてないと言うという事はもしや手作りなのか?これ」
「手作り?」
 グレイは視線をアレックスが持つ紙袋に移す。
「ああ、わかった。いつかディアナがイライザ嬢たちと一緒にお菓子作りをしたと言っていた。これはその時のレシピなんだろう」
「……」
 じいっと紙袋を見ているグレイ。
「もしかして、今度はグレイじゃなくて俺がイライザ嬢に狙われるのかも」
 アレックスが眉を上げて言うと、グレイは眉を顰めてアレックスを睨んだ。
「普通好きでもない男に手作りクッキーはあげないだろう?」
 ニヤリと笑いながらアレックスは言う。
「それならそれで、俺が付き纏われなくなるなら何よりだ」
 グレイはアレックスから視線を逸らして言った。
「ああでもディアナと一緒に食べろって言うんだからそれはないか」
 肩を竦めて言うアレックス。
 グレイはもう一度アレックスを軽く睨んだ。

「グレイ様!アレックス様!」
 図書室の出入口からミアが入って来て、グレイとアレックスに向けて手を振った。
「ミア嬢、何度も言うようですが『グレイ様』ではなく『グレイ殿下』とお呼びください」
 にっこりと笑ってアレックスが言うと、ミアはペロっと舌を出す。
「はあい。つい忘れちゃって」
「今まで何度も言っておりますので、忘れないでくださいね」
「はあーい。あ、アレックス様、それ何ですか?」
 ミアが紙袋を指差す。
「これはクッキーです。頂き物でして、後で私の婚約者と一緒に食べるんですよ」
 ミアの手が触れないように、アレックスは紙袋を顔の横まで上げた。
「わあ。クッキーいいですね!私もクッキー焼けるんです。今度グレイ殿下に焼いて来ますね」
「俺に?」
 グレイが少し首を傾げる。
「はい!」
 ニコッと笑うミア。
「そうか。ありがとう」
 グレイがミアに微笑みかけるのを見て、アレックスは密かにため息を吐いた。
 
-----

 昼休憩に、小さな花壇のある小さな中庭へやって来たイライザは、そこに誰もいない事を確認すると、花壇の縁のレンガへと座った。
「はあ…疲れた…」
 以前はディアナやシェリー、エレノーラと一緒に食堂で昼食を摂っていたが、今は一人でここで昼休憩を過ごしていた。
 前世で入院ばっかりしてたせいかも知れないけど、どうにも人が大勢いる所って苦手だわ。落ち着かないと言うか、居心地が悪いと言うか…
 広すぎる部屋とかでも落ち着かない感じがするのは、前世の庶民感覚が抜けないからなんだろうな。こういう、こじんまりした庭の方がしっくり来るもの。
 それに食堂へ行かなければグレイ殿下とミアが仲良く昼食摂ってるの、見なくて済むしね。
 
「あれ?イライザ嬢?」
 イライザの後ろから男性の声がして、イライザが振り向くと、そこにロイ・ルーセント第二王子が立っていた。
「ロイ殿下」
 イライザは立ち上がると、ロイの方を向いて、スカートを摘んで挨拶をする。
「学園内だから挨拶はいいよ。僕の方が歳下だし」
 ロイはグレイの弟で、十四歳、学園の一年生だ。
 イライザに笑顔を向けるロイ。
 ロイ殿下、少し大人びてますますグレイ殿下に似て来たかも。元々顔立ちは似てたし、髪色や瞳の色もグレイ殿下と同じような赤系の紫色だし。

「こんな小庭で何しているの?」
「ロイ殿下こそ」
「ここの花壇は僕がケアしているんだよ。僕、園芸部員なんだ」
 ロイは両手に持っていた移植ごてと如雨露じょうろを肩の高さまで上げてイライザに見せた。
「そうなんですか?」
「そうなんだよ。イライザ嬢は兄上には関心があっても僕にはないから知らないよね。で?今日は食堂で兄上とミア嬢の邪魔はしなくて良いの?」
 クスクスと笑いながらロイは言う。
「はあ…」
 ロイ殿下ももちろん私がグレイ殿下のストーカーだったのご存知だもんね。そりゃあ嫌味の一つも言いたくなるわ。
「…怒らないの?」
 イライザが反論しないのが意外だったのか、ロイが驚いた顔でイライザを見た。
「あの…信じられないでしょうけど、私、グレイ殿下とミア…様の仲を邪魔するの、やめたんです」
「え!?」
 驚愕、とも言える表情のロイ。
 そんなに?そんなに驚く?
 …いやまあやっぱ今までのイライザのストーカー行為を知ってたら、驚いて当然か。



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