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 グレイの教室移動を待ち伏せて声を掛ける。
 食堂など、グレイの行く先々へ現れる。
 グレイの机に長文の手紙を入れる。
 舞踏会や卒業パーティーでグレイにダンスを強要する。
 グレイがミアと話していると割り込む。
 グレイと親しい人にグレイについて聞き込む。
 自分と婚約しろとしつこく言う。
 学園が休みの日に王宮へ押し掛ける。

「まるっきりストーカーだわね。これ」
 図書室を訪れ、出入口が見える席に座ったイライザは、今までグレイに対して行っていた自分の行為を思い返して大きなため息を吐いた。
 こんな女、嫌われて当然だわ。

 グレイは第一王子、イライザは侯爵令嬢なので、王城で開かれる王妃や王太子妃主催のお茶会などで会う機会は度々あった。ただ、他の貴族令嬢令息や、グレイの弟である第二王子などもいたのでグレイとイライザが特別親しい幼なじみなどになった訳ではない。
 イライザが九歳の頃のあるお茶会で、イライザがお茶を溢して、熱々の紅茶をグレイの手に掛けてしまった事があった。
 王子に粗相をしてしまい青褪めるイライザに、グレイは「気にするな」と笑ってくれた。しかし後日その時グレイは手の甲に火傷を負っていたと言う事を知ったイライザ。その時からずっとグレイを好きなのだ。

 もう八年か…
 でもミアが学園に入ってグレイ殿下と親しくなるまではストーカー行為はしてなかったんだから、やっぱりこれもゲーム補正、悪役令嬢としての行動なんだろうな。
「だからって許される訳でも嫌われてるのがなくなる訳でもないけど…」
 さぞかし嫌な思いをしただろうグレイ殿下に今のイライザができるつぐないは、せめてもうストーカー行為はやめて近付かない。ミアとの仲を影ながら応援する事くらい。
「問題は赤い糸をどうやって切るか、よね」

 イライザはため息を吐きながら図書室の入り口を見つめた。
 アレックス様は図書委員だから、この曜日の放課後は図書室に来る筈。救護室に運んでもらった事をディアナ様から聞いてから一週間経つし、階段から落ちてからだともう三週間近いから今更だけど、やっぱりお礼は言いたいし…
 願わくば、アレックス様がお一人で来られますように。

「あ」
 出入口の扉が開いて、アレックスが図書室に入って来る。
 立ち上がり掛けたイライザの視界に、アレックスの後ろに付いて入って来たグレイの紫色の髪の毛が映った。

 この国の王族は紫色の髪と紫色の瞳を持つ。色の濃淡や、他の色が混ざる場合もあるが、素地は例外なく紫色だ。
 グレイの髪は赤寄りの紫で、薄桃色の髪のミアととても似合っているのだ。
 
 どうしよう。気付かない振りをして、アレックス様が一人になるまで待った方が良いかしら?
 椅子に座り直して、俯いたイライザが視線だけでアレックスとグレイの方を見ると、イライザの方を向いていたグレイと目が合った。
「!」
 途端にグレイの表情が曇る。
 眉を顰めてイライザから目を逸らした。

 そうよね。こんな派手な赤い髪の生徒、私の他にいないから、気付かれない訳がなかったわ。
 こうなったら、グレイ殿下の不快の元である自分は一刻も早く立ち去った方が良いわね。
「アレックス様」
 立ち上がったイライザはアレックスの元へと歩いて行く。グレイの方は見ないように努めながらアレックスの前に紙袋を差し出した。
「イライザ嬢?」
 黒髪に眼鏡のアレックスは、将来はグレイの片腕となると目された宰相候補の美男子だ。
「あの、階段から落ちた時、私を救護室に運んでくださったと聞きました。お礼が遅くなったのですが、ありがとうございました」
「ああ。あれはたまたま近くにいたからで、お礼を言われる程の事ではないよ?」
 優しく微笑むアレックス。
 グレイ殿下の友人としては殿下のストーカーである私なんか嫌いだろうし、殿下に近寄らせたくないだろうに、笑顔で接してくださるなんてアレックス様は優しい。さすがディアナ様の婚約者だけあるわ。
「これ、お礼です。良かったらディアナ様と食べてください。あの、変な物は入れてませんけど、気持ち悪ければ捨ててくださってかまいませんので」
 イライザは紙袋を押し付けるようにアレックスに渡すと、踵を返した。
「イライザ嬢?」
「失礼いたします」
 少し頭を下げて、小走りに図書室の出入口へ向かう。
 …グレイ殿下の視線を感じた気がしたけど、気のせい、よね?



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