悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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 学園は十五歳になる年に入学し、四年間学び十八歳で卒業する。貴族の令息令嬢は幼い頃より家庭教師に学び学園へ入学するが、貴族でない者は家の都合により五歳から十歳には初等教育校へ入学し、数年間字や計算などを学び、成績優秀者やお金のある商家の子供などが学園へと入学する。
 全寮制で、いかに高位の貴族でも侍女や侍女、メイドなどを伴う事はできない決まりだ。もちろん王族でも。

 学園は一学年が春期、秋期、冬期の三月期制で、春期と秋期の間に約二ヶ月の夏季休暇、秋期と冬期の間、冬期と春期の間にそれぞれ約二週間の冬期休暇、春期休暇がある。

「それにしても純日本人の私でも侯爵令嬢としても記憶があればそれなりの振る舞いとか言葉遣いってできるものなのね。これなら学園へ行っても大丈夫かしら?」
 イライザが鏡を見ながら言う。
「ええ?まだ目が覚めてから二日しか経ってませんよ。早すぎませんか?」
 イライザのウェーブした髪を梳きながらアンリが言った。
「だってもう身体も何ともないもの」
「でも…」
 あ、もしかして、私がミアを階段から突き落としたって噂になってるらしいからアンリは気にしてくれてるのかな?
「そう言えば、ミア・サンライズは階段から落ちてどうなったの?怪我は?」
「イライザお嬢様が下敷きになられたので、彼女は無傷だそうですよ」
 少し不満気にアンリが言う。
「そう。まあ怪我がなかったなら良かったわ」

「イライザ、本気でそう言っているのか?」
 不意に男性の声がして、イライザがそちらへ振り向くと、開いたままの部屋の扉の向こうに兄アドルフが立っていた。
「お兄様」
「お前はグレイ殿下に近付くミア・サンライズ男爵令嬢を執拗に虐めていたんだろう?そのミア嬢が無傷で『良かった』などと、よくもそんな白々しい発言ができるものだな」
 アドルフは軽蔑した瞳でイライザを見ながら言う。
「アドルフ様、お嬢様は…」
 アドルフに反論しかけたのはアンリだ。
「やめてアンリ。いいの。お兄様の言う通りなんだから」
 アンリの腕に手を置いて穏やかに言うイライザに、アドルフは訝し気に眉を顰めた。
「…何のつもりだ?頭を打って死に掛けて改心したとでも言うつもりか?」

 そうよね。今までのイライザ成分百パーセントの私なら、ミアが無傷で、自分が学園を休んでいる間にもグレイ殿下に近付いていると思えば地団駄踏んで悔しがっていた筈だもん。
 それにお兄様にだってもっと苛烈に酷い言葉で言い返してたに違いないもんね。
「改心した…と言っても信じられませんよね?」
 ニコリと笑ってイライザが言うと、アドルフはますます眉間の皺を深める。
「当たり前だ」
「ですよねー」
「……」
 ま、仕方ないわね。と呟くイライザを眉を顰めたままでじっと見るアドルフ。

「学園へ復帰するのなら、これ以上ブリジットに迷惑を掛けないよう少しは大人しくしておけ」
 アドルフはそう言うと、廊下を歩き出した。
 ブリジットかあ。
 一学年下の妹ブリジットは確かに「イライザの妹」という事で同級生の中で浮いた存在になっている。下手にブリジットに絡んでイライザから虐められる対象にされては堪らないと、遠巻きにされ、腫れ物に触るような対応をされているのだ。

「ま、今までのイライザの所業じゃ、確かに一度死にかけたから性格が変わりましたって言っても信用してもらえなくて当たり前よね」
 これからはブリジットにも迷惑掛けないように、お兄様の言う通り、大人しくしておくつもりではあるんだけど。
「イライザお嬢様は本当に目が覚めてから変わられたと思いますよ。今までのイライザお嬢様でありながら、今までのイライザお嬢様ではない…上手く言えませんけど、今のお嬢様なら他の侍女だってお嬢様付きになりたいと思います。お嬢様に一番近い私が言うのですから間違いありません」
 アンリが鼻息荒く言う。

 侯爵家の令嬢であるイライザには、本来ならば複数の専属侍女が付いている筈、現にブリジットには専属侍女が四人いるのだが、今イライザ付きの侍女はアンリ一人だ。
 今までイライザに付いた侍女は苛烈なイライザの性格に耐えきれず、退職したり配置換えを希望したりして、残ったのがアンリ一人だったのだ。

「ありがとう。アンリ一人だけでも今の私の事わかってくれる人がいて、それだけでも心強いわ。だからバッドエンドを避けるためにも私はこれからは全力で大人しくしておくわね!」
 拳を握ってイライザが言うと、アンリは「バッドエンド?」と言いながら首を傾げた。
 そう。グレイルートのバッドエンドを避ける。これが今の私、イライザの命題よ。
 そのために全力出してする事が「大人しくしておく」って矛盾してるけどね。



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