婚約者が記憶喪失になりました。

ねーさん

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 学園の秋期が始まり、セシリアとディナが昼休憩に食堂を訪れると、偶然アルヴェルと会ったので、一緒に食事を摂る事になった。
「アルヴェル殿下も…何と言うか、難儀な性分ですね」
 セシリアからマルセル家の別荘での出来事を聞いていたディナは、シルベストを好きなセシリアが好きだと言うアルヴェルに呆れたように言う。
「本当にな」
 アルヴェルは苦笑いを浮かべた。
「そういえば、アルヴェル殿下がマジョリカ様の結婚相手を探してあげてるって小耳に挟んだんですけど、本当なんですか?」
「ああ」
 頷くアルヴェル。ディナは訝しげに首を傾げる。
「何故殿下が?」
「ディナ、それはシルが殿下にお願いしたからなの」
 セシリアが言うと、ディナはますます首を捻った。
「シルベスト様が?」
「うん。シルはマジョリカ様を許す気はないけど『婚約者候補』なんて不安定な立場に縛って期待させてたのも確かだから…って」
「ああ…」
 ディナは納得したように頷く。
「それも僕のせいでもあるからね。だからディナ嬢も良さそうな男性ひとがいたら教えてね」
「いえ、良さそうな男性ひとがいれば、殿下じゃなく父に教えます」
 真面目な表情で言うディナ。
「え?ディナ嬢は、婚約していない…?」
「してませんよ。恥ずかしながら我が家は貧乏伯爵家なので兄や私の学園の費用を捻出するだけで精一杯なんです。ですから、持参金もない伯爵令嬢を娶ってくれる危篤な方がおられたら是非ご紹介いただきたいです」
「……」
 笑って言うディナを、アルヴェルはじっと見つめた。

「それより、公爵令嬢であるマジョリカ様の結婚相手となるとそれなりの家じゃないと…ですし、いっそアルヴェル殿下がマジョリカ様を娶られれば万事解決するんじゃないですか?近隣諸国との関係も安定してるし、アルヴェル殿下が政略的な結婚をする確率も低いでしょう?」
「…は?」
「ディナ、それは…」
 ディナの言葉に、アルヴェルはポカンと口を開け、セシリアは困惑の表情を見せる。
「あー…でも、さすがにシルベスト様はアルヴェル殿下の侍従ですから物理的距離が近すぎますかね?セシリアも嫌だろうし」
 セシリアはこくこくと頷いた。
「私もだけど、シルも嫌がりそうだし、マジョリカ様だって複雑だと思うわ」
「……」
 アルヴェルは口元に手を当てて視線を下に落とす。
「そうよね。…って、アルヴェル殿下?」
「……」
 黙り込むアルヴェル。
 いくらアルヴェル殿下が気さくな方でも、王子の婚姻問題まで軽く扱われたと感じられたかしら?学園内では身分は問わないとはいえ、さすがに「不敬だ」って嗜められるかも。
「あの…申し訳ありません」
 ディナが言うと、アルヴェルは顔を上げた。
「ディナ嬢」
「はい!ごめんなさい!」
 テーブルの上に両手を揃えて置き、ディナは勢いよく頭を下げる。
「僕はディナ嬢がいいな」
「…は………はい!?」
 真剣な表情のアルヴェルと目が合うと、ディナに向けてアルヴェルはニッコリと笑った。
王子ぼくなら持参金はいらないよ?」
 むしろ支度金を渡す立場だからね。と言うアルヴェルに、ディナは大きく目を見開く。
 ニコニコと笑顔のアルヴェルと、驚いた表情のまま固まるセシリアを見てから、ディナは視線を上に上げて、下に下ろすと
「……………アリかも」
 と小さく呟いた。

-----

「マジョリカ、隣国の公爵家との結婚が決まったんだそうね」
 学園の教室で机の側に立ったクラリッサが言うと、そこに座るマジョリカはコクリと頷く。
「隣国の騎士団の大隊長をされてた方が家を継ぐために退団されるんですって。ちょっと歳上だけど、初婚で…良い方だってアルヴェル殿下は仰ってたわ」
「歳上?」
「…今年で三十歳。結婚は私が学園を卒業してからだから、その頃には三十二歳かしら」
 複雑な表情で、口角を上げて言うマジョリカ。
「そう…」
 十三、十四歳上になるのかしら?
 隣国ではあるけど、公爵位を継ぐ方で初婚なら悪い話じゃないわ。ただ公爵位を継ぐ方なのに何故三十歳まで結婚してないのか、と考えると、少し「難」のある方なのかも知れないけど…
 きっとマジョリカもそう考えて少し不安なんだろうけど、セシリアとの事があった後、殿下に勧められた好条件の縁談を断れる訳がないもんね。
「アルヴェル殿下が『良い方』と仰るなら、きっと本当に良い方なんだと思うわ」
 クラリッサがそう言うと、「きっとそうね」とマジョリカは安心したように笑った。



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