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その夏、グレッグとジーンは湖の側の別荘に行き、アリシアは王宮へ勉強に通っていた為、結局あまり顔を合わせる機会のないまま秋期が始まり、二人は学園に戻ってしまった。
次の夏も同じで、学期の間の休暇にもジーンは使用人としての態度を崩さず、アリシアが個人的にジーンと話す機会はないまま、アリシアも15歳となり、学園へ入学する。
「学園へ行くのは楽しみだけど、ダイアナと離れるのは淋しいわ。私、友達できるかしら?」
いよいよ明日入寮という日、アリシアは腰まで伸びた長い銀の髪をダイアナに梳かしてもらっていた。
「アリシア様なら大丈夫でしょう」
「でも私『王太子殿下の婚約者』だもの、遠巻きにされたりするかも」
「グレッグ様もジーン様も学園におられるんですから心配いりませんよ」
ジーンは、学園ではどんな態度なのかしら?一応学生は身分なく平等って建前だけど、建前は建前だし…。
「私としてはアリシア様の髪のお手入れができなくなるのが辛いですわ。ちゃんと香油を擦り込んで丁寧に梳かして下さいよ。戻られた時に傷んでいたら私、泣きますよ」
ダイアナが言うと、アリシアは苦笑いする。
細くて柔らかいアリシアの髪は丁寧に梳かないと絡んでしまう。
「髪、結える長ささえあれば良いんだから、切っても良かったんだけどね」
「パリヤ殿下が長いのがお好きなんでしたね」
「そうなの。それに…」
アリシアは勉強やお茶会で王宮に行った時に会うパリヤを思い浮かべる。「僕、髪の長い女の子が好き」と言っていたのは、まだ婚約したての頃だ。もう何年も経つのでパリヤの今の好みは変わっているかも知れないが、わざわざ好みに合わないようにする事もない。
それから「アリシアの髪は真っ直ぐで綺麗だね」と笑っていたまだ幼い頃のジーンを思い出した。
-----
「ウィルフィス様って…案外気さくな方なんですね」
同じクラスで隣の席になったホリー・ロビンソン伯爵令嬢がクスクス笑った。
アリシアが教師に渾名を付けて一人呟いていたのが隣の席のホリーの耳に入り、ツボに嵌ったらしい。
「数学の先生に『タンジェント』音楽の先生に『バッハ』はわかるのですが…頭髪の淋しいサイラス先生に『サイウス先生』だなんて…思わず本人にそう呼びかけてしまいそうですわ」
「…案外聞こえてたのね」
アリシアは苦笑いすると、ホリーの方へ向き直す。
「ロビンソン様…ホリーって名前で呼んで良いかしら?私の事も名前で呼んで。それに畏まった話し方もしなくて良いわ」
「もちろん名前で呼んでください。アリシア様?」
茶色のセミロングの髪をハーフアップにしたホリーは青い瞳を瞬かせる。
「様はいらないわ。アリシアで。ね、ホリー」
アリシアがにっこり微笑むとホリーも笑った。
「分かったわ。アリシア。王太子殿下の婚約者で見た目も儚げな感じだし、どれだけ大人しい令嬢かと思ってたけど…実は違うのね?」
「あら、わたくし、お淑やかな深窓の令嬢ですわ。ホホホ。…切り替え早いわね。ホリー」
「ありがとう。特技なの」
胸を張って言うホリーにアリシアは思わず吹き出した。
入学して一週間経ち、昼休憩にホリーと一緒に食堂へ行ったアリシアはそこで学園で初めてグレッグとジーンと会った。
「アリシア、友達?」
グレッグとジーンは隣り合わせで座っていて、向かいの席をアリシアとホリーに勧めてくれる。
「ええ、お友達のホリー・ロビンソン伯爵令嬢よ。ホリー、私の兄のグレッグ。今3年生なの。こちらはうちの執事の息子のジーンよ。お兄様と同じ3年生」
「ホリー・ロビンソンです」
ホリーが軽く礼をすると、グレッグは席についたまま頷き、ジーンは立ち上がり礼を取る。
「ジーン・フロストです」
「ホリー嬢はアリシアと同じクラスなの?」
「はい。そうです」
「ホリー、お兄様に丁寧な話し方しなくて良いわよ」
「え?でも…」
アリシアがグレッグの正面に座るため、昼食が乗ったトレイをテーブルに置こうとすると、ジーンがそのトレイを取ってテーブルに置いてくれる。
「あ、ありがとうジーン」
「うん」
ジーンは短く返事をすると、同じようにホリーのトレイを取って置いた。
何だ…私にだけ優しくしてくれたのではないのね。
でも学園だと家みたいに慇懃な態度ではないんだわ。
「そうだね。アリシアに対するのと同じで良いよ。ホリー」
グレッグが言うと「そうですか?」とホリーは首を傾げ
「アリシアとグレッグ様は髪の色が違うのね」
と砕けた調子で言う。
やはりホリーは切り替えが早いのが特技のようだ。
その夏、グレッグとジーンは湖の側の別荘に行き、アリシアは王宮へ勉強に通っていた為、結局あまり顔を合わせる機会のないまま秋期が始まり、二人は学園に戻ってしまった。
次の夏も同じで、学期の間の休暇にもジーンは使用人としての態度を崩さず、アリシアが個人的にジーンと話す機会はないまま、アリシアも15歳となり、学園へ入学する。
「学園へ行くのは楽しみだけど、ダイアナと離れるのは淋しいわ。私、友達できるかしら?」
いよいよ明日入寮という日、アリシアは腰まで伸びた長い銀の髪をダイアナに梳かしてもらっていた。
「アリシア様なら大丈夫でしょう」
「でも私『王太子殿下の婚約者』だもの、遠巻きにされたりするかも」
「グレッグ様もジーン様も学園におられるんですから心配いりませんよ」
ジーンは、学園ではどんな態度なのかしら?一応学生は身分なく平等って建前だけど、建前は建前だし…。
「私としてはアリシア様の髪のお手入れができなくなるのが辛いですわ。ちゃんと香油を擦り込んで丁寧に梳かして下さいよ。戻られた時に傷んでいたら私、泣きますよ」
ダイアナが言うと、アリシアは苦笑いする。
細くて柔らかいアリシアの髪は丁寧に梳かないと絡んでしまう。
「髪、結える長ささえあれば良いんだから、切っても良かったんだけどね」
「パリヤ殿下が長いのがお好きなんでしたね」
「そうなの。それに…」
アリシアは勉強やお茶会で王宮に行った時に会うパリヤを思い浮かべる。「僕、髪の長い女の子が好き」と言っていたのは、まだ婚約したての頃だ。もう何年も経つのでパリヤの今の好みは変わっているかも知れないが、わざわざ好みに合わないようにする事もない。
それから「アリシアの髪は真っ直ぐで綺麗だね」と笑っていたまだ幼い頃のジーンを思い出した。
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「ウィルフィス様って…案外気さくな方なんですね」
同じクラスで隣の席になったホリー・ロビンソン伯爵令嬢がクスクス笑った。
アリシアが教師に渾名を付けて一人呟いていたのが隣の席のホリーの耳に入り、ツボに嵌ったらしい。
「数学の先生に『タンジェント』音楽の先生に『バッハ』はわかるのですが…頭髪の淋しいサイラス先生に『サイウス先生』だなんて…思わず本人にそう呼びかけてしまいそうですわ」
「…案外聞こえてたのね」
アリシアは苦笑いすると、ホリーの方へ向き直す。
「ロビンソン様…ホリーって名前で呼んで良いかしら?私の事も名前で呼んで。それに畏まった話し方もしなくて良いわ」
「もちろん名前で呼んでください。アリシア様?」
茶色のセミロングの髪をハーフアップにしたホリーは青い瞳を瞬かせる。
「様はいらないわ。アリシアで。ね、ホリー」
アリシアがにっこり微笑むとホリーも笑った。
「分かったわ。アリシア。王太子殿下の婚約者で見た目も儚げな感じだし、どれだけ大人しい令嬢かと思ってたけど…実は違うのね?」
「あら、わたくし、お淑やかな深窓の令嬢ですわ。ホホホ。…切り替え早いわね。ホリー」
「ありがとう。特技なの」
胸を張って言うホリーにアリシアは思わず吹き出した。
入学して一週間経ち、昼休憩にホリーと一緒に食堂へ行ったアリシアはそこで学園で初めてグレッグとジーンと会った。
「アリシア、友達?」
グレッグとジーンは隣り合わせで座っていて、向かいの席をアリシアとホリーに勧めてくれる。
「ええ、お友達のホリー・ロビンソン伯爵令嬢よ。ホリー、私の兄のグレッグ。今3年生なの。こちらはうちの執事の息子のジーンよ。お兄様と同じ3年生」
「ホリー・ロビンソンです」
ホリーが軽く礼をすると、グレッグは席についたまま頷き、ジーンは立ち上がり礼を取る。
「ジーン・フロストです」
「ホリー嬢はアリシアと同じクラスなの?」
「はい。そうです」
「ホリー、お兄様に丁寧な話し方しなくて良いわよ」
「え?でも…」
アリシアがグレッグの正面に座るため、昼食が乗ったトレイをテーブルに置こうとすると、ジーンがそのトレイを取ってテーブルに置いてくれる。
「あ、ありがとうジーン」
「うん」
ジーンは短く返事をすると、同じようにホリーのトレイを取って置いた。
何だ…私にだけ優しくしてくれたのではないのね。
でも学園だと家みたいに慇懃な態度ではないんだわ。
「そうだね。アリシアに対するのと同じで良いよ。ホリー」
グレッグが言うと「そうですか?」とホリーは首を傾げ
「アリシアとグレッグ様は髪の色が違うのね」
と砕けた調子で言う。
やはりホリーは切り替えが早いのが特技のようだ。
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