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番外編2-2
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オスカー編2
所作が綺麗で言葉使いも丁寧。言葉にしてしまえばそれだけの違和感だったが、メグは市井の娘らしくない。
「オスカーが気になるなら調べてみれば良い。『影』を使う訓練にもなる」
ダグラスはオスカーの肩をポンと叩いて去って行った。
オスカーは情報管理機関を統括する家の嫡男だった。諜報員、間者、影と呼ばれる者たちをまとめ、使うのが役目だったため、個人に「影」を付けた事はなかった。
パリスの側仕えになる事になり、ダグラスの「影」の紹介でオスカー個人の「影」が付いたばかりなのだ。
「シオ」
そう呼ぶと、オスカーの前に騎士服の男性が現れ、跪く。
「シオ、メイドのメグの素性を調べてくれ」
「了解」
短く言うとシオは姿を消す。
「シオともまだあんまり喋った事ないなあ」
ダグラスの影のルイ、オリビアの元影のジル、一緒にいる期間が長いせいか、この二組の信頼関係は側から見ていてもよく分かる。シオと自分はまだ数カ月だ。あんな風になれるまでにどのくらい掛かるのか…オスカーはシオの跪いた辺りを見てため息を吐いた。
-----
「メグ、みじん切りになってないぞ。それ」
玉ねぎをみじん切りにするメグを見て、ニクスが言う。
「…そうね」
メグが自分の切った物を見ながら呟いた。
鍋をかき混ぜていたオスカーはチラッとメグの切った玉ねぎを見る。確かにみじん切りにしては大き目だ。
「こっちから、こう包丁を動かせば…」
ニクスがメグの後ろから、メグの両手に自分の手を重ねた。
メグが身体を固くする様子が、オスカーには分かった。
若い女性が若い男性に近付かれると示す当然の反応の範囲内だろうか。オスカーにはもう少し過剰にメグが緊張しているように見えた。
「ニクス、隣で見本を見せた方が良い」
オスカーがそう言うと
「そうかな?じゃあ…」
ニクスはメグの隣に移動し、包丁を動かす。
メグが小さく息を吐いた。
「こう?」
「そうそう」
オスカーは並んで包丁を動かすニクスとメグを見て、鍋に視線を戻した。
メグさんが貴族令嬢だとして、なぜ家を出たのだろう?
文字通り家出?でも何故?
望まない結婚を強いられたか、使用人などと恋に落ちて駆け落ちか…?
だから料理できるようになりたいと?いや、メグさんはこの屋敷で住み込みだ。駆け落ちならば夫と暮らしている筈だから違うだろう。きっと。
オスカーは何故かメグが恋をして駆け落ちしたのを想像するのは嫌だと思った。
「オスカー様、報告を」
夜、シオが姿を現す。
「…何が分かった?」
「メグは東方にあるクロムウェル伯爵家の令嬢のようです」
「ようです?」
「クロムウェル伯爵家の戸籍には現在娘はいません」
「…どう言う事だ?」
訝しげにオスカーが問うと、シオはクロムウェル家の戸籍を差し出した。
「クロムウェル伯爵家当主には現在息子であるロバートしか子供はいないとなっていますが、このロバートの実態がないのです」
「実態がないとは、居ないと言う事か?」
「そうです。ロバートは戸籍から見ると、現在19歳ですが、近隣を調査した処、どこにも姿を見た者がいません。学園にも身体が弱いと言う理由で入学していません」
オスカーは戸籍をじっと見つめる。
「娘が、生まれてすぐに死んでいるな」
「はい。ロバートより二歳下の娘が生まれてすぐに亡くなっています。オスカー様、影が自分の憶測を述べるのは良くないとは知っていますが…」
「俺はかまわん。言え。俺の憶測との答え合わせだ」
「では。私は、この娘が亡くなった時、実際亡くなったのは息子ロバートだったのではないかと考えます」
「…俺も同じ考えだ」
生まれてすぐ死んだ娘の名は「マーガレット」となっていた。マーガレットの愛称で代表的な物がメグだ。ロバートが二歳で亡くなった時、マーガレットが亡くなった事にされ、ロバートの死とマーガレットの存在は隠されて来たのだ。
何のために?跡継ぎが必要だったからか?
では何故今メグさんは家を離れたんだ?
「引き継ぎ調査します」
「頼む」
シオが姿を消した。
いつか…クロムウェル家へ戻るのか?
無表情で、でも一生懸命に包丁を使うメグ、オスカーやジョンが調理する処を真剣に見ているメグ、メイド仲間と掃除や洗濯をしているメグの姿をを思い出す。
…笑ったら、かわいいんだろうな。
「オスカー様?」
目の前にメグの赤い瞳が見えた。
「お塩はこのくらいで良いのでしょうか?」
肉に下味を付けるための塩を指で摘み、メグが言う。
「そうですね。そのくらいで」
メグがパラパラと塩を落としていくのを眺める。
「…メグさんは、何で料理ができるようになりたいのですか?」
メグが視線を上げる。オスカーと視線が合った。
「自立…したいのです。どこででも、一人で生きていけるように」
「自立?」
どこででも一人で。と言う事はいつかここからいなくなる?
ふと、オスカーは嫌な気配を感じる。
「…メグさん、こちらへ」
メグに手を伸ばすと、一瞬躊躇する様子が見えた。
息を飲み込んでからオスカーの手を取る。オスカーはゆっくりとメグの手を引き、自身の後ろへ庇った。
この、メグさんの反応…あの頃のオリビアにそっくりだ。
その時、バンッと音を立てて厨房の扉が開いた。
所作が綺麗で言葉使いも丁寧。言葉にしてしまえばそれだけの違和感だったが、メグは市井の娘らしくない。
「オスカーが気になるなら調べてみれば良い。『影』を使う訓練にもなる」
ダグラスはオスカーの肩をポンと叩いて去って行った。
オスカーは情報管理機関を統括する家の嫡男だった。諜報員、間者、影と呼ばれる者たちをまとめ、使うのが役目だったため、個人に「影」を付けた事はなかった。
パリスの側仕えになる事になり、ダグラスの「影」の紹介でオスカー個人の「影」が付いたばかりなのだ。
「シオ」
そう呼ぶと、オスカーの前に騎士服の男性が現れ、跪く。
「シオ、メイドのメグの素性を調べてくれ」
「了解」
短く言うとシオは姿を消す。
「シオともまだあんまり喋った事ないなあ」
ダグラスの影のルイ、オリビアの元影のジル、一緒にいる期間が長いせいか、この二組の信頼関係は側から見ていてもよく分かる。シオと自分はまだ数カ月だ。あんな風になれるまでにどのくらい掛かるのか…オスカーはシオの跪いた辺りを見てため息を吐いた。
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「メグ、みじん切りになってないぞ。それ」
玉ねぎをみじん切りにするメグを見て、ニクスが言う。
「…そうね」
メグが自分の切った物を見ながら呟いた。
鍋をかき混ぜていたオスカーはチラッとメグの切った玉ねぎを見る。確かにみじん切りにしては大き目だ。
「こっちから、こう包丁を動かせば…」
ニクスがメグの後ろから、メグの両手に自分の手を重ねた。
メグが身体を固くする様子が、オスカーには分かった。
若い女性が若い男性に近付かれると示す当然の反応の範囲内だろうか。オスカーにはもう少し過剰にメグが緊張しているように見えた。
「ニクス、隣で見本を見せた方が良い」
オスカーがそう言うと
「そうかな?じゃあ…」
ニクスはメグの隣に移動し、包丁を動かす。
メグが小さく息を吐いた。
「こう?」
「そうそう」
オスカーは並んで包丁を動かすニクスとメグを見て、鍋に視線を戻した。
メグさんが貴族令嬢だとして、なぜ家を出たのだろう?
文字通り家出?でも何故?
望まない結婚を強いられたか、使用人などと恋に落ちて駆け落ちか…?
だから料理できるようになりたいと?いや、メグさんはこの屋敷で住み込みだ。駆け落ちならば夫と暮らしている筈だから違うだろう。きっと。
オスカーは何故かメグが恋をして駆け落ちしたのを想像するのは嫌だと思った。
「オスカー様、報告を」
夜、シオが姿を現す。
「…何が分かった?」
「メグは東方にあるクロムウェル伯爵家の令嬢のようです」
「ようです?」
「クロムウェル伯爵家の戸籍には現在娘はいません」
「…どう言う事だ?」
訝しげにオスカーが問うと、シオはクロムウェル家の戸籍を差し出した。
「クロムウェル伯爵家当主には現在息子であるロバートしか子供はいないとなっていますが、このロバートの実態がないのです」
「実態がないとは、居ないと言う事か?」
「そうです。ロバートは戸籍から見ると、現在19歳ですが、近隣を調査した処、どこにも姿を見た者がいません。学園にも身体が弱いと言う理由で入学していません」
オスカーは戸籍をじっと見つめる。
「娘が、生まれてすぐに死んでいるな」
「はい。ロバートより二歳下の娘が生まれてすぐに亡くなっています。オスカー様、影が自分の憶測を述べるのは良くないとは知っていますが…」
「俺はかまわん。言え。俺の憶測との答え合わせだ」
「では。私は、この娘が亡くなった時、実際亡くなったのは息子ロバートだったのではないかと考えます」
「…俺も同じ考えだ」
生まれてすぐ死んだ娘の名は「マーガレット」となっていた。マーガレットの愛称で代表的な物がメグだ。ロバートが二歳で亡くなった時、マーガレットが亡くなった事にされ、ロバートの死とマーガレットの存在は隠されて来たのだ。
何のために?跡継ぎが必要だったからか?
では何故今メグさんは家を離れたんだ?
「引き継ぎ調査します」
「頼む」
シオが姿を消した。
いつか…クロムウェル家へ戻るのか?
無表情で、でも一生懸命に包丁を使うメグ、オスカーやジョンが調理する処を真剣に見ているメグ、メイド仲間と掃除や洗濯をしているメグの姿をを思い出す。
…笑ったら、かわいいんだろうな。
「オスカー様?」
目の前にメグの赤い瞳が見えた。
「お塩はこのくらいで良いのでしょうか?」
肉に下味を付けるための塩を指で摘み、メグが言う。
「そうですね。そのくらいで」
メグがパラパラと塩を落としていくのを眺める。
「…メグさんは、何で料理ができるようになりたいのですか?」
メグが視線を上げる。オスカーと視線が合った。
「自立…したいのです。どこででも、一人で生きていけるように」
「自立?」
どこででも一人で。と言う事はいつかここからいなくなる?
ふと、オスカーは嫌な気配を感じる。
「…メグさん、こちらへ」
メグに手を伸ばすと、一瞬躊躇する様子が見えた。
息を飲み込んでからオスカーの手を取る。オスカーはゆっくりとメグの手を引き、自身の後ろへ庇った。
この、メグさんの反応…あの頃のオリビアにそっくりだ。
その時、バンッと音を立てて厨房の扉が開いた。
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