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番外編1-3

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ナタリー編3

 ナタリーの妊娠が分かったのは王妃殿下の第二子の懐妊が公表された頃だった。
「この子は順調に生まれれば陛下と王妃殿下のお子様と同級生になりますね。少し遅れたら一学年下かしら」
「そうか…」
 ヒューゴはまだ膨らんでいないナタリーのお腹を撫でた。

 そして、冬に第二王子が、春先にヒューゴとナタリーの娘が誕生する。
「女の子…」
 ヒューゴはオリビアと名付けた我が子をじっと見ると、言った。
「この子を、王妃にする」

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 オリビアが生まれてから、事あるごとにヒューゴはオリビアに「オリーお前は将来王妃になるのだから」と言っている。
 「王妃になれば策謀から逃れられないから」とまだ3歳になったばかりのオリビアに専属の間諜を付け、嫡男であるオスカーと同じように教育を受けさせた。
 王宮の要職の者や議会でもオリビアと第一王子の婚約にと働きかける。

 それでも、オリビアが9歳の頃、第一王子は同い年の公爵令嬢と婚約する事が決まった。
 その決定を知った夜、ヒューゴは眠るオリビアの髪を撫で
「何、第一王子の相手は決まったが、まだ第二王子もいる。第一王子に何事かがあれば第二王子が王位に着くんだからな。諦める事はないぞオリー」
 と言った。

 第一王子の婚約が決まればきっと諦めると思ってたのに…どうして?
 どうしてそんなにオリーを王家に嫁がせる事に固執するの?

「…ヒューゴ様は何故そんなにオリー…オリビアを王妃にしたいのですか?」
 ナタリーが問うと、ヒューゴは眠るオリビアの頬に触れる。
「オリーの顔を見た時『この子は王妃になる娘だ』と思ったのだ」
 ナタリーは泣きそうになりながら言った。
「…オリビアにオリー様を重ねているのですか?」
「何を…?オリーに?」
「だって『オリー』って呼びたいから…この子をオリビアと名付けたんでしょう?」
「は?…ナタリー、なぜ泣く?」
「だって、ヒューゴ様、小さい頃からずっとオリー様を好きなんでしょう?」
 涙を流すナタリーに、ヒューゴが手を伸ばす。
「小さい頃は…そうだが」
 ナタリーは後退ってヒューゴの手をかわした。
「小さい頃だけじゃなく、大人になってからも」
「違う、ナタリー」
 ナタリーは首を横に振る。
「だって、私の卒業パーティーでもオリー様に見惚れていたし」
「卒業パーティー?いや、あの時は…」
「侍女の子供が陛下の御子ではないかと疑われた時には、陛下の御子でなくて残念そうだったわ。オリー様の傷心に付け込もうと思っていたんでしょう?」
「なっ!そんな不敬な!」
 ヒューゴは驚愕しながら、ナタリーの手を掴んだ。
「違うんだ。ナタリー」
「何が違うの?」
 ヒューゴはナタリーの手を引き、背中に手を回しながら言った。
「…ナタリーが、陛下に憧れているからだ」
「……私?」

 ヒューゴはナタリーを抱きしめたまま話し出す。
「私は…髪も瞳も茶色で、自分の色のドレスをナタリーに贈る事ができなかった」
 確かに、茶色のドレスもシックで良いと思うが、年若い令嬢の卒業パーティーには相応しくないだろう。
「それで、せめてリボンだけでも…と。リボンに合わせて色を選んだら薄い緑になった」
「そうね…」
 薄緑のドレスのウエストにブラウンのリボン。ナタリーは卒業パーティーにヒューゴから贈られたドレスを思い出す。
「そうしたら、陛下…あの時はまだ即位前だったから王太子殿下か。殿下の衣装が緑だったんだ」
「オリー様の瞳の色だわ」
「そうなんだが…ナタリーの薄緑のドレスと…お揃いのように感じたんだ。私は」
「ええ~」
 あの時のヒューゴはそんな事を考えて壇上を眺めていたのか。ナタリーは驚いて、ヒューゴを見ようとするが、抱きしめる力が強くなって身動きができなくなる。どうやらヒューゴは顔を見られたくないらしい。

 もしかして…照れているの…?

「即位と婚儀の後のパレードも見に行って、オリー様は美しくて、陛下はとても麗しかったと言っていた」
「そうね。あんなに麗しい男の方はそうそういませんから」
「そうだな。…ナタリーは陛下の様な麗しい男が好みなんだろう?」
「ええ?陛下は確かに麗しいですけど、好みと言うか…『観賞用』ですわ」
「観賞用?」
「見るのが楽しいと言うか、言うなれば、絵画や物語の挿絵のような。え?もしかしてヒューゴ様、陛下に嫉妬を…?」
「…私は陛下のように麗しくないからな」
 ヒューゴはナタリーを一層強く抱きしめる。ナタリーは思わずポカンと口を開けた。
「…侍女の子供の疑惑の時も、もし陛下の御子なら、ナタリーの幻想が解けるかと思ったんだ」
「…幻想」
「陛下だって完璧な男ではない、と」

 ヒューゴ様、もしかして…ずっと…私が陛下を男性として思慕していると思っていたの?

「…ヒューゴ様」
 ナタリーはヒューゴの背中に手を回す。
「……」
「私、あの時のドレスのリボン、まだ持っていますわ」





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