40 / 48
番外編1-1
しおりを挟む
ナタリー編1
ああ…この人、本当にオリー様を好きなのね。
ナタリーは、カフェに入って来たオリーを見た瞬間に眼を輝かせる目の前の自身の婚約者をぼんやりと眺めた。
「あら、ナタリー様とヒューゴ様、ごきげんよう」
「ごきげんようオリー様」
「…ごきげんよう。オ、オリー嬢」
あ、どもった。緊張しているのね。
挨拶を交わすとオリーは店の奥へ行く。奥には個室があるのだ。
ナタリーは、無表情なのに少し耳を赤くしてオリーの後ろ姿を見ているヒューゴの様子を観察していた。
エバンス侯爵家の嫡男ヒューゴと、オリー・マーシャル公爵令嬢は同い歳だ。
ヒューゴとオリーは王子、王女の遊び相手として小さい頃から王宮でよく顔を合わせていたそうだ。
ヒューゴはずいぶん前からオリーを好きだったらしいが、オリーは14歳の時、六歳年上の第一王子と婚約したので、当時ヒューゴは随分落ち込んだらしい。と、ヒューゴの妹から聞いた。
子爵令嬢であるナタリーがヒューゴと婚約したのはつい最近の事で、ナタリーは今学園の四年生で18歳になったばかり、ヒューゴは三歳年上の21歳だ。
ナタリーは特にヒューゴを好きでも嫌いでもない。貴族の婚約など皆こんなものだろうと思っていた。
好きって、どんな感じなのかしら。婚約者が他の女性を想っているのって、普通はもっと切なかったり淋しかったりするのよね?
「どうした?」
じっとヒューゴを見つめていると、視線に気づいたヒューゴが訝しげにこちらを見た。
「…いえ。オリー様が来られたと言う事は殿下もこのカフェに来られるのかな、と思いまして」
「ナタリーは王太子殿下のファンだったか」
「そうですね。立太子式の殿下はとても麗しかったですわ」
ナタリーはうっとりと数年前の第一王子の立太子式を思い出す。
「…そうだな」
ヒューゴは苦笑いして、お茶を飲んだ。
-----
「王太子殿下とオリー様は何故まだご結婚されないのかしら?」
ヒューゴの妹のシンディーが言う。
シンディーはナタリーの一つ年下で、今日はシンディー主催のお茶会にナタリーも参加している。
「何でも、王太子殿下にもオリー様にも、それぞれお互い以外に想う方がおられるとか、おられないとか…」
お茶会に参加した令嬢の一人がそう言うと、他の令嬢も口々に「結局おられるんですか?おられないんですか?」「私はオリー様の王太子妃教育が捗っていないからと聞きましたわ」「だから他に想う方がおられるから勉強に身が入らないのでは?」「殿下の方が結婚を引き延ばしておられる説は?」「オリー様のご友人をお好きなのではとの噂が…」「ええ~!?」と盛り上がる。
ナタリーが「皆さま情報通なのですね…」と呟くと、シンディーが「ナタリー様は呑気過ぎますわ」と言う。
「我がエバンス侯爵家は王宮の情報管理部門の統括を担っているんです。その嫡男の婚約者は当然この程度の情報は知っておかなければいけないのです!」
シンディーの力説に周りの令嬢も頷く。ナタリーは肩を竦めて
「…精進します」
と言った。
「そう言えば、オリー様の想い人はヒューゴ様では、という噂もありますわね」
令嬢の言葉に一同が騒めく。シンディーはハッとした様子を見せ、ナタリーはポカンと口を開ける。
「…お兄様?確かにオリー様は小さい頃からよく知ってはいますが…」
シンディーはそう言うと、ナタリーに視線をやる。
「こ、この程度の真偽不明の情報に当たっても、決して困ったり焦ったりしないよう、冷静に物事を処理分析するのですわ」
「承知しました」
シンディーも初耳のようだわ。
オリー様の想い人がヒューゴ様?
…まさか、ね。
「あら、私はオリー様の想い人はマーシャル家の庭師だと聞きましたわ」「私はオリー様の家庭教師のご兄弟と」「出入りの商人と」「まあ~物語みたいですわね」「身分違いの恋ですわ」「この間のお舞台みたいですわ」「私も見ました!」
「…話が逸れたようね」
シンディーが小声でナタリーに言う。
「そうね」
「…私はオリー様を昔から知っているけれど、オリー様に本当に想い人が居たとしても、それはお兄様ではないわ」
「シンディー…」
「絶対違うから…気にしないでね」
私が気にするといけないと思ってくれたのね。
「ありがとう。シンディー」
ナタリーはシンディーに笑顔を向けた。
ナタリーが卒業を三カ月後に控えた冬、国王が倒れる。そして、わすが一カ月で崩御。
春には王太子が王位を継承し、王位継承の儀と同時に婚礼の儀を執り行う事が決定した。
ああ…この人、本当にオリー様を好きなのね。
ナタリーは、カフェに入って来たオリーを見た瞬間に眼を輝かせる目の前の自身の婚約者をぼんやりと眺めた。
「あら、ナタリー様とヒューゴ様、ごきげんよう」
「ごきげんようオリー様」
「…ごきげんよう。オ、オリー嬢」
あ、どもった。緊張しているのね。
挨拶を交わすとオリーは店の奥へ行く。奥には個室があるのだ。
ナタリーは、無表情なのに少し耳を赤くしてオリーの後ろ姿を見ているヒューゴの様子を観察していた。
エバンス侯爵家の嫡男ヒューゴと、オリー・マーシャル公爵令嬢は同い歳だ。
ヒューゴとオリーは王子、王女の遊び相手として小さい頃から王宮でよく顔を合わせていたそうだ。
ヒューゴはずいぶん前からオリーを好きだったらしいが、オリーは14歳の時、六歳年上の第一王子と婚約したので、当時ヒューゴは随分落ち込んだらしい。と、ヒューゴの妹から聞いた。
子爵令嬢であるナタリーがヒューゴと婚約したのはつい最近の事で、ナタリーは今学園の四年生で18歳になったばかり、ヒューゴは三歳年上の21歳だ。
ナタリーは特にヒューゴを好きでも嫌いでもない。貴族の婚約など皆こんなものだろうと思っていた。
好きって、どんな感じなのかしら。婚約者が他の女性を想っているのって、普通はもっと切なかったり淋しかったりするのよね?
「どうした?」
じっとヒューゴを見つめていると、視線に気づいたヒューゴが訝しげにこちらを見た。
「…いえ。オリー様が来られたと言う事は殿下もこのカフェに来られるのかな、と思いまして」
「ナタリーは王太子殿下のファンだったか」
「そうですね。立太子式の殿下はとても麗しかったですわ」
ナタリーはうっとりと数年前の第一王子の立太子式を思い出す。
「…そうだな」
ヒューゴは苦笑いして、お茶を飲んだ。
-----
「王太子殿下とオリー様は何故まだご結婚されないのかしら?」
ヒューゴの妹のシンディーが言う。
シンディーはナタリーの一つ年下で、今日はシンディー主催のお茶会にナタリーも参加している。
「何でも、王太子殿下にもオリー様にも、それぞれお互い以外に想う方がおられるとか、おられないとか…」
お茶会に参加した令嬢の一人がそう言うと、他の令嬢も口々に「結局おられるんですか?おられないんですか?」「私はオリー様の王太子妃教育が捗っていないからと聞きましたわ」「だから他に想う方がおられるから勉強に身が入らないのでは?」「殿下の方が結婚を引き延ばしておられる説は?」「オリー様のご友人をお好きなのではとの噂が…」「ええ~!?」と盛り上がる。
ナタリーが「皆さま情報通なのですね…」と呟くと、シンディーが「ナタリー様は呑気過ぎますわ」と言う。
「我がエバンス侯爵家は王宮の情報管理部門の統括を担っているんです。その嫡男の婚約者は当然この程度の情報は知っておかなければいけないのです!」
シンディーの力説に周りの令嬢も頷く。ナタリーは肩を竦めて
「…精進します」
と言った。
「そう言えば、オリー様の想い人はヒューゴ様では、という噂もありますわね」
令嬢の言葉に一同が騒めく。シンディーはハッとした様子を見せ、ナタリーはポカンと口を開ける。
「…お兄様?確かにオリー様は小さい頃からよく知ってはいますが…」
シンディーはそう言うと、ナタリーに視線をやる。
「こ、この程度の真偽不明の情報に当たっても、決して困ったり焦ったりしないよう、冷静に物事を処理分析するのですわ」
「承知しました」
シンディーも初耳のようだわ。
オリー様の想い人がヒューゴ様?
…まさか、ね。
「あら、私はオリー様の想い人はマーシャル家の庭師だと聞きましたわ」「私はオリー様の家庭教師のご兄弟と」「出入りの商人と」「まあ~物語みたいですわね」「身分違いの恋ですわ」「この間のお舞台みたいですわ」「私も見ました!」
「…話が逸れたようね」
シンディーが小声でナタリーに言う。
「そうね」
「…私はオリー様を昔から知っているけれど、オリー様に本当に想い人が居たとしても、それはお兄様ではないわ」
「シンディー…」
「絶対違うから…気にしないでね」
私が気にするといけないと思ってくれたのね。
「ありがとう。シンディー」
ナタリーはシンディーに笑顔を向けた。
ナタリーが卒業を三カ月後に控えた冬、国王が倒れる。そして、わすが一カ月で崩御。
春には王太子が王位を継承し、王位継承の儀と同時に婚礼の儀を執り行う事が決定した。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる