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「オリビア、結婚しないとは!?」
ダグラスが驚愕の表情でオリビアの肩を掴む。
「あ!違うの。今は!『まだ』しないって意味で…」
「…どうしてだ?」
ダグラスが問うと、オリビアは視線を落とす。
「…リネット様が」
「リネット?」
「エバンス家が拉致監禁した伯爵令嬢です」
ジルが口を挟む。
「ああ。その令嬢が?」
「だって、私のせいだもの…」
オリビアな目に涙が浮かぶ。ダグラスは慌ててオリビアを抱き寄せる。
「泣くな」
髪を撫でられると、ますます涙が溢れて来た。
「リネット様がまだご結婚されていないのは、きっと私のせいだもの…」
国境の街に来ても、王都の貴族の噂話は入って来た。
オリビアは、リネットは学園を卒業するとすぐに婚約者と結婚するだろうと思っていた。救出に来たリネットの婚約者がリネットをとても愛おしそうに扱っていたからだ。
しかし、卒業して二年経つ今もリネットが結婚したとの話は聞いていない。
オリビアがリネットを拐ったのは、王太子妃になれない立場にするためだったが、もしや、リネットの婚約者も、いざとなると拐かされた醜聞のある婚約者との結婚を渋り始めたのではないか。
「バーストン伯爵家の令嬢ですね。調べて来ます」
そう言って、ルイが姿を消す。
「オリビア様、リネット様が結婚されるまでご自分も結婚されないつもりですか?」
ジルが言うと、オリビアは頷く。
「…オリビア様はやっぱり馬鹿ですね」
ジルがため息混じりに言った。
「オリビアがそう思うなら、俺はかまわん」
「え?」
オリビアは顔を上げてダグラスを見る。
「その令嬢が幸せにならない限り、自分は幸せになってはいけないとオリビアは考えているんだな?」
ダグラスはオリビアの頬に手を当てる。こくんとオリビアが頷くと、自分の額をオリビアの額に付ける。
「それなら、俺は待つ」
「ダグラス…」
「コホン。あー私は消えますので、甘々は二人きりの時にどうぞ」
ジルはわざとらしく咳払いしながら言うと
「あ、報告ですが、私、ルイと結婚する事にしましたので」
そう言い残して姿を消した。
-----
「え?…えええー!?」
ジルが立っていた場所を凝視してオリビアは驚愕し目を見開く。涙はどこかへ行ってしまった。
「なるほどな」
ダグラスはオリビアを背中から抱き込むと頷いた。
「なっダグラス。何が『なるほど』なの?」
お腹に腕を回されて肩に顎を乗せられた。
「『裏』の人間と一緒になれば、裏から抜けずに実質引退できるからな」
「そうなの?」
「情報を漏らしたり『裏』に不利益な行動をしないか、一緒になった人間が監視できる」
「監視…」
「ルイなら俺と無期限専属個人契約だし、俺とオリビアが結婚すれば必然的にジルもオリビアの側にいられる」
「そのために?」
「それだけじゃなく、ルイはジルを気に入ってると思うぞ」
「そうなの?」
それなら、良い。利害関係だけでなく、ジルにも幸せになって欲しかった。
「まあ態度に出る訳じゃないから、わかりにくいけどな」
そう言いながら、ダグラスはオリビアの耳朶を舐めた。
「ひゃあ!」
「ここも上書き」
耳に息を吹き掛けながら言う。
どうやらルイからガイアの供述の報告を受けたらしい。
ガイアは学園の一年生の頃から一学年上のオリビアを知っていたらしい。侯爵である父親がオリビアを王太子妃にしたがっていたと噂で聞き、大商家であるハモンド商会会長のガイアの父親が、爵位を欲しがる様子と重なり、興味を持ったのだ。
それでもその頃はまだ侯爵令嬢であるオリビアに対し、特別な感情はなかった。
それが、エバンス侯爵家が取り潰された事により変化した。
金に飽かせて取り潰された理由を調べた。
そしてオリビア自身が誘拐事件を起こした事を知る。
ガイアは王都を追われたオリビアが自分の出身である辺境伯領の隣の領地に居る事を知り「運命だ」と思った。
オリビアは市井の人間となった。自分と同じ位置に居る。
子爵家の養女となった事を知った時も、オリビアが爵位を継ぐ訳ではないし、養女など離縁すれば良い事だと気にかけてはいなかった。
卒業し、辺境伯領に戻ったガイアは、オリビアと知り合うきっかけを探していた。
そして、あの夜会でオリビアと会ったのだ。
学園にいた頃と変わらぬ気高さと美しさ。「オリビアと結婚したい」願望が「オリビアは俺と結婚する」妄信へと変わった。
オリビアに会いにセヴァリー家を訪れる。
俺は俺の花嫁に会いたいだけなのに、何故阻まれる?
やっと会えたオリビアとの間に入り込む、この男は誰だ?
オリビアがあの男の領地へ行った?旅行?挨拶?セヴァリー家の当主も、俺の父上も、皆オリビアはあの男と結婚すると言う。
何故?オリビアは俺の花嫁なのに。
オリビアが辺境伯領へ帰って来た。あの男とは別々に一人で。
あの男とは別れたんだね。そうだろう。オリビアは俺の花嫁なんだから。
早く、早くオリビアを俺の物にしなければ。もう二度と他の男に触れさせないように…。
「オリビア、結婚しないとは!?」
ダグラスが驚愕の表情でオリビアの肩を掴む。
「あ!違うの。今は!『まだ』しないって意味で…」
「…どうしてだ?」
ダグラスが問うと、オリビアは視線を落とす。
「…リネット様が」
「リネット?」
「エバンス家が拉致監禁した伯爵令嬢です」
ジルが口を挟む。
「ああ。その令嬢が?」
「だって、私のせいだもの…」
オリビアな目に涙が浮かぶ。ダグラスは慌ててオリビアを抱き寄せる。
「泣くな」
髪を撫でられると、ますます涙が溢れて来た。
「リネット様がまだご結婚されていないのは、きっと私のせいだもの…」
国境の街に来ても、王都の貴族の噂話は入って来た。
オリビアは、リネットは学園を卒業するとすぐに婚約者と結婚するだろうと思っていた。救出に来たリネットの婚約者がリネットをとても愛おしそうに扱っていたからだ。
しかし、卒業して二年経つ今もリネットが結婚したとの話は聞いていない。
オリビアがリネットを拐ったのは、王太子妃になれない立場にするためだったが、もしや、リネットの婚約者も、いざとなると拐かされた醜聞のある婚約者との結婚を渋り始めたのではないか。
「バーストン伯爵家の令嬢ですね。調べて来ます」
そう言って、ルイが姿を消す。
「オリビア様、リネット様が結婚されるまでご自分も結婚されないつもりですか?」
ジルが言うと、オリビアは頷く。
「…オリビア様はやっぱり馬鹿ですね」
ジルがため息混じりに言った。
「オリビアがそう思うなら、俺はかまわん」
「え?」
オリビアは顔を上げてダグラスを見る。
「その令嬢が幸せにならない限り、自分は幸せになってはいけないとオリビアは考えているんだな?」
ダグラスはオリビアの頬に手を当てる。こくんとオリビアが頷くと、自分の額をオリビアの額に付ける。
「それなら、俺は待つ」
「ダグラス…」
「コホン。あー私は消えますので、甘々は二人きりの時にどうぞ」
ジルはわざとらしく咳払いしながら言うと
「あ、報告ですが、私、ルイと結婚する事にしましたので」
そう言い残して姿を消した。
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「え?…えええー!?」
ジルが立っていた場所を凝視してオリビアは驚愕し目を見開く。涙はどこかへ行ってしまった。
「なるほどな」
ダグラスはオリビアを背中から抱き込むと頷いた。
「なっダグラス。何が『なるほど』なの?」
お腹に腕を回されて肩に顎を乗せられた。
「『裏』の人間と一緒になれば、裏から抜けずに実質引退できるからな」
「そうなの?」
「情報を漏らしたり『裏』に不利益な行動をしないか、一緒になった人間が監視できる」
「監視…」
「ルイなら俺と無期限専属個人契約だし、俺とオリビアが結婚すれば必然的にジルもオリビアの側にいられる」
「そのために?」
「それだけじゃなく、ルイはジルを気に入ってると思うぞ」
「そうなの?」
それなら、良い。利害関係だけでなく、ジルにも幸せになって欲しかった。
「まあ態度に出る訳じゃないから、わかりにくいけどな」
そう言いながら、ダグラスはオリビアの耳朶を舐めた。
「ひゃあ!」
「ここも上書き」
耳に息を吹き掛けながら言う。
どうやらルイからガイアの供述の報告を受けたらしい。
ガイアは学園の一年生の頃から一学年上のオリビアを知っていたらしい。侯爵である父親がオリビアを王太子妃にしたがっていたと噂で聞き、大商家であるハモンド商会会長のガイアの父親が、爵位を欲しがる様子と重なり、興味を持ったのだ。
それでもその頃はまだ侯爵令嬢であるオリビアに対し、特別な感情はなかった。
それが、エバンス侯爵家が取り潰された事により変化した。
金に飽かせて取り潰された理由を調べた。
そしてオリビア自身が誘拐事件を起こした事を知る。
ガイアは王都を追われたオリビアが自分の出身である辺境伯領の隣の領地に居る事を知り「運命だ」と思った。
オリビアは市井の人間となった。自分と同じ位置に居る。
子爵家の養女となった事を知った時も、オリビアが爵位を継ぐ訳ではないし、養女など離縁すれば良い事だと気にかけてはいなかった。
卒業し、辺境伯領に戻ったガイアは、オリビアと知り合うきっかけを探していた。
そして、あの夜会でオリビアと会ったのだ。
学園にいた頃と変わらぬ気高さと美しさ。「オリビアと結婚したい」願望が「オリビアは俺と結婚する」妄信へと変わった。
オリビアに会いにセヴァリー家を訪れる。
俺は俺の花嫁に会いたいだけなのに、何故阻まれる?
やっと会えたオリビアとの間に入り込む、この男は誰だ?
オリビアがあの男の領地へ行った?旅行?挨拶?セヴァリー家の当主も、俺の父上も、皆オリビアはあの男と結婚すると言う。
何故?オリビアは俺の花嫁なのに。
オリビアが辺境伯領へ帰って来た。あの男とは別々に一人で。
あの男とは別れたんだね。そうだろう。オリビアは俺の花嫁なんだから。
早く、早くオリビアを俺の物にしなければ。もう二度と他の男に触れさせないように…。
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