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宿の部屋でオリビアはジルに問う。
「ジルはどうやって修道院で女性だと分かってもらったの?」
ジルは無表情で
「脱いで」
と短く言った。
「脱…?」
「自分が女性だと証明できる物など、身体しかないですからね。ええ、脱ぎました。上半身だけですけど」
ジルは早口で言う。
ベッドに座ったオリビアがポカンと口を開けて、立っているジルを眺めると、ジルははあ~と大きなため息を吐く。
「女装なんて、オリビア様に解雇された日以来ですよ…」
オリビアがリネットを連れ去った時、馬車にいたメイドのお仕着せ姿の女性がジルだったのだ。
「女装って、ジルは女性じゃないの」
「男性の姿の方が長いですし、精神的にもしっくり来ます。しっくり来すぎて余程の訓練を受けた、それこそ『裏』の人間にしか女だとは気付かれません」
キッパリと言い切るジルに、オリビアはくすくす笑う。
「オリビア様」
「なあに?」
「ダグラス様も私を男だと思っていましたよ」
「え?」
オリビアはジルを見上げる。
「オリビア様が私に心を許しているのを、苦々しく見ておられました。まあ表情には出ていなかったですけど」
「…表情に出てなければ、本当かどうかわからないじゃないの」
ジルは片眉を上げる。
「わかりませんか?」
「わからないわ。それに、私じゃ…ダグラスの相手にはなれないのよ」
俯くオリビアにジルは呆れたように言った。
「やっぱり、オリビア様は馬鹿ですね」
-----
それからも、オリビアに対するダグラスの態度は変わらなかった。
馬車の乗り降りには手を差し伸べてくれる。食事の時や馬車の中でも談笑する。目が合うと、視線を逸らす事はなく、笑顔を向けてくれる。
オリビアはそれでも距離を感じていた。
頬を手で包まれ、口付けられた。その時の優しくて甘くて熱い眼差しを、無意識に探してしまう。
私では駄目なのに。矛盾しているわ、私。
オリビアは向かいの座席に座り、書類を見ているダグラスを眺める。
ダグラスがふと視線を上げてオリビアと目が合った。
「どうした?」
「…眼鏡、掛けてないんだな、と思って」
オリビアは視線を下げてスカートを握る。
「ああ、修道院の前で投げ捨てたからな。領地屋敷まで戻れば予備がある」
「そう」
紫の瞳のおかげで、あの時あの男の憎悪を、オリビアから逸らし自分へ向ける事ができ、結果オリビアとジルが修道院の門内へ走る隙ができた。
ダグラスは紫の瞳を持った事に、生まれて初めて感謝したのだ。
チャンドラー家の領地屋敷に着くと、また使用人たちに熱烈歓迎された。
ダグラスはオリビアを部屋へ案内すると
「少し話があるんだが、良いか?」
と言った。頷いてオリビアはダグラスを部屋に招き入れる。侍女が二人にお茶を入れて退出すると、ダグラスは言った。
「ここからは、別行動しよう」
「え?」
「俺はここから、ルイと、あの男の件を片付けに王都へ行く」
「……」
「オリビアはこのままジルと一緒にパリスの所へ戻れ」
「…うん」
オリビアは俯いて頷く。
ここから王都まではどのくらいかかるのかしら。王都から領主様の所まではどのくらい?
…もしかして、このままダグラスに会えなく、なるの?
「ダグラス様、後始末は私一人でも充分ですが」
オリビアの部屋を出て、廊下を歩いていると、ダグラスの後ろからルイが声を掛けてくる。
「わかっている。が、俺もそんなに人間ができていない」
「要するに、オリビア様と二人きりの旅は辛い、と」
「……」
ダグラスは眼鏡を押し上げる仕草をするが、そこに眼鏡はなく、小さく舌打ちする。
ずっと二人きりで、いつか理性が飛んでしまったら…きっとジルがダグラスを止めてくれるだろうが、オリビアを怯えさせてしまう。オリビアに怖い思いはもうさせたくはない。
「最初から喧嘩別れをした事にする予定だったんだ。丁度良いだろう」
別行動しようと言われたオリビアは、衝撃を受け、明らかに落ち込んでいた。ダグラスはその様子を思い返す。
どうして、俺を受け入れられないのにあんな表情をする?
ダグラスは自分の部屋に入ると、机の引き出しから予備の眼鏡を取り出すと、胸ポケットへ入れた。
宿の部屋でオリビアはジルに問う。
「ジルはどうやって修道院で女性だと分かってもらったの?」
ジルは無表情で
「脱いで」
と短く言った。
「脱…?」
「自分が女性だと証明できる物など、身体しかないですからね。ええ、脱ぎました。上半身だけですけど」
ジルは早口で言う。
ベッドに座ったオリビアがポカンと口を開けて、立っているジルを眺めると、ジルははあ~と大きなため息を吐く。
「女装なんて、オリビア様に解雇された日以来ですよ…」
オリビアがリネットを連れ去った時、馬車にいたメイドのお仕着せ姿の女性がジルだったのだ。
「女装って、ジルは女性じゃないの」
「男性の姿の方が長いですし、精神的にもしっくり来ます。しっくり来すぎて余程の訓練を受けた、それこそ『裏』の人間にしか女だとは気付かれません」
キッパリと言い切るジルに、オリビアはくすくす笑う。
「オリビア様」
「なあに?」
「ダグラス様も私を男だと思っていましたよ」
「え?」
オリビアはジルを見上げる。
「オリビア様が私に心を許しているのを、苦々しく見ておられました。まあ表情には出ていなかったですけど」
「…表情に出てなければ、本当かどうかわからないじゃないの」
ジルは片眉を上げる。
「わかりませんか?」
「わからないわ。それに、私じゃ…ダグラスの相手にはなれないのよ」
俯くオリビアにジルは呆れたように言った。
「やっぱり、オリビア様は馬鹿ですね」
-----
それからも、オリビアに対するダグラスの態度は変わらなかった。
馬車の乗り降りには手を差し伸べてくれる。食事の時や馬車の中でも談笑する。目が合うと、視線を逸らす事はなく、笑顔を向けてくれる。
オリビアはそれでも距離を感じていた。
頬を手で包まれ、口付けられた。その時の優しくて甘くて熱い眼差しを、無意識に探してしまう。
私では駄目なのに。矛盾しているわ、私。
オリビアは向かいの座席に座り、書類を見ているダグラスを眺める。
ダグラスがふと視線を上げてオリビアと目が合った。
「どうした?」
「…眼鏡、掛けてないんだな、と思って」
オリビアは視線を下げてスカートを握る。
「ああ、修道院の前で投げ捨てたからな。領地屋敷まで戻れば予備がある」
「そう」
紫の瞳のおかげで、あの時あの男の憎悪を、オリビアから逸らし自分へ向ける事ができ、結果オリビアとジルが修道院の門内へ走る隙ができた。
ダグラスは紫の瞳を持った事に、生まれて初めて感謝したのだ。
チャンドラー家の領地屋敷に着くと、また使用人たちに熱烈歓迎された。
ダグラスはオリビアを部屋へ案内すると
「少し話があるんだが、良いか?」
と言った。頷いてオリビアはダグラスを部屋に招き入れる。侍女が二人にお茶を入れて退出すると、ダグラスは言った。
「ここからは、別行動しよう」
「え?」
「俺はここから、ルイと、あの男の件を片付けに王都へ行く」
「……」
「オリビアはこのままジルと一緒にパリスの所へ戻れ」
「…うん」
オリビアは俯いて頷く。
ここから王都まではどのくらいかかるのかしら。王都から領主様の所まではどのくらい?
…もしかして、このままダグラスに会えなく、なるの?
「ダグラス様、後始末は私一人でも充分ですが」
オリビアの部屋を出て、廊下を歩いていると、ダグラスの後ろからルイが声を掛けてくる。
「わかっている。が、俺もそんなに人間ができていない」
「要するに、オリビア様と二人きりの旅は辛い、と」
「……」
ダグラスは眼鏡を押し上げる仕草をするが、そこに眼鏡はなく、小さく舌打ちする。
ずっと二人きりで、いつか理性が飛んでしまったら…きっとジルがダグラスを止めてくれるだろうが、オリビアを怯えさせてしまう。オリビアに怖い思いはもうさせたくはない。
「最初から喧嘩別れをした事にする予定だったんだ。丁度良いだろう」
別行動しようと言われたオリビアは、衝撃を受け、明らかに落ち込んでいた。ダグラスはその様子を思い返す。
どうして、俺を受け入れられないのにあんな表情をする?
ダグラスは自分の部屋に入ると、机の引き出しから予備の眼鏡を取り出すと、胸ポケットへ入れた。
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