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 あの身分も高く美しく気の強い令嬢が、犯され、穢され、泣いて、どん底にいる所を更に凌辱し、息絶えるまでなぶり続けたい。
 三年前、あの男は縛り上げられ、ジルに見下ろされながらそう言った。
 奸物と半端者に「オリビアは自分の野望の邪魔になる貴族令嬢を誘拐し、自らの手の者に凌辱させ、貴族令嬢が被害を公にできないのを良い事に、重罪を逃れた極悪な女だ」「取り潰されたとは言え、財産全てを没収された訳ではない。元侯爵家から金が取れる」と吹き込み、オリビアを拐う計画を実行したのだ。

「私たち『影』はリネット様を連れ去った日を以ってエバンス家から解雇されましたが、私は個人的にオリビア様の情報は随時入れておりましたので…」
 青褪めた顔で震えるオリビアの手を、ジルが優しく摩る。
「ジル」
 オリビアが涙の浮かんだ瞳でジルを見つめる。
 ダグラスは自らの膝に置いた手をグッと握った。
「それで、その男はまだオリビアに執着しているのだな?」
 ダグラスが言うと、オリビアはビクンと肩を揺らし、ジルは頷いた。
「はい。あの男共は去勢してやったんですが、執着は抜けていないみたいです。他の二人は去勢された恨みと投獄された恨みだけのようですが」
「…去勢」
 ダグラスが呟くと、オリビアはポカンと口を開ける。
「警察に引き渡す前に、文字通り全去勢しました。今思えば、このようにオリビア様の安全が侵されるなら、それでも甘かったようですね」

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「じゃあジルはこれからずっと私と一緒にいてくれるの?」
 オリビアが嬉しそうにジルに言う。
 ダグラスはその様子を馬車の向かいの席からぼんやりと眺めていた。
「あの男がこれで諦めるとは思えませんし、オリビア様がセヴァリー家に戻るまでは側にいます」
「セヴァリー家に戻るまで?」
「そうしたら、王都に戻ってあの男に止めを刺します」
「もう。ジルったら」

 楽し気に物騒な話をしているな。

 ダグラスは眼鏡を押し上げる。
 ジルは山での襲撃の際、あの男に止めを刺すつもりだったらしい。それがオリビアの身の安全を優先したため叶わず、王都へ送還された男を追って行こうかと思ったが、万一あの男がまた脱走しオリビアを追って来た場合を考えてオリビアの側にいる事にしたそうだ。
「ねえダグラス。もうダグラスの家の領地に入ったの?」
 オリビアに声を掛けられて視線を上げる。
 ジルはいつの間にかいなくなっていた。

 オリビアは、ジルならいきなり目の前に、自分の部屋に、現れても怯えたりしないのだろうか?

 ダグラスは苦い思いを胸に押し込める。
 押し込めるのは慣れている。幼い頃からずっとそうして来た。
「ああ、夕方にはチャンドラー家の屋敷に着くぞ」
「ダグラス、勘当されてるのに屋敷に行って大丈夫なの?」
「…父がいなければ。父が今、王都にいるのは確認してある」
「そうなのね」

 やっぱり目が合わないな…。

 オリビアは足を組んで書類を眺めているダグラスを見る。
 最近のダグラスはオリビアの方を見ていても、微妙に視線が逸れていて、正面から目が合う事があまりない。目が合ってもすぐ僅かに逸らされる。
 僅かすぎて、最近こうなのか、以前からこうでオリビアが気にし過ぎているのか、判断がつかなかった。
 でも、襲撃されあの男から助けられた時以来、オリビアに触れる事はない。偶然そのような場面にならなかっただけか、意図的に避けられているのかも分からない。

 …何だか遠い。

 オリビアは小さくため息を吐いてダグラスを見た。
 視線を落とすダグラスの顔に窓から差し込む光が当たる。ふと、ダグラスがオリビアを見て、目が合った。

 え…?

「ダグラス…瞳が…」
 ダグラスはハッとして眼鏡を押し上げた。
「気付いたか?」
「光が当たって…」
「そうか」
 ダグラスは真っ直ぐにオリビアを見る。
 窓からの光がダグラスの瞳に入る
 瞳は、紫に、光っていた。

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