16 / 48
15
しおりを挟む
15
「オリビア、これをマリに」
出立する日の朝、朝食の席を立つ時パリスから封筒を渡される。
「お預かりします」
恭しく受け取ると、ダグラスと並んで部屋へ戻る廊下を歩く。
「何だか持っておくのも緊張する手紙ね」
オリビアは両手で持った封筒を目の前に掲げる。
「俺が持っておこうか?」
「ううん。私が預かったんだもの。ちゃんと持っておくわ」
「そうか…じゃあよろしくな。準備が出来たら部屋に迎えに行くから」
「うん。また後でね」
ダグラスと別れて部屋へ向かう。オリビアの部屋の前に男性が立っていた。
「ルイ」
見覚えのない男性だが、何となくルイだと思った。
「頼まれた物を」
紙袋を渡される。
「ありがとう。お使いみたいなお願いしてごめんね」
「いえ、ダグラス様には内密に、という事なら立派な『任務』です」
「ふふ。ありがとう」
ルイは礼をすると廊下を足音も立てずに歩いて行った。
ジルは私が買い物とかを頼むとすごく嫌そうな顔をしてたな。
オリビアは懐かしく思い出しながら、部屋へ入った。
-----
パリスに見送られて馬車が走り出した。
オリビアは馬車の中でふわふわの毛布ともふもふのクッションに埋もれていた。
「ちょっとクッション多過ぎない?」
「座りっぱなしだし、北へ行くほど寒くなるからな」
「ダグラスはいらないの?」
「腰が痛くなったら何個か貸して」
「いいわよ」
「眠くなったら寝ろよ。座席広いから横になっても良いし」
「…うん」
時々休憩したり、食事を摂ったりしながら夜になり、宿に入る。食堂で食事をし、それぞれ部屋に行く。
鍵は確認したが、やはり同じ建物に見ず知らずの人たちが沢山居ると思うと落ち着かない。部屋のお風呂にサッと入ると部屋着を着て、ルイに渡された紙袋を荷物の底から引っ張り出すと、中の薬の包みを数個手持ちのバッグのポケットに入れる。
包みを一つ持ってベッドに座ると、ベッドサイドに置いてある水差しからコップへ水を注いだ。
「…よし!」
気合いを入れてから薬を飲んだ。
暗い…落ちる。
いや、怖い…目が開かない。怖い…。
闇に引き込まれるように眠りに落ちた。
「…うぅ、痛…」
翌朝、オリビアは久しぶりの頭痛で目が覚める。
額を押さえてしばらく動かなければ段々と治る事は経験で分かっている。ダグラスに朝食はいらないと言っておいて良かった。とオリビアは思った。
それでも薬のおかげでまとまった時間眠る事ができたので、昼間は元気に振る舞えた。
小さな街で休憩した時、暇つぶしの本を買い込んだり、おやつを買ったりした。家へ手紙を書くための封筒と便箋、切手も買う。
パリスの屋敷を出発してから一週間、徐々に雪景色になってきた。
「まだまだ北へ行くのよね…ダグラスの領地は雪が沢山降るの?」
オリビアは馬車の窓から外を見ながら言う。
ダグラスは「俺の領地じゃないけどな」と苦笑いする。
「まあ、冬の間はずっと白いな。道を除雪できなくて籠る事もたまにある」
「私、セヴァリー家に来て、初めて雪が積もってるのを見たのよ。綺麗で感動したけど、冷たくてビックリしたわ」
「王都は雪が降っても積もる事ないもんな」
「うん」
「オリビアは…」
「うん?」
ダグラスは手を振ると「なんでもない」と言った。
数日後、昼食のために立ち寄った街は足首まで雪が積もっていた。
「ブーツが要るわね」
馬車の中では楽なように踵のない柔らかい靴を履いている。外に出る時はショートブーツに履き替えていたが、靴底がツルツルしているので雪道では滑りそうだった。
「厚手のコートも要るだろう。オリビア持ってないだろ?」
ダグラスがオリビアに手を差し出す。
「え?」
「滑って転んだらいけないから」
「…うん」
オリビアがダグラスの手の平に自分の手を乗せると、ダグラスはキュッと握る。そのまま手を繋いで歩き出す。
「…手袋も要るかしら?」
「そうだな」
ダグラスはそう言いながら、今のように素手で手を繋げなくなるな、と少し残念に思い、いやいや、滑らないブーツを買えば手を繋いで歩く事はないだろう、と思い直す。
「領主様の髪の毛は染めてるの?」
オリビアが唐突に言う。
「何?急に?」
「白い雪を見てたら、黒い髪を思い出して…」
「なかなかの連想力だな」
ダグラスはクスクス笑う。
「急に気になっちゃって…瞳はそのまま?」
「髪は染めてる。瞳はどうしようもないから人前に出る時は前髪を降ろして、薄く色の着いた眼鏡を掛けて誤魔化してるんだ」
「なるほどね。じゃあダグラスは何故度の入っていない眼鏡をしているの?」
オリビアがそう言うと、ダグラスは一瞬固まる。
「…聞かない方が良かったのね?」
オリビアが窺うように言うと
「…そうだな」
とダグラスは言い、繋いでいない手で眼鏡を押し上げた。
「オリビア、これをマリに」
出立する日の朝、朝食の席を立つ時パリスから封筒を渡される。
「お預かりします」
恭しく受け取ると、ダグラスと並んで部屋へ戻る廊下を歩く。
「何だか持っておくのも緊張する手紙ね」
オリビアは両手で持った封筒を目の前に掲げる。
「俺が持っておこうか?」
「ううん。私が預かったんだもの。ちゃんと持っておくわ」
「そうか…じゃあよろしくな。準備が出来たら部屋に迎えに行くから」
「うん。また後でね」
ダグラスと別れて部屋へ向かう。オリビアの部屋の前に男性が立っていた。
「ルイ」
見覚えのない男性だが、何となくルイだと思った。
「頼まれた物を」
紙袋を渡される。
「ありがとう。お使いみたいなお願いしてごめんね」
「いえ、ダグラス様には内密に、という事なら立派な『任務』です」
「ふふ。ありがとう」
ルイは礼をすると廊下を足音も立てずに歩いて行った。
ジルは私が買い物とかを頼むとすごく嫌そうな顔をしてたな。
オリビアは懐かしく思い出しながら、部屋へ入った。
-----
パリスに見送られて馬車が走り出した。
オリビアは馬車の中でふわふわの毛布ともふもふのクッションに埋もれていた。
「ちょっとクッション多過ぎない?」
「座りっぱなしだし、北へ行くほど寒くなるからな」
「ダグラスはいらないの?」
「腰が痛くなったら何個か貸して」
「いいわよ」
「眠くなったら寝ろよ。座席広いから横になっても良いし」
「…うん」
時々休憩したり、食事を摂ったりしながら夜になり、宿に入る。食堂で食事をし、それぞれ部屋に行く。
鍵は確認したが、やはり同じ建物に見ず知らずの人たちが沢山居ると思うと落ち着かない。部屋のお風呂にサッと入ると部屋着を着て、ルイに渡された紙袋を荷物の底から引っ張り出すと、中の薬の包みを数個手持ちのバッグのポケットに入れる。
包みを一つ持ってベッドに座ると、ベッドサイドに置いてある水差しからコップへ水を注いだ。
「…よし!」
気合いを入れてから薬を飲んだ。
暗い…落ちる。
いや、怖い…目が開かない。怖い…。
闇に引き込まれるように眠りに落ちた。
「…うぅ、痛…」
翌朝、オリビアは久しぶりの頭痛で目が覚める。
額を押さえてしばらく動かなければ段々と治る事は経験で分かっている。ダグラスに朝食はいらないと言っておいて良かった。とオリビアは思った。
それでも薬のおかげでまとまった時間眠る事ができたので、昼間は元気に振る舞えた。
小さな街で休憩した時、暇つぶしの本を買い込んだり、おやつを買ったりした。家へ手紙を書くための封筒と便箋、切手も買う。
パリスの屋敷を出発してから一週間、徐々に雪景色になってきた。
「まだまだ北へ行くのよね…ダグラスの領地は雪が沢山降るの?」
オリビアは馬車の窓から外を見ながら言う。
ダグラスは「俺の領地じゃないけどな」と苦笑いする。
「まあ、冬の間はずっと白いな。道を除雪できなくて籠る事もたまにある」
「私、セヴァリー家に来て、初めて雪が積もってるのを見たのよ。綺麗で感動したけど、冷たくてビックリしたわ」
「王都は雪が降っても積もる事ないもんな」
「うん」
「オリビアは…」
「うん?」
ダグラスは手を振ると「なんでもない」と言った。
数日後、昼食のために立ち寄った街は足首まで雪が積もっていた。
「ブーツが要るわね」
馬車の中では楽なように踵のない柔らかい靴を履いている。外に出る時はショートブーツに履き替えていたが、靴底がツルツルしているので雪道では滑りそうだった。
「厚手のコートも要るだろう。オリビア持ってないだろ?」
ダグラスがオリビアに手を差し出す。
「え?」
「滑って転んだらいけないから」
「…うん」
オリビアがダグラスの手の平に自分の手を乗せると、ダグラスはキュッと握る。そのまま手を繋いで歩き出す。
「…手袋も要るかしら?」
「そうだな」
ダグラスはそう言いながら、今のように素手で手を繋げなくなるな、と少し残念に思い、いやいや、滑らないブーツを買えば手を繋いで歩く事はないだろう、と思い直す。
「領主様の髪の毛は染めてるの?」
オリビアが唐突に言う。
「何?急に?」
「白い雪を見てたら、黒い髪を思い出して…」
「なかなかの連想力だな」
ダグラスはクスクス笑う。
「急に気になっちゃって…瞳はそのまま?」
「髪は染めてる。瞳はどうしようもないから人前に出る時は前髪を降ろして、薄く色の着いた眼鏡を掛けて誤魔化してるんだ」
「なるほどね。じゃあダグラスは何故度の入っていない眼鏡をしているの?」
オリビアがそう言うと、ダグラスは一瞬固まる。
「…聞かない方が良かったのね?」
オリビアが窺うように言うと
「…そうだな」
とダグラスは言い、繋いでいない手で眼鏡を押し上げた。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
溺愛恋愛お断り〜秘密の騎士は生真面目事務官を落としたい〜
かほなみり
恋愛
溺愛されたくない事務官アリサ✕溺愛がわからない騎士ユーリ。
そんな利害が一致した二人の、形だけから始まったはずのお付き合い。次第にユーリに惹かれ始めるアリサと、どうしてもアリサを手に入れたい秘密を抱える騎士ユーリの、本当の溺愛への道。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
Catch hold of your Love
天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。
決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。
当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。
なぜだ!?
あの美しいオジョーサマは、どーするの!?
※2016年01月08日 完結済。
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる