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番外編1

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番外編1

「俺は王太子になってしまったんだな。本当に」
 半月前に立太子式を終えたスアレスは私室のソファで脱力しながら言った。
「立太子式ではご立派でしたわ。スアレス殿下」
 ソファの向かいに座るオードリーがニッコリと微笑む。
「歳下扱いはやめてくれ」
 スアレスは不貞腐れたように言った。
「そういうつもりは…」
 オードリーが首を傾げながら言うと、スアレスは大きなため息を吐いた。
 いつもは大らかで明るいスアレスが今日は明らかにピリピリしている。王太子と云う立場になったプレッシャーだろうか、とオードリーは思う。
 スアレスとオードリーの婚約が公表されたのは一年前の事だ。
 確かにスアレス殿下は私より一つ歳下だけど、殊更歳下扱いをしたつもりはないんだけど…もしかして、何か無意識に態度に出ているのかしら?
「オードリーは、本当は兄上と婚約したかったんだろう?」
「は、い?」
「気持ちはわかるぞ。兄上は素晴らしい方だ。俺だって、結婚するなら俺より兄上が良い」
「殿下?」
「兄上がロッテと恋仲になって王太子を降りたから、オードリーは仕方なく俺と…」
 スアレスが悔しそうに言う。
「ちっ違いますよ!」
 オードリーは慌てて立ち上がった。

「そもそもユリウス殿下はロッテさんと恋仲になったから王太子を辞められた訳ではありません。スアレス殿下はユリウス殿下のお志をよくご存知ではなかったですか?」
 立ち上がったオードリーを見上げるスアレス。
「…確かに兄上は早速ルーカスと共に防災研究所を立ち上げて精力的に活動されているが」
「でしょう?誰が殿下に何を言ったのかは存じませんけど、私だって…」
 私、スアレス殿下との婚約が決まってから、わかった事があるのだけど…これ、言っても良いのかしら?
 私がユリウス殿下と婚約したかったのはユリウス殿下が王太子だからであって、それを私がユリウス殿下自身を好ましく思っていたのに身を引いたみたいに思われるのは違う。
 それに他ならぬスアレス殿下に思われたままにしておく訳にはいかないわ。
「オードリー?」
「誤解を恐れず申し上げますが」
 オードリーは意を決してスアレスを見据える。
「…うん」
 スアレスはごくんと息を飲んだ。

「私は、スアレス殿下がかわいくて仕方がないんです!」
「…は?」
 大きく目を見開くスアレスに、オードリーは堰を切ったように話し出す。
「王太子妃襲撃の夜、私の元へスアレス殿下が来てくださった時も『第二王子派がこんな事を仕出かしたが、俺の意思ではないんだ。済まない』と仰って私に頭を下げてくださいましたよね?あの時、素直で真摯な方だなあと好感を持ちました」
「……」
「それからユリウス殿下から自分の後はスアレスが立太子し将来は王になるから、スアレスと婚約してはどうかと言われた時、私、嬉しかったんです!」
「…え?嬉…?」
 困惑するスアレス。
「スアレス殿下は明るくて素直で大らかで、とてもかわいらしい方です!」
「か…わいい?俺が?」
「そして、私はかわいい男性が好きなんです!」
「……」
「それに気付いたのはスアレス殿下と婚約してからなので、つまり、私はスアレス殿下が好きだと言う事なんです」
「好、き?」
「です」
 言い切って、オードリーはふんっと息を吐く。

「それは…俺でなくてもかわいい男なら好きだと言う事なのか?」
 眉を顰めて言うスアレスに、オードリーはブンブンと首を横に振った。
「いえ、殿下以外の男の人を『かわいい』と思った事はありません」
「じゃあ…オードリーが好きなのは…俺だけ?」
「そうです」
「…俺を、好き?」
「そうです」
「…そ…そうなのか…」
 スアレスは自分の口元を押さえると頬から耳まで赤くなった。

「昨日、教会から許可が出たと兄上とロッテが婚約の挨拶に来ただろう?」
「ええ」
 家族への挨拶なので、スアレスの婚約者であるオードリーもその場に居たのだ。
「兄上もロッテも嬉しそうで幸せそうで…いいな、と思ったんだ。俺もオードリーとあんな風に幸せになりたい、と」
「はい」
「そこで、オードリーは本当は兄上と婚約したかったんだから、俺みたいな歳下の、王太子としても未熟な男が相手では不満なのではないかと…」
 なるほど。そう思ってたから歳下扱いされる事に敏感になられていたのね。
「逆です」
「逆?」
「そうです。婚約してから一年経ちますが、私はスアレス殿下がかわいさをそのままに段々と男らしくなられるのを…それを近くで見られてものすごくときめいています」
 オードリーはをキラキラさせて言う。
「…そ、そうなのか」
 少し引きながらスアレスは頷く。

「つまり、オードリーは婚約したのが俺で良かったと思っている、と言う事で…良いのか?」
「はい!」
 満面の笑みで頷いたオードリーに、スアレスも笑って言った。
「俺もオードリーが好きだから、良かった」



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