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「お兄様の結婚相手は、美しくて、優しくて、嫋やかで、清楚で、奥ゆかしくて、優雅で、艶やかで、麗しい人でないと!私は絶対に認めないわ!」
 シャーロットの後ろから声を上げたのはアイリーンだ。
「アイリーン殿下」
 シャーロットは笑顔で振り向く。
「殿下、まだそんな事仰ってるんですか?」
 フェリシティは呆れたように言った。
「本当にそう思っているんだもの。何度だって言うわ」
 ツンと澄ました表情でアイリーンは言う。
 これはアイリーンとシャーロットが顔を合わせる度に言ういわばお約束の遣り取りなのだ。
「すみません。当てはまらなくて」
 シャーロットがにっこり笑って言うと、シャーロットの腰が後ろへグイッと引かれた。

「美しくて、優しくて、嫋やかで、清楚で…後は何だ?」
 ユリウスがシャーロットを後ろから抱きしめ、微笑みながらながら言う。
「ユリウス殿下!ひ、人前です」
 慌てるシャーロットに構わず、ユリウスはシャーロットの肩に顎を乗せる。ヒールのシャーロットとユリウスは、ユリウスの方が少しだけ背が高い。
「奥ゆかしくて、優雅で、艶やかで、麗しい、ですわ」
 アイリーンがそう言うと、ユリウスは口角を上げた。
「当て嵌まるだろ?ロッテに、全部」

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 くるりと身体が回ると、ドレスの裾のレースがふわりと揺れる。
「楽しそうね。ロッテ」
 ルーカスとダンスをしながら、シャーロットとユリウスが踊る姿を見てマリアは言った。
「そうだな。ユリウス殿下が上手いからだな。あれを見てロッテの運動神経がだなんて誰も思わないぞ」
 ルーカスが感心したように言う。
「グリフ様は背が高くてガッチリ体型で、ロッテとのバランスが良かったですけど…ユリウス殿下は細身だしヒールのロッテと身長差はあんまりないし、どうなのかな、と思いましたけど、実際見るといい感じですね」
「細身とは言え、ヒョロい訳じゃないからな。ユリウス殿下も『絶対グリフより俺の方がロッテに似合うと周りに言わせてやる』と仰られていたし」
「そうなんですか?」
 ユリウス殿下、本当にロッテの事好きなんだなあ。今も楽しそうなロッテの事、嬉しそうな表情で見てるし。

「グリフ様と言えば、ユリウス殿下の護衛騎士を辞めてスアレス殿下に付かれるって聞きましたけど」
 ステップを踏みながらルーカスを見上げる。
「ああ。王太子と第二王子では護衛の人数も内容も大きく違うから、スアレス殿下の護衛騎士団が将来の近衛隊として機能するようになるまでの期間限定だがな」
「ああ…そういう事なんですか」
「実際、スアレス殿下の騎士団へ移る者もいるし、侍従もスアレス殿下付きに変わる者もいる。私もスアレス殿下の立太子まではスアレス殿下の侍従たちの指導をする事になった」
 それは…前からスアレス殿下に付いている方たちと軋轢があったりしないのかな?
 ルーカスを上目遣いで見ると、それに気付いたルーカスはマリアに笑顔を向けた。
「スアレス殿下が素直に『兄好き』を表に出すようになられたから、騎士も侍従も、ユリウス殿下付きの侍従や騎士に敬意を示してくれているし、自分たちが王太子や王に仕える事になるなど思ってもいなかったから、私たちが実際に王太子に付いているという実績からも頼りにされてるよ」
「それなら良かったです」
 マリアが安心したように微笑むと、ルーカスもマリアに向けて微笑んだ。

「楽しいか?」
「はい!とっても!」
 ニコニコ笑うシャーロットに、ユリウスは目を細める。
「ルーカスとも練習したのか?」
「はい」
「俺とどちらが踊りやすい?」
「殿下とお兄様と、ですか?」
 ユリウスは無言で頷く。
「踊りやすさで言えば…お兄様…ですかね」
 おずおずと言う。
「そうか」
 ユリウスは苦笑いを浮かべた。
「あの、お兄様だと遠慮がないから。それだけですよ?」
「では、俺とグリフでは?」
 ユリウスが探るように言うと、シャーロットは困惑しながら言う。
「グリフ様とは一回しか踊った事ないですけど…」
「……」
 じっとシャーロットを見るユリウス。
 これはどっちかハッキリ言わないと許されない感じ?
 ユリウス殿下って言うのが正解なんだろうけど…
「…グリフ様、です」
「…そうか」
 落胆の表情のユリウスに、シャーロットは慌てて言った。
「違うんです。踊りやすさだけですよ」
「そうだな」
 声が沈んでいる。シャーロットから外れた視線が空を泳いだ。
 違うのに。

「だっ、て。殿下と踊ると、ド、ドキドキし過ぎるんです!」
 シャーロットがそう言うと、ユリウスの視線がシャーロットに戻る。
「ドキドキ…」
「そうです。いつもものすごくドキドキしてます。あの…嬉しくて」
 頬を染めてシャーロットが言うと、ユリウスは破顔して、シャーロットに顔を近付けると唇にチュッとキスをした。



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