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 バタンッ!

 扉が開いて黒尽くめの男たちが剣を構えて病室へ入って来る。十人はいるだろうか。
「何者だ!?」
 グリフが剣を振り先に入って来た二人を薙ぎ払い、ルーカスも男の剣を自分の剣で受け止めた。
「筆頭侍従に護衛隊副隊長、婚約者候補が二人、揃っているとは都合が良いな」
 男の一人が無機質な声で言う。
「第二王子派か!?」
 剣を振り上げる黒尽くめの男二人に応戦しながらルーカスが言った。

 キンッ!キンッ!

 シャーロットは剣が交わる音を聞きながらベッドを降りると、目を覚ましたマリアと部屋の窓の方へ逃げる。
「いざとなったら…」
 シャーロットが窓の方をチラッと見る。
「ここ三階だけど…仕方ないわね」
 窓は外開きの二枚扉。窓の外には大きな木。幹は飛び移れる程近くはないが、窓近くまで枝が伸びて来ている。窓の下には植え込み。怪我はするだろうが、落下しても命は助かる確率が高いだろう。
 明るい内にそれを確認していたマリアも頷いた。

「陛下が視察にお連れになったのはスアレス殿下だ!スアレス殿下を跡継ぎにと望まれているのは明白!」
「だからと言って俺たちを害してどうなるって言うんだ!?」
 グリフはそう喚く黒尽くめの男を斬りつける。
「こんな事を仕出かせばスアレス殿下のお立場が悪くなるだけだろうに」
 ルーカスはそう言うと、向かって来た男の剣を避けると、剣の柄で男の背中を殴った。

 ドサッ!
 とシャーロットとマリアの足元に男が倒れ込んで来る。
「「きゃあ!」」
 シャーロットとマリアが叫び声を上げると、男がムクリと起き上がる。
「マリア!ロッテ!」
 ルーカスが男の剣を自らの剣で受けながら叫ぶ。

 黒尽くめの男の目出し帽からギラギラとした瞳が見えた。
 マリアがシャーロットを庇うように一歩男の方へ踏み出し両手を横に広げる。
 マリアを盾にするなんてできない。
 シャーロットは窓を勢い良く開けた。

 男が大きく剣を振りかざす。
「逃すか!王太子妃に相応しいのは…」
 後退るマリアの後ろで前屈みになるシャーロット。
「ト」
 マリアの腰の辺りに両手を伸ばす。
「レ」
 後ろから抱きつくようにマリアのお腹に腕を回す。
「イ」
 振り向こうとするマリア。
「シ」
 そうする間もなく、マリアをぐいっと持ち上げた。
「ィ」
 シャーロットは窓枠にマリアを乗せるように男に背中を向ける。
「さ」
 男の剣が振り下ろされるのがスローモーションのように視界の端に見えた。
「ま」
 切られる!
 シャーロットがマリアを押しながらギュッと目を閉じると…

「駄目!!」

 女性の声がして、シャーロットの背中に何かがぶつかった。

-----

 ユリウスが国王の執務室で、王とスアレスへ地震被害の報告をしていると、王の従者が執務室へ入って来た。

「第二王子派が、ユリウスの婚約者候補たちを同時襲撃?」
 王が声を上げる。
「な!?」
 ユリウスが椅子から立ち上がる。
「はい。そのような計画があると…陛下とスアレス殿下が王都に戻られる前に、と言う事で今夜決行だという情報でして」
「婚約者候補にはそれぞれ護衛騎士をつけているが…」
「それが、護衛騎士や殿下の側近たちも襲撃の対象だそうで、セルザム公爵家が傭兵部隊を雇ったとの情報があります」
「セルザム公爵家?」
 ユリウスは訝しみながら言う。
 セルザム公爵家はトレイシーの家だが…
「セルザム公爵家は第二王子派ではないだろう?中立だが、どちらかと言えば第一王子派の筈だぞ?」
 ユリウスの思った疑問を王がそのまま口にした。
「それが何故か今は手を組んでおり、目的はユリウス殿下を王太子から降ろす事のようです」

「兄上を王太子から降ろす!?そんな事、俺は望んでいません!勝手に第二王子派などと名乗る癖に俺の気持ちは無視するのか…」
 スアレスが絶望的な表情で言う。
「……」
 俺が王太子を降りるのを望んでいるとしても、ここで第二王子派の思惑通りに事が運んだと思わせるのは良くないな。
 スアレスが王太子、延いては王になった時、第二王子派が必要以上に幅を利かせるようでは困る。
「あ…兄上、俺は第二王子派がこんな事を企てているなど知りませんでした。本当です」
 黙ってしまったユリウスに裏切りを疑われているかと思ったスアレスは慌てた様子で言う。
「ああ…大丈夫だ。スアレスを疑ってなどいない」
 アイリーンの言う通りなら、スアレスもユリウスを神格化する程好きな筈なのだ。
「兄上…」
 ウルウルキラキラした瞳でユリウスを見るスアレス。
「なるほど、弟もなかなかかわいいものなんだな」
 ユリウスはそう言いながらスアレスの頭を撫でた。

 バタンッ!
 執務室の扉が勢い良く開く。
「ユリウス!…殿下!」
 メレディスが駆け込んで来た。
 
「ロッテの病室へ賊が!!」



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