長身令嬢ですが、王太子妃の選考大会の招待状が届きました。

ねーさん

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「アイリーン、そのブローチ」
 執務室を出て、アイリーンを部屋に送るため、廊下を並んで歩くユリウスはアイリーンのドレスの襟に着けられたブローチを指差した。
「あ、これはロッテ様に作っていただいたのです。お兄様がロッテ様から預かって来てくださった物ですわ」
「ああ。なるほど」
「これを受け取る時の私の態度…申し訳ありませんでした」
 そう言えば奪うように取られたのだったか。
「いや、気にするな」
「あの時は、このブローチを見られたくなくて」
 アイリーンはブローチを撫でながら俯く。
「ブローチを?」
 ロッテやマリアたちが揃いで着けていた、ロッテ手作りのブローチだろう?アイリーンは王女だから紫で。
 これの何を見られたくなかったんだ?
「色が…紫ですけど、私の髪や瞳とは違うんです」
 そう言われて見れば、アイリーンの髪や瞳より少し青みがかっているような。
「ああ、どちらかと言えばこの色だと、俺の髪と瞳の色に近い…」
 ん?
「そうです。『お兄様のような紫で』とロッテ様に頼んだので、それを知られるのが恥ずかしかったのです」
「そうだったのか…」
 頬を染めて俯くアイリーン。

「…なるほど」
 ユリウスは顎に手を当ててアイリーンを見下ろす。
「お兄様?」
 ユリウスを見上げたアイリーンの頭にポンッと手を置いた。
「妹とはかわいいものだな」

-----

「ユーリ、昨日より顔色が良くなったわね」
 王妃の部屋に入ると、王妃が笑顔でユリウスとルーカスを迎えてくれた。
「母上、お怪我はありませんでしたか?」
「ええ。私も、周りの者も大丈夫よ」
「それは良かったです」
 王妃の座るソファの向かいにユリウスが座り、ユリウスの後ろにルーカスが立つ。

 侍女がお茶を持って来て、王妃とユリウスの前に置いて部屋を出て行った。
「あの揺れで食器類はかなり壊れたみたい。倒れた食器棚や割れた食器で怪我をした者もいるんですって」
「ああ…」
 家具類が揺れに耐えられるようにするにはどうすれば良いだろうか。
 ユリウスがティーカップを見ながら考えていると、王妃が明るい声で言う。
「それで?王太子を辞めると云う気持ちに変わりはないのかしら?」
「はい。父上…陛下が戻られたらそう話します」
「そう…」
 王妃はふっと息を吐く。

「母上、申し訳ありません」
 ユリウスは膝に手をついて頭を下げた。
「ユーリ?」
 驚いた表情でユリウスを見る。
「たった一人の息子なのに、俺は母上の期待に応えられません」
「あらやだ。私は別に息子を王にしたいなんて思ってはいないわよ」
「…え?」
 ユリウスが頭を上げると、王妃は穏やかに微笑んでいた。

「第一王子だからそうなるのが当然の流れだとは思っていたし、王になるなら賢王になって欲しい、ユーリならなれると思っていたから、そう言う意味での期待はしていたけども」
「母上…」
「陛下もきっとそうよ。ユーリは知っているかしら?私と陛下が恋愛結婚だという事」
「宰相から、母上が宰相と婚約していたと…それから父上も他の令嬢と婚約が内定していたと聞きました」
 王妃は頷いて、紅茶のカップを置く。
「そうよ。宰相と陛下は学園の同級生で友人だったわ。そして陛下と私が恋をして…宰相が私たちに協力してくれたの。陛下との婚約が内定していたのは公爵家の令嬢で、同じ公爵家でも私の家の方が格下だったから、婚姻の許可が出るまで時間が掛かったわ。それでも婚約がまだ内定段階だったから…もしも正式に婚約していたらもっと時間が掛かったし、もっと揉めたと思う。そうして結婚したのだから、どうしても私たちには王子が生まれて来なくてはならなかったのよ」
「王子が…」
「産後に体調を崩した私は次の子供が望めなかった。陛下は絶対そうしないとは仰っていたけど、もしもユーリが生まれていなかったり、女の子だったりしたら、私は離縁されていたのよ」
「……」
「だからね、ユーリ」
 王妃は手を伸ばして、ユリウスの前へ差し出す。
 ユリウスも手を差し出すと、王妃は両手でユリウスの手を握った。
「ユーリが、私たちのように『王位継承』や『嫡男』に縛られずに生きて行けるのなら、私たちは応援するわ」
「母上」
「あ、でも私は陛下の正妃になれて、ずっと一緒にいられてとても幸せだからもちろん後悔はしていないわよ」



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