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「ロッテ、いくらユリウス殿下と想いが通じたと言っても、イコール結ばれる、ではないのはわかっているか?」
ベッドに寝かされて安静を言い渡されたシャーロットは、ベッドの側の椅子に座るルーカスをチラッと見てから天井を見つめた。
「ルーカス様、今そんな事言わなくても…」
ルーカスと並んで座るマリアが言う。
「言いたくて言っている訳ではないが…」
「…わかってます。お兄様、ちゃんとわかってますから心配いりません」
天井を見ながらシャーロットは言った。
「なら良い。私は仕事に戻るから、くれぐれも安静にしてろよ。ロッテ」
ふっと息を吐きながら言うルーカス。
「はぁい」
ルーカスはマリアの肩を叩くと「ロッテを頼む」と言うと、病室を出て行った。
「ロッテ…」
マリアがシャーロットの手を握る。眉を顰めて、今にも泣き出しそうだ。
「そんな顔しないでマリア。私、本当にわかってるから、大丈夫よ」
「ロッテ」
「それより、マリアとお兄様が両想いになったの、すごく嬉しい!」
シャーロットが明るく言うと、マリアも無理矢理口角を上げた。
「びっくりし過ぎて実感ないわ」
ユリウス殿下は王子で王太子だもの。好きだけで結ばれるとかないのはわかってる。
もうすぐオードリーさんとの婚約も発表されるし。
私みたいな大きい事しか特徴がないような人間が、好きな人から好きって言ってもらえただけで奇跡だもん。これ以上望む事なんてない。充分。満足だわ。
ただ…ユリウス殿下が、私が、お兄様が、みんなが、ユリウス殿下を好きな事、心から納得してくれると良いな。
執務室に戻ったユリウスは無言で椅子に腰掛けた。
「顔色が良くなりましたね」
宰相が言う。
「…三十分より長くてすまなかったな」
「いえ、大きな動きはありませんでしたし、もっとゆっくりでも良かったですよ?」
ニコニコと笑う宰相に、ユリウスは言う。
「少し協力してくれないか?」
「協力、ですか?」
-----
ダダダダダッ。
バタンッ!
足音がして、執務室の扉が勢い良く開いた。
「おや、アイリーン殿下、どうなさいました?」
宰相が振り向いて言う。
開いた扉の前でぜいぜい息をするアイリーンは、執務室を見回した。
「…お、お兄、さ、まは?」
はあはあとした呼吸の合間に声を出す。
「ユリウス殿下なら、ご自分のお部屋に戻られていますが」
「自分の部屋!?」
大きな声を上げるアイリーン。
「ええ」
「お、お兄様が、お、おおお、女を、女…いえ、女性を、どさくさに紛れて、じょ女性を部屋に連れっ、つ、連れ込んでるって、本当なの!?」
息が乱れているという言い訳さえわざとらしい程につっかえながらアイリーンが言うと、宰相は眉を顰めた。
「……」
「ほ、本当なの?」
「……」
宰相はアイリーンから眼を逸らす。
「本当なのね?」
「…私の口からは何とも」
「……」
あんぐりと口を開けたアイリーンの身体の横で握りしめた拳がブルブルと震え出した。
「……お」
「アイリーン殿下?」
「お兄様を誑かしたのは、どこのどいつよ!?」
ルーカスが一足遅れで執務室に入る。
「アイリーン殿下、落ち着いてください」
そう言いながら宰相とアイコンタクトを取るルーカス。
「ルーカスが知らせてくれたんじゃない!落ち着いてなんかいられないわ!」
アイリーンはルーカスの胸ぐらを掴まんかの勢いで言う。
「まあ、ユリウス殿下とて健康な男性ですから、そう言う事がおありになっても…」
宰相が穏やかにそう言うと、アイリーンは手で自分の耳を塞ぐ。
「嫌!嫌ぁ!やめてやめて!お兄様はいつも穏やかで、優しくで、綺麗で、頭も良くて、剣も体術も強くて、完璧なお方よ!そんなことなさらないわ!」
イヤイヤと首を振る。
「一体どこの女なのよ!?お兄様はもうすぐご婚約されるのよ!それをご存知なの!?と云う事は、そ、そういうご商売の方なの?」
「わかりかねますなあ」
「さあ?」
宰相とルーカスは揃って首を傾げた。
「おおおお兄様のお相手は、美しくて、優しくて、嫋やかで、清楚で、奥ゆかしくて、優雅で、艶やかで、麗しい人でないと許せないんだからぁ」
涙目で耳を押さえたまま、しゃがみ込むアイリーン。
「アイリーン殿下は本当にユリウス殿下をお好きですねえ」
宰相がのほほんと言う。
「好きよ!大好きよ!」
アイリーンが言う。
「少々神格化し過ぎですがね」
ルーカスが呆れたように言う。
「神格化じゃなくて、お兄様は神なの!」
アイリーンが叫ぶ。
「そろそろやめてくれ…」
執務机の影から、ユリウスが立ち上がった。
バツが悪そうな表情でアイリーンを見る。
アイリーンが、愕然としてユリウスを見て、悲鳴に似た叫び声を上げた。
「お に い さ ま あ あ ぁ ぁ ぁ」
「ロッテ、いくらユリウス殿下と想いが通じたと言っても、イコール結ばれる、ではないのはわかっているか?」
ベッドに寝かされて安静を言い渡されたシャーロットは、ベッドの側の椅子に座るルーカスをチラッと見てから天井を見つめた。
「ルーカス様、今そんな事言わなくても…」
ルーカスと並んで座るマリアが言う。
「言いたくて言っている訳ではないが…」
「…わかってます。お兄様、ちゃんとわかってますから心配いりません」
天井を見ながらシャーロットは言った。
「なら良い。私は仕事に戻るから、くれぐれも安静にしてろよ。ロッテ」
ふっと息を吐きながら言うルーカス。
「はぁい」
ルーカスはマリアの肩を叩くと「ロッテを頼む」と言うと、病室を出て行った。
「ロッテ…」
マリアがシャーロットの手を握る。眉を顰めて、今にも泣き出しそうだ。
「そんな顔しないでマリア。私、本当にわかってるから、大丈夫よ」
「ロッテ」
「それより、マリアとお兄様が両想いになったの、すごく嬉しい!」
シャーロットが明るく言うと、マリアも無理矢理口角を上げた。
「びっくりし過ぎて実感ないわ」
ユリウス殿下は王子で王太子だもの。好きだけで結ばれるとかないのはわかってる。
もうすぐオードリーさんとの婚約も発表されるし。
私みたいな大きい事しか特徴がないような人間が、好きな人から好きって言ってもらえただけで奇跡だもん。これ以上望む事なんてない。充分。満足だわ。
ただ…ユリウス殿下が、私が、お兄様が、みんなが、ユリウス殿下を好きな事、心から納得してくれると良いな。
執務室に戻ったユリウスは無言で椅子に腰掛けた。
「顔色が良くなりましたね」
宰相が言う。
「…三十分より長くてすまなかったな」
「いえ、大きな動きはありませんでしたし、もっとゆっくりでも良かったですよ?」
ニコニコと笑う宰相に、ユリウスは言う。
「少し協力してくれないか?」
「協力、ですか?」
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ダダダダダッ。
バタンッ!
足音がして、執務室の扉が勢い良く開いた。
「おや、アイリーン殿下、どうなさいました?」
宰相が振り向いて言う。
開いた扉の前でぜいぜい息をするアイリーンは、執務室を見回した。
「…お、お兄、さ、まは?」
はあはあとした呼吸の合間に声を出す。
「ユリウス殿下なら、ご自分のお部屋に戻られていますが」
「自分の部屋!?」
大きな声を上げるアイリーン。
「ええ」
「お、お兄様が、お、おおお、女を、女…いえ、女性を、どさくさに紛れて、じょ女性を部屋に連れっ、つ、連れ込んでるって、本当なの!?」
息が乱れているという言い訳さえわざとらしい程につっかえながらアイリーンが言うと、宰相は眉を顰めた。
「……」
「ほ、本当なの?」
「……」
宰相はアイリーンから眼を逸らす。
「本当なのね?」
「…私の口からは何とも」
「……」
あんぐりと口を開けたアイリーンの身体の横で握りしめた拳がブルブルと震え出した。
「……お」
「アイリーン殿下?」
「お兄様を誑かしたのは、どこのどいつよ!?」
ルーカスが一足遅れで執務室に入る。
「アイリーン殿下、落ち着いてください」
そう言いながら宰相とアイコンタクトを取るルーカス。
「ルーカスが知らせてくれたんじゃない!落ち着いてなんかいられないわ!」
アイリーンはルーカスの胸ぐらを掴まんかの勢いで言う。
「まあ、ユリウス殿下とて健康な男性ですから、そう言う事がおありになっても…」
宰相が穏やかにそう言うと、アイリーンは手で自分の耳を塞ぐ。
「嫌!嫌ぁ!やめてやめて!お兄様はいつも穏やかで、優しくで、綺麗で、頭も良くて、剣も体術も強くて、完璧なお方よ!そんなことなさらないわ!」
イヤイヤと首を振る。
「一体どこの女なのよ!?お兄様はもうすぐご婚約されるのよ!それをご存知なの!?と云う事は、そ、そういうご商売の方なの?」
「わかりかねますなあ」
「さあ?」
宰相とルーカスは揃って首を傾げた。
「おおおお兄様のお相手は、美しくて、優しくて、嫋やかで、清楚で、奥ゆかしくて、優雅で、艶やかで、麗しい人でないと許せないんだからぁ」
涙目で耳を押さえたまま、しゃがみ込むアイリーン。
「アイリーン殿下は本当にユリウス殿下をお好きですねえ」
宰相がのほほんと言う。
「好きよ!大好きよ!」
アイリーンが言う。
「少々神格化し過ぎですがね」
ルーカスが呆れたように言う。
「神格化じゃなくて、お兄様は神なの!」
アイリーンが叫ぶ。
「そろそろやめてくれ…」
執務机の影から、ユリウスが立ち上がった。
バツが悪そうな表情でアイリーンを見る。
アイリーンが、愕然としてユリウスを見て、悲鳴に似た叫び声を上げた。
「お に い さ ま あ あ ぁ ぁ ぁ」
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