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 ガシャンッ!!
「きゃあ!」

 扉の中から何かが壊れる音と、シャーロットの声が聞こえる。
「!」
「ルーカス様…」
 扉の前に立ち、部屋の外から様子を窺っていたルーカス。ルーカスの隣にはマリア。
 マリアが不安気にルーカスの上着の袖を摘んだ。

「……」
「……」
 部屋の中からは微かに話し声が聞こえる。
 扉から遠くても、大声で話していれば…例えば怒鳴るなどしていれば会話の内容は外からでもある程度判る。しかし、この聞こえ方だと案外静かに話しているんだな。
 とルーカスは思った。

「ルーカス!」
 中からユリウスの声。ハッキリと聞こえる。
「はい」
「ロッテをここから遠ざけてくれ」
 目の前の扉が開き、ルーカスはマリアの肩を抱いて身をずらす。
「殿下…」
 ユリウスに背中を押され、イヤイヤと首を振りながらシャーロットが部屋から出て来た。
「頼むから…聞かないでくれ」
 ユリウスは悲しそうに笑ってシャーロットの背中をトンと押す。
「ロッテ」
 ルーカスがふらついたシャーロットを抱き止めると、マリアがシャーロットの手をぎゅっと握った。
「ロッテはさっき転倒して傷のある腕を床に当てている。医療棟へ連れて行って診てもらってくれ」
 ユリウスはルーカスにそう言うと、扉を開けたまま、部屋の中に戻って行く。
「メレディス、ロッテとマリアを医療棟へ連れて行ってくれるか?」
 ルーカスは近くに控えていたメレディスにそう言うと、ユリウスの部屋に入り、扉を閉じた。

「行こう」
 閉まった扉を見つめるシャーロットに、メレディスが声を掛ける。
「ロッテ、行きましょう」
 マリアも心配そうな表情でシャーロットの服の袖を引いた。
「…うん」

 メレディスの後に付いて歩くシャーロットに、隣を歩くマリアは声を掛け、そっと包帯の巻かれた前腕部に触れる。
「打ったの?」
「…うん。でもカーペットに足を取られて勝手にコケただけなんだけど」
 シャーロットは苦笑いを浮かべる。
「カーペットだからそんなに強く打ち付けてないし、もう痛くないんだけどな」
「駄目よちゃんと診てもらいましょ」
「わかったわ」

「ユリウス殿下のお怪我は?どんな具合だったの?」
「『大丈夫』とは仰ってたけど…」
 黙って前を歩いていたメレディスは、立ち止まると、シャーロットたちの方へ振り向いた。
「なあ。どうしてユリウス殿下はロッテを部屋に入れたんだ?」
「え?…うーん、グリフ様の事を聞きたかった…んですかね?」
 シャーロットは首を傾げる。
「ふうん?」
 メレディスはまた前を向いて歩き出した。
「ユリウスは何か…言っていたか?」
 前を見たまま言う。
「転んで助け起こしていただいたらグリフ様がいらっしゃったので、特には…」
「そうか」
 メレディスはため息混じりに言った。

「ガシャッて音がしたけど、あれは?」
 マリアがシャーロットを見上げて言う。
「あれは、ユリウス殿下がグリフ様を…」
 シャーロットは握り拳を横にブンっと振った。
「殴ったの!?」
「うん。それでグリフ様がサイドボードにぶつかって、燭台が落ちたの」

「怒っていたのか?ユリウスは」
 メレディスが顔だけ振り向いて言う。
「…はい」

 あの時、ユリウス殿下が「辺境伯領からグリフの結婚相手を連れ帰ったのは本当なのか?」とグリフ様に聞かれて、グリフ様が「本当です」と答えられたら、殿下がグリフ様を殴って…
「随分大人しく殴られるんだな?」
 って殿下が仰られると
「殿下とルーカスとロッテからの拳から逃げる資格はありません」
 ってグリフ様が言って…
 でも良く考えたら、グリフ様が結婚相手を連れて帰ったからと言っても、仮に私とグリフ様が正式に交際してたなら、私やお兄様が怒るのはわかるんだけど、どうして殿下がお怒りになるんだろう?
 それにグリフ様も私とお兄様に加えて、殿下からの怒りも「受け止めて当然」って感じだったけど、どうして?

「ユリウスが個人的な事で激昂して手を出すなんて…珍しいと言うか、初めてじゃないか?」
 メレディスが首を傾げながら言った。









 


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