長身令嬢ですが、王太子妃の選考大会の招待状が届きました。

ねーさん

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「ロッテさ~ん!マリアさ~ん!」
 王城に着き、シャーロットとマリアが馬場へ行くと、見学用スペースのテーブルでクラリスが立ち上がって手を振っていた。
「クラリス!?」
「どうしたの?」
 シャーロットとマリアがクラリスのいるテーブルに近付くと、クラリスは二人に小走りで駆け寄る。
「ユリウス殿下が呼んでくださったんです」
「殿下が?」
 シャーロットが言うと、クラリスは頷いた。
「はい。みなさんお揃いになるので、私も会いたいだろう、と」
 シャーロットやマリアはフェリシティと学園で再会した様にいつでも学園で会う事ができるが、クラリスはまだ学園生ではないのでなかなか会う機会がない。せっかく王太子妃候補が揃う機会なのでユリウスがクラリスを呼んだのだ。
「『お揃い』という事はオードリーさんも?」
 マリアは一人でテーブルについていたクラリスに聞く。
「はい。あちらに」
 クラリスは振り向いて見学スペースの一番奥を示す。
 そこにあるテーブルに、オードリーとユリウスが座っていた。

 ドキンッとシャーロットの心臓が鳴る。
 こ…こんな急にお会いするなんて、心の準備してなかったわ。
 オードリーがシャーロットたちに小さく手を振って立ち上がり、小走りにやって来る。
 ユリウスもゆっくりと立ち上がると、シャーロットたちに近付いて来た。
「ご挨拶が遅れました」
「ああ、気にしなくて良い」
 頭を下げたシャーロットとマリアにユリウスは微笑んで言う。

「俺はしばらく見学したら執務に戻る。メレディスを置いて行くから食べ物でも飲み物でも好きに頼め」
 ユリウスたちが座っていたテーブルの後ろに立っているメレディスが無言で小さく頭を下げた。
 
 厩舎から馬を引いてフェリシティとアールがやって来てユリウスに挨拶をする。
「フェリシティは馬の扱いが上手いから大会でも良い成績を残せるんじゃないか?後はアールからジムカーナ競技のコツなどをよく学ぶといい」
「ありがとうございます。精進いたしますわ」
 乗馬服姿のフェリシティが礼を取り、フェリシティの後ろでアールが騎士の礼をする。
 このやりとりを王城に出入りする貴族たちに見せるのが今日の目的だ。
 挨拶を終えたユリウスは先程まで座っていた奥のテーブルへ座る。オードリーがユリウスの後に付いて行き、ユリウスの向かいの席に座った。
 シャーロットとマリアとクラリスも馬場に近い丸テーブルを囲む様に座る。
 間に何個かテーブルがあり、ユリウスとオードリーの話す声はシャーロットたちには聞こえなかった。

 オードリーが話して、ユリウスが頷いている。
 仲良さそう…この仲良さそうな様子を見せるのも、きっと目的の一つよね。
 シャーロットは膝の上に置いた手をきゅっと握った。
 ユリウス殿下と一度も目が合わなかったな。
 お兄様が何を気にしてらしたのかもわからないし…
 …ちょっと淋しいとか、思っちゃダメよ。ロッテ。
 ユリウス殿下はオードリーさんとご婚約されるんだもの。私と目が合わないのも、お話しできないのも、当たり前なんだから。
「ロッテ?」
 マリアがシャーロットの顔を覗き込んでいた。いつの間にか俯いていた様だ。
「あ…何?マリア」
「お茶をもらう?って聞いたの。どうしたの?体調悪い?」
「ううん。私だったらあんなに上手く馬を操れないなぁと思ってちょっと落ち込んでた」
 シャーロットはスラロームを器用に通るフェリシティに視線を向けながら言った。
「……」
 マリアはシャーロットを少し見つめた後、笑いながら言う。
「ロッテは乗馬苦手だもんね。クラリスは?乗馬は得意?」
「私は領地で農地の見回りとかをするので結構得意だと思います」
「ええ!?そんなに小さくてかわいいのに乗馬も得意なの?」
「小さい方が騎手に向いてるのよ。かわいいのは関係ないけど。まあクラリスはかわいいけど」
 マリアが人差し指を一本立てて言った。
「それ競馬の話しでしょ?あ、でも私が乗馬下手なのは大きいから!?」
「ロッテのは運動神経」
「マリア、ハッキリ言い過ぎ…」
 シャーロットとマリアの遣り取りにクラリスがクスクスと笑う。

「そういえば、グリフ様からお手紙をいただいたんでしょ?何て書いてあったの?」
 マリアがニヤニヤしながら言うと、シャーロットはカッと赤くなった。
「『陛下の視察に着いて行く』って書いてあっただけよ」
 マリアから視線を逸らす。
 お兄様め~グリフ様からの手紙の事マリアに喋ったわね~
「それだけ?」
「『実家に戻ったら見合いを勧められるかも知らないけど、断って帰る』って」
「お見合い!?まあグリフ様もそれなりの歳だものね。それで?」
 両手で頬杖をついて笑うマリア。
「…『王都に帰ったらデートしよう』って」
「それで?」
「それだけよ」
「その内容でそんなに赤くなる?」
「め、免疫がないからよ!」
 シャーロットは赤くなった頬を押さえて言った。



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