56 / 98
55
しおりを挟む
55
「やはり今週は多いな」
週末に王宮に戻ったユリウスは執務室に入ると書類の山にうんざりとした表情を見せながら執務机に着いた。
「毎年ながら陛下が視察に行かれる期間はユリウス殿下に回る書類が格段に増えますね」
ルーカスが心配そうに言う。
国王は数日前、ユリウスの異母弟スアレスを伴い、南の国境ロックハート辺境伯領への視察に出立したのだ。
陛下が学園に入る前にスアレスに国境を見せておきたいと考えられるのはわかる。俺が学園に入る前は陛下も王位に就かれたばかり、俺も立太子したばかりで、互いにそれどころではなかった状況もわかる。
「これから一か月この状態か…学園の行事もあるし、なかなか忙しいな」
ユリウスは優先順位順に並べられた書類を一枚手に取ると小さくため息を吐いた。
「スアレス殿下は出立前にご挨拶に来られましたか?」
「ああ。先週俺が王宮に戻った時に来たな。必要外の事は話さないのはいつもの事だが、何と言うか…俺がこの視察に連れられた事がないのを気にしていた様に見えたが…状況が違う事は俺も理解しているし、気にする事はないのにな」
ルーカスの言葉にユリウスは苦笑いしながら手に取った書類を机の上に置く。
頬杖をつくと、置いた書類をぼんやりと眺めた。
まあ、理解しているのと、納得しているのとは別か。
-----
週末、ウェイン家に戻ったシャーロットとマリアは、ジムカーナ大会まで約一か月間、週末二日の休みの内の一日はフェリシティと王城へ行く事になったとルーカスに話した。
「明日フェリシティ嬢と王城へ来るんだろう?明日はユリウス殿下も同席されるからな」
「え?」
「最初はやはり婚約者候補である殿下が同席されるのが自然な流れだろう?次からは殿下の執務などとの兼ね合いになるが何度かは同席されるかも知れないな」
「つまり殿下が同席する事で騎士様がフェリさんの練習を見るのは殿下公認だと知らしめるって事ですか?」
シャーロットの言葉にルーカスは頷く。
「そういう事だな」
そういう事なのは納得だけど、うわあ。何かマズい。
このドキドキが治るまで、ユリウス殿下にお会いしたくないのに。
ああ、でも…ちょっと、ほんのちょっとだけ、嬉しいかも…
「そんな回りくどい事されなくても、早くオードリーさんとの婚約を発表されて、私たちを王太子妃候補じゃなくしてくれれば良いのに」
マリアが不満そうに言う。
「国王陛下が国境の視察から戻られるまで婚約発表はしないと決まったからな」
ルーカスがそう言うと、マリアはため息を吐く。
「陛下の留守に重大な発表をしないのはわかりますけど…それで、陛下はいつお帰りになるんですか?」
「ジムカーナ大会の直ぐ後だな」
休憩が終わり、侍女としての仕事に戻ったマリア。
学園生の間は、週末は侍女の仕事はしなくても良いと雇い主のウェイン伯爵も言うのだが、マリアは「仕事をしない、ただのロッテの友人なら、週末には実家のマードック男爵家に帰るのが筋で、ウェイン家に帰る事はできない」と主張し、時間は短いながらも侍女として働いているのだ。
「ロッテ」
ルーカスの部屋に残ったシャーロットにルーカスは少し険しい表情で話し掛けた。
「はい」
「秋期が始まってから、ユリウス殿下とお会いしたか?」
「いいえ。たまにお見掛けする事はありますど…」
「そうか」
「殿下が…どうかされたんですか?」
「どう、という事はないのだが…」
ユリウス殿下は、陛下が視察にスアレス殿下を同行させた事について、王妃殿下が懸念した様な誤解をされている様子はなかった。
ただ、淡々とし過ぎているように思う。
「?」
ルーカスは首を傾げるシャーロットを見る。
殿下は本当にロッテに会われていないんだな。
「ああそうだ。グリフから手紙を預かっている」
ふと思い出した様にルーカスは席を立ち、机の上の文箱から封筒を持って来てシャーロットに差し出した。
ユリウス殿下がどうされたのか、気になるけど…こうして話しを変えたという事は、お兄様はもう何も言わないんだろうな。
明日、殿下にお会いしたら、お兄様が何を気にされているのかがわかるかしら?
シャーロットはそう思いながら封筒を受け取った。
「やはり今週は多いな」
週末に王宮に戻ったユリウスは執務室に入ると書類の山にうんざりとした表情を見せながら執務机に着いた。
「毎年ながら陛下が視察に行かれる期間はユリウス殿下に回る書類が格段に増えますね」
ルーカスが心配そうに言う。
国王は数日前、ユリウスの異母弟スアレスを伴い、南の国境ロックハート辺境伯領への視察に出立したのだ。
陛下が学園に入る前にスアレスに国境を見せておきたいと考えられるのはわかる。俺が学園に入る前は陛下も王位に就かれたばかり、俺も立太子したばかりで、互いにそれどころではなかった状況もわかる。
「これから一か月この状態か…学園の行事もあるし、なかなか忙しいな」
ユリウスは優先順位順に並べられた書類を一枚手に取ると小さくため息を吐いた。
「スアレス殿下は出立前にご挨拶に来られましたか?」
「ああ。先週俺が王宮に戻った時に来たな。必要外の事は話さないのはいつもの事だが、何と言うか…俺がこの視察に連れられた事がないのを気にしていた様に見えたが…状況が違う事は俺も理解しているし、気にする事はないのにな」
ルーカスの言葉にユリウスは苦笑いしながら手に取った書類を机の上に置く。
頬杖をつくと、置いた書類をぼんやりと眺めた。
まあ、理解しているのと、納得しているのとは別か。
-----
週末、ウェイン家に戻ったシャーロットとマリアは、ジムカーナ大会まで約一か月間、週末二日の休みの内の一日はフェリシティと王城へ行く事になったとルーカスに話した。
「明日フェリシティ嬢と王城へ来るんだろう?明日はユリウス殿下も同席されるからな」
「え?」
「最初はやはり婚約者候補である殿下が同席されるのが自然な流れだろう?次からは殿下の執務などとの兼ね合いになるが何度かは同席されるかも知れないな」
「つまり殿下が同席する事で騎士様がフェリさんの練習を見るのは殿下公認だと知らしめるって事ですか?」
シャーロットの言葉にルーカスは頷く。
「そういう事だな」
そういう事なのは納得だけど、うわあ。何かマズい。
このドキドキが治るまで、ユリウス殿下にお会いしたくないのに。
ああ、でも…ちょっと、ほんのちょっとだけ、嬉しいかも…
「そんな回りくどい事されなくても、早くオードリーさんとの婚約を発表されて、私たちを王太子妃候補じゃなくしてくれれば良いのに」
マリアが不満そうに言う。
「国王陛下が国境の視察から戻られるまで婚約発表はしないと決まったからな」
ルーカスがそう言うと、マリアはため息を吐く。
「陛下の留守に重大な発表をしないのはわかりますけど…それで、陛下はいつお帰りになるんですか?」
「ジムカーナ大会の直ぐ後だな」
休憩が終わり、侍女としての仕事に戻ったマリア。
学園生の間は、週末は侍女の仕事はしなくても良いと雇い主のウェイン伯爵も言うのだが、マリアは「仕事をしない、ただのロッテの友人なら、週末には実家のマードック男爵家に帰るのが筋で、ウェイン家に帰る事はできない」と主張し、時間は短いながらも侍女として働いているのだ。
「ロッテ」
ルーカスの部屋に残ったシャーロットにルーカスは少し険しい表情で話し掛けた。
「はい」
「秋期が始まってから、ユリウス殿下とお会いしたか?」
「いいえ。たまにお見掛けする事はありますど…」
「そうか」
「殿下が…どうかされたんですか?」
「どう、という事はないのだが…」
ユリウス殿下は、陛下が視察にスアレス殿下を同行させた事について、王妃殿下が懸念した様な誤解をされている様子はなかった。
ただ、淡々とし過ぎているように思う。
「?」
ルーカスは首を傾げるシャーロットを見る。
殿下は本当にロッテに会われていないんだな。
「ああそうだ。グリフから手紙を預かっている」
ふと思い出した様にルーカスは席を立ち、机の上の文箱から封筒を持って来てシャーロットに差し出した。
ユリウス殿下がどうされたのか、気になるけど…こうして話しを変えたという事は、お兄様はもう何も言わないんだろうな。
明日、殿下にお会いしたら、お兄様が何を気にされているのかがわかるかしら?
シャーロットはそう思いながら封筒を受け取った。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる