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「やはり今週は多いな」
 週末に王宮に戻ったユリウスは執務室に入ると書類の山にうんざりとした表情を見せながら執務机に着いた。
「毎年ながら陛下が視察に行かれる期間はユリウス殿下に回る書類が格段に増えますね」
 ルーカスが心配そうに言う。
 国王は数日前、ユリウスの異母弟スアレスを伴い、南の国境ロックハート辺境伯領への視察に出立したのだ。
 陛下が学園に入る前にスアレスに国境を見せておきたいと考えられるのはわかる。俺が学園に入る前は陛下も王位に就かれたばかり、俺も立太子したばかりで、互いにそれどころではなかった状況もわかる。
「これから一か月この状態か…学園の行事もあるし、なかなか忙しいな」
 ユリウスは優先順位順に並べられた書類を一枚手に取ると小さくため息を吐いた。

「スアレス殿下は出立前にご挨拶に来られましたか?」
「ああ。先週俺が王宮に戻った時に来たな。必要外の事は話さないのはいつもの事だが、何と言うか…俺がこの視察に連れられた事がないのを気にしていた様に見えたが…状況が違う事は俺も理解しているし、気にする事はないのにな」
 ルーカスの言葉にユリウスは苦笑いしながら手に取った書類を机の上に置く。
 頬杖をつくと、置いた書類をぼんやりと眺めた。

 まあ、理解しているのと、納得しているのとは別か。

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 週末、ウェイン家に戻ったシャーロットとマリアは、ジムカーナ大会まで約一か月間、週末二日の休みの内の一日はフェリシティと王城へ行く事になったとルーカスに話した。
「明日フェリシティ嬢と王城へ来るんだろう?明日はユリウス殿下も同席されるからな」
「え?」
「最初はやはり婚約者候補である殿下が同席されるのが自然な流れだろう?次からは殿下の執務などとの兼ね合いになるが何度かは同席されるかも知れないな」
「つまり殿下が同席する事で騎士様がフェリさんの練習を見るのは殿下公認だと知らしめるって事ですか?」
 シャーロットの言葉にルーカスは頷く。
「そういう事だな」
 そういう事なのは納得だけど、うわあ。何かマズい。
 このドキドキが治るまで、ユリウス殿下にお会いしたくないのに。
 ああ、でも…ちょっと、ほんのちょっとだけ、嬉しいかも…

「そんな回りくどい事されなくても、早くオードリーさんとの婚約を発表されて、私たちを王太子妃候補じゃなくしてくれれば良いのに」
 マリアが不満そうに言う。
「国王陛下が国境の視察から戻られるまで婚約発表はしないと決まったからな」
 ルーカスがそう言うと、マリアはため息を吐く。
「陛下の留守に重大な発表をしないのはわかりますけど…それで、陛下はいつお帰りになるんですか?」
「ジムカーナ大会の直ぐ後だな」

 休憩が終わり、侍女としての仕事に戻ったマリア。
 学園生の間は、週末は侍女の仕事はしなくても良いと雇い主のウェイン伯爵も言うのだが、マリアは「仕事をしない、ただのロッテの友人なら、週末には実家のマードック男爵家に帰るのが筋で、ウェイン家に事はできない」と主張し、時間は短いながらも侍女として働いているのだ。
「ロッテ」
 ルーカスの部屋に残ったシャーロットにルーカスは少し険しい表情で話し掛けた。
「はい」
「秋期が始まってから、ユリウス殿下とお会いしたか?」
「いいえ。たまにお見掛けする事はありますど…」
「そうか」
「殿下が…どうかされたんですか?」
「どう、という事はないのだが…」
 ユリウス殿下は、陛下が視察にスアレス殿下を同行させた事について、王妃殿下が懸念した様な誤解をされている様子はなかった。
 ただ、淡々とし過ぎているように思う。
「?」
 ルーカスは首を傾げるシャーロットを見る。
 殿下は本当にロッテに会われていないんだな。

「ああそうだ。グリフから手紙を預かっている」
 ふと思い出した様にルーカスは席を立ち、机の上の文箱から封筒を持って来てシャーロットに差し出した。
 ユリウス殿下がどうされたのか、気になるけど…こうして話しを変えたという事は、お兄様はもう何も言わないんだろうな。
 明日、殿下にお会いしたら、お兄様が何を気にされているのかがわかるかしら?
 シャーロットはそう思いながら封筒を受け取った。



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