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 シャーロットは編み上がった栞をテーブルに置いて、じっと眺めている。
 本に挟む部分は小さな星を繋げて紺から水色へ色をグラデーションさせ、本の背に出す紐の先端にも紺色の星のモチーフがついている。
 大人の男性が持っていてもおかしくない様な物ができたとは思うけど、ユリウス殿下、使ってくださるかしら…
「綺麗ね。栞?」
 お茶のワゴンを押して部屋に入って来たマリアがテーブルの上の栞を見て言う。
「ユリウス殿下へのお礼とお見舞いなの」
「すごく綺麗で素敵よ。バザーで売ったらきっとあっという間に完売だわ」
「……」
 確かに。
 でも、同じ星のモチーフの物は作らない。
「お花のモチーフならいろんな色のが作れそう。白一色で雪の結晶のモチーフも良いかも」
「今編んでるのは何?」
 テーブルに紅茶のカップを置きながらマリアは視線でシャーロットの手元の編みかけの物を示す。
「これはポケットチーフ」
「それもユリウス殿下に?」
「……」
 身に付ける物はご婚約者様が気を悪くされるかも。ってお兄様言ってたし、手袋やクラバットよりは良いかと思ったけど、やっぱり差し上げない方が良いのかも知れないな。
 シャーロットは自分の額を触る。
「ロッテ、最近よくおでこ触ってるけど、どうしたの?」
 あ。
 また無意識に触ってた。

「うん。あの、それよりマリア、お兄様が変な事を言い出したんだけど」
 シャーロットは少し慌てて、言い繕う様に言った。
「変な事?」
 マリアはきょとんとした表情で首を傾げる。
「そうなの」
 シャーロットが手招きし、マリアは屈んでシャーロットの口元に耳を近付けた。
「あのね……」
 シャーロットは手で口元を隠しながら小声で話す。
「…はあ?」
 マリアは目を丸くして思わず声を上げた。

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「そうだ、アイリーン、これをロッテから預かっていたんだ。渡すのが遅くなって済まない」
 珍しく、国王、王妃、側妃、ユリウス、アイリーン、スアレスが揃って夕食を取った後、食堂を退出した廊下でユリウスはアイリーンに声を掛けた。
 会食などの行事のない日は、ユリウスはユリウスの母である王妃と二人か、父である国王と三人で夕食を取る場合が多い。
 同じ様に、アイリーンたちも、アイリーンとスアレス、側妃の三人、もしくは国王を加えた四人での夕食が多いが、月に一度くらいは六人が揃って夕食を取る日もあり、今日は揃った日だったのだ。
「ロッテ様?…あっ!」
 ユリウスの差し出した紙袋の中身に思い至ったアイリーンは、ユリウスの手から奪う様に紙袋を取った。
「?」
「し、失礼いたしました。お兄様…中をご覧になりましたか?」
 アイリーンがばつの悪そうな表情でユリウスを見ている。
「いや。見てはいない」
「そうですか」
 少し頬を染めてホッとした様に言うアイリーン。

「ありがとうございます。ロッテ様にお礼のお手紙を書きますわ」
 アイリーンはドレスの裾を摘んで礼をする。
 兄妹としてはよそよそしい程丁寧な挨拶だ。
「ああ」
 スアレスが眉を顰めて少し離れた所からアイリーンとユリウスを見ている。
 夕食の席でも、アイリーンとスアレスは王妃とは話してもユリウスとはあまり話さない。会話が続かないのでユリウスもとうにこの二人に話し掛けようとするのはやめていた。
 ユリウスはアイリーンとスアレスを少し眺めた後、視線を逸らすと、二人に先立って廊下を歩き出す。
 側妃の子である二人は、正妃の子であり、第一王子で王太子である自分より前を歩く事は許されない。こんな処も普通の兄妹とは違うんだよな。

「姉上!何ですか今のは。あんな奪い取るみたいに…」
 ユリウスが廊下の角を曲がった後、スアレスはアイリーンに詰め寄る。
「わかってるわよ。失礼だったわ。でも…」
 アイリーンは握り締めるように持っていた紙袋をそっと開けて中身を取り出す。
 出て来たのは小さな花束の様な紫のブローチ。
「綺麗ですが、このブローチが何か?」
 王族である自分たちが王族の色である紫色の物を持っていても何の不思議もないのに。
 スアレスはそう思いながらアイリーンの手の平に乗るブローチをもう一度よく見る。
「あれ、でも姉上の髪の色とは少し…」
 青寄りの濃い紫。
「お兄様の髪の色って頼んだの!だからお兄様に知られたら恥ずかしいじゃない!」
 そう、アイリーンは廊下で叫ぶ様に言った。



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