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 ドドドッ。
 と地鳴りの様な振動を感じると、仰向けに倒れたシャーロットの視界に黒くて大きな影が映った。
「ひっ!」
 恐怖が襲って来てぎゅうっと目を閉じる。
 身体全体に重みが掛かって、身体が強張り、次の瞬間、
 ドンッ!
 と、胸部に凄まじい衝撃を感じた。
「グッ」
 喉から空気が漏れる様な声が漏れたのは、シャーロットのものではなく……

「ユリウス!!」
 
 ルーカスの声がシャーロットの耳に届く。

 ユリウス…殿下…?

 シャーロットがそろりと目を開けると、目の前にユリウスの紫色の瞳があった。
「ロッテ…大丈夫か…?」
「…は……」
 はい。と言おうとするが上手く声が出せなくて、どうにか頷くと、ユリウスは安心したように微笑んだ。

 シャーロットの上にユリウスが覆い被さっている。
 そうシャーロットが認識したのは、駆け付けた護衛騎士の一人がユリウスを引き起こした時だ。
「ユリウス殿下!」
「っ、た…」
 ユリウスは脇腹を押さえて顔を歪ませる。
 シャーロットも起き上がろうとするが、鳩尾にズキンと痛みが走った。
「う…」
 シャーロットの側に脇腹を押さえて座るユリウスの状態を確認する騎士の背中が見える。
「ロッテ様、大丈夫ですか?」
 もう一人の騎士がシャーロットの背中を支えて座らせてくれた。
 痛いけど、骨や内臓は大丈夫そうだな、とシャーロットは思った。
「…はい。何が起こったんですか…?」
「馬が、木の影から現れて、ロッテ様が転倒していなければ衝突していたかと…」
 馬?
 あの黒い影は馬だったの?
「あの馬、真っ直ぐロッテに向かって駆けて来たな」
 脇腹を押さえたまま、ユリウスが言う。
「はい。蹄鉄の音がしなかったので気付くのが遅れて…申し訳ありません」
 騎士が跪いてユリウスに向かって頭を下げる。
「離れていたんだ、それは良い。それであの馬は?」
 もしかしなくても、ユリウス殿下私に覆い被さって庇ってくださって…蹴られた…ううん、踏まれたのでは?
「ルーカス殿が追って行かれましたので、程なく抑えて戻られるかと」
「そうか」

 シャーロットはユリウスの方へ手を伸ばす。
「ロッテ?」
 ユリウスがシャーロットを見た。
「殿下…お怪我は?」
「そんな泣きそうな顔をするな」
 ユリウスは眉を寄せながら苦く笑った。

-----

「責任を取って辞めるなど、俺は認めない」
 私室のソファに深くもたれてユリウスは言う。
 ユリウスの前にはルーカスと二人の騎士が跪いていた。
「しかし殿下に怪我を負わせるなど、護衛として責任を取らない訳には…」
 騎士の一人が言い、もう一人が頷く。
「肋骨の一本や二本折れても公務に支障はない」
「しかし」
「一応俺の怪我も、野生馬の乱入による事故で、公にはしないと話しは着いたんだ。これで責任問題になるなら俺が抗議する」

 ユリウスはそう言い切り、騎士二人を無理矢理納得させると、騎士二人とルーカスを立ち上がらせた。

「それはそれとして、あの馬、ではなかったんだろ?」
 ユリウスがそう言うと、騎士二人が顔を見合わせる。
「どうなんだ?ルーカス」
 ルーカスはユリウスの顔を少し見たあと、視線を落とす。
「…ええ、あの馬は野生馬にしては肉付きも毛艶も悪くありませんでした。蹄鉄をしておりませんでしたが、蹄に傷が付いておりましたので、足音を目立たなくするために直近で蹄鉄を外した飼い馬と思われます」

「では何者かが立ち入り禁止の場所に入り込んで馬を放ったと?」
「一体誰が?ユリウス殿下に危害を加える気だったのか?」
 騎士が口々に言うと、ルーカスは首を横に振る。
「いや…」
「おそらく、狙いはロッテだ。ロッテか俺が怪我をすれば、ロッテを王太子妃候補から降ろせると考えたのだろう」
 ユリウスがそう言うと
「私もそうだと思います」
 とルーカスも頷く。
「お前たちが俺の怪我に責任を感じるならば、この馬を仕掛けた人物を早急に探り出してくれ」
 ユリウスの言葉に騎士二人は「はっ!」と返事をし、敬礼をした。

 騎士二人が退出し、一人部屋に残ったルーカスは、改めてユリウスの前に跪き、ユリウスを見上げた。
「何だ?ルーカスは俺に愛想を尽かして辞めるつもりだったのかも知れんが、今日のこの事を理由にするのは許さんからな」
 ユリウスは無表情で言う。
「いえ、先ずは殿下にはロッテを…私の妹を庇っていただきました礼を…」
「ロッテが怪我をするくらいなら俺が怪我をした方がマシだ。だから礼などいらん。ロッテを家に送って行ったんだろう?大丈夫なのか?」
 シャーロットは一人で馬に乗るのは無理だったのでルーカスが二人乗りで連れ帰り、そのまま家に送って行き、ルーカスだけが王宮に戻って来ているのだ。 
「ええ、鳩尾辺りが痛いとは言っておりましたが…少し休めば大丈夫でしょう」
「そうか…」
 ユリウスは安心した様に少し微笑んだ。



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