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お茶会が始まってしばらく経った頃、ルーカスが庭に出て来た。
「ご歓談中に失礼いたします。ルーカス殿下…」
ルーカスがユリウスの耳元に小声で何かを言うと「わかった」とユリウスは頷く。
「所用が入ったので今日はこれで失礼する。ではまた後日」
ユリウスはそう言うと、立ち上がり、建物の方へ歩き出す。
ルーカスはシャーロットとマリアの方をチラッと見た後、アイリーンに話し掛けた。
「アイリーン殿下、ユリウス殿下は退席されたので猫は脱がれたらいかがです?」
え?お兄様、王女にこんなに気安く話し掛けて良いの?
「ルーカス!」
アイリーンは顔を赤くしてルーカスの腕をペシンと叩く。
ルーカスは真面目な表情だが、片眉が少し上がっていて、シャーロットにはルーカスがアイリーンをからかっているのがわかった。
マリアは表情を変えず、じっとルーカスを見ている。
「失礼いたしました」
ルーカスは令嬢たちに恭しく一礼するとユリウスの後を追って建物の方へ歩いて行った。
-----
結局ロッテとは一言も話せなかったな。
用を終え、執務室に戻ったユリウスは小さくため息を吐く。
アイリーンたちと編み物や刺繍や裁縫の話しで盛り上がっていた様だが…
「今日はオードリー嬢やクラリス嬢とよくお話しされていた様ですね」
ルーカスが言うと、ユリウスは眉間に皺を寄せる。
「ああ…まあな」
オードリー嬢とクラリス嬢か。オードリー嬢がアイリーンと同じ歳で、クラリス嬢はその一つ下。かわいらしい令嬢だが、小動物と言うか何と言うか…恋愛対象には見れそうにないな…
もっとも、王太子と王太子妃の間に「恋愛」は必要ないんだろうが。
「学園の夏期休暇の間に一人一度はお会いする様に調整いたします」
「ああ」
ドサッと勢いよくソファに座るユリウス。
「候補者方の都合もあるでしょうから、順不同となるでしょうが、宜しいですか?」
「…ああ」
背もたれにもたれて上を向いて両手で顔を覆う。
「お疲れですか?」
ルーカスが手で顔を覆うユリウスを少し心配そうに見ていた。
「いや。…まあ、そうだな」
ユリウスは指の間からルーカスを見る。
彼女がルーカスだとわかって、自分でも面白い程さっぱりと、それまで心に巣食っていた「恋心の様な物」は消え去ってしまった。
それよりもあの時、俺を嫌わないで、と思った相手が、それを切っ掛けに俺の侍従になり、俺の側にいてくれている事がものすごく嬉しい。
「お茶会でそんなに疲れていて…今度は一対一のデートですよ?大丈夫ですか?」
「デ」
デート。そうか、一人一人と会うという事はそうなるのか。
「…出掛けたりした方が良いのか?」
「そうですね。一対一でお茶では話題も尽きるでしょうし。しかし初めから候補者に対して差が出てもいけませんから…観劇もまだ学園にも入っていない歳だと演目を選びますし、遠駆けにでも行かれますか?」
「ああ…」
遠駆けなら馬を駆けらせている間は喋らなくても気詰まりではないし、良いかもな。
「しかし、皆、馬に乗れるのか?」
「おそらくは…日程調整がてら確認しておきましょう」
「ああ。頼む」
ルーカスが遠駆けを提案するという事はロッテとマリアは馬に乗れるんだろう。
ユリウスはソファから立ち上がると、執務机の方へ移動する。
「最終候補者と一対一でお会いいただき、五名を一巡すれば、後はユリウス殿下自身の意向を入れていただいても構いませんから」
「意向か…」
椅子に座ると、机に肘をついて「ふう」とため息を吐く。
「それぞれの令嬢を好ましく思われたから残されたのでしょう?」
ルーカスが首を傾げて言う。
ネックレスの盗難を疑われたクラリス、そのクラリスを信じて庇ったロッテとマリア。
王女へ毒を盛ったのではと言われたオードリーと、騎士との間に入りオードリーに付き添ったフェリシティ。
俺が公爵令嬢や騎士に立ち向かう彼女たちを好ましく思ったのは確かだ。
「…お前が言ったから」
「何ですか?」
「お前が『立場や権力を笠に着た振る舞いは嫌い』だと言ったから、俺はその笠に着た振る舞いに立ち向かうの人間を好ましく思うようになったんだ」
「ははあ。それでこの人選ですか。まあ、私としては、殿下は大きな立場や権力をお持ちなので、笠に着る人にならないで欲しくてそう言ったんですが…まあ悪い事ではないので良いじゃないですか」
「まあな」
悪い事ではない。
ただ、この「好ましい」が女性としてと言うより、人間として、だと言うのが問題なだけで。
お茶会が始まってしばらく経った頃、ルーカスが庭に出て来た。
「ご歓談中に失礼いたします。ルーカス殿下…」
ルーカスがユリウスの耳元に小声で何かを言うと「わかった」とユリウスは頷く。
「所用が入ったので今日はこれで失礼する。ではまた後日」
ユリウスはそう言うと、立ち上がり、建物の方へ歩き出す。
ルーカスはシャーロットとマリアの方をチラッと見た後、アイリーンに話し掛けた。
「アイリーン殿下、ユリウス殿下は退席されたので猫は脱がれたらいかがです?」
え?お兄様、王女にこんなに気安く話し掛けて良いの?
「ルーカス!」
アイリーンは顔を赤くしてルーカスの腕をペシンと叩く。
ルーカスは真面目な表情だが、片眉が少し上がっていて、シャーロットにはルーカスがアイリーンをからかっているのがわかった。
マリアは表情を変えず、じっとルーカスを見ている。
「失礼いたしました」
ルーカスは令嬢たちに恭しく一礼するとユリウスの後を追って建物の方へ歩いて行った。
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結局ロッテとは一言も話せなかったな。
用を終え、執務室に戻ったユリウスは小さくため息を吐く。
アイリーンたちと編み物や刺繍や裁縫の話しで盛り上がっていた様だが…
「今日はオードリー嬢やクラリス嬢とよくお話しされていた様ですね」
ルーカスが言うと、ユリウスは眉間に皺を寄せる。
「ああ…まあな」
オードリー嬢とクラリス嬢か。オードリー嬢がアイリーンと同じ歳で、クラリス嬢はその一つ下。かわいらしい令嬢だが、小動物と言うか何と言うか…恋愛対象には見れそうにないな…
もっとも、王太子と王太子妃の間に「恋愛」は必要ないんだろうが。
「学園の夏期休暇の間に一人一度はお会いする様に調整いたします」
「ああ」
ドサッと勢いよくソファに座るユリウス。
「候補者方の都合もあるでしょうから、順不同となるでしょうが、宜しいですか?」
「…ああ」
背もたれにもたれて上を向いて両手で顔を覆う。
「お疲れですか?」
ルーカスが手で顔を覆うユリウスを少し心配そうに見ていた。
「いや。…まあ、そうだな」
ユリウスは指の間からルーカスを見る。
彼女がルーカスだとわかって、自分でも面白い程さっぱりと、それまで心に巣食っていた「恋心の様な物」は消え去ってしまった。
それよりもあの時、俺を嫌わないで、と思った相手が、それを切っ掛けに俺の侍従になり、俺の側にいてくれている事がものすごく嬉しい。
「お茶会でそんなに疲れていて…今度は一対一のデートですよ?大丈夫ですか?」
「デ」
デート。そうか、一人一人と会うという事はそうなるのか。
「…出掛けたりした方が良いのか?」
「そうですね。一対一でお茶では話題も尽きるでしょうし。しかし初めから候補者に対して差が出てもいけませんから…観劇もまだ学園にも入っていない歳だと演目を選びますし、遠駆けにでも行かれますか?」
「ああ…」
遠駆けなら馬を駆けらせている間は喋らなくても気詰まりではないし、良いかもな。
「しかし、皆、馬に乗れるのか?」
「おそらくは…日程調整がてら確認しておきましょう」
「ああ。頼む」
ルーカスが遠駆けを提案するという事はロッテとマリアは馬に乗れるんだろう。
ユリウスはソファから立ち上がると、執務机の方へ移動する。
「最終候補者と一対一でお会いいただき、五名を一巡すれば、後はユリウス殿下自身の意向を入れていただいても構いませんから」
「意向か…」
椅子に座ると、机に肘をついて「ふう」とため息を吐く。
「それぞれの令嬢を好ましく思われたから残されたのでしょう?」
ルーカスが首を傾げて言う。
ネックレスの盗難を疑われたクラリス、そのクラリスを信じて庇ったロッテとマリア。
王女へ毒を盛ったのではと言われたオードリーと、騎士との間に入りオードリーに付き添ったフェリシティ。
俺が公爵令嬢や騎士に立ち向かう彼女たちを好ましく思ったのは確かだ。
「…お前が言ったから」
「何ですか?」
「お前が『立場や権力を笠に着た振る舞いは嫌い』だと言ったから、俺はその笠に着た振る舞いに立ち向かうの人間を好ましく思うようになったんだ」
「ははあ。それでこの人選ですか。まあ、私としては、殿下は大きな立場や権力をお持ちなので、笠に着る人にならないで欲しくてそう言ったんですが…まあ悪い事ではないので良いじゃないですか」
「まあな」
悪い事ではない。
ただ、この「好ましい」が女性としてと言うより、人間として、だと言うのが問題なだけで。
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