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「これ、貰ってください」
 シャーロットはフェリシティとオードリーの前に、揃えた両手の平に乗せた二つのレース編みで作った花のブローチを差し出した。
 シャーロットは胸に、マリアは髪に、クラリスは襟に着けているブローチと色違いのお揃いだ。
「フェリさんが赤で、オードリーさんが黄色のイメージで作ったんだけど…」
「え!?ロッテさんが作ったの?」
 ロッテの手から赤いブローチを取ると、フェリシティはしげしげと眺めて
「すごいわ。嬉しい!」
 と微笑む。
「すごく綺麗…良いんですか?」
 オードリーが黄色のブローチを手に取って、シャーロットを見上げる。
「うん。レース編み、趣味なの」
「黄色、好きです。嬉しい!ありがとうございます」
「オードリーさんの今日のワンピース、緑だから黄色が映えるわ。着けてあげる」
 マリアがオードリーのワンピースの喉元の部分にブローチを取り付け、スカートのポケットから小さな鏡を取り出してオードリーに見せる。
「かわいい」
 鏡を見てニコニコと笑うオードリー。
「マリアさん、私にも着けて!どこが良いかしら?」
「フェリさんの今日の服は紺色だから…バッグと靴と髪のリボンが差し色の茶色だし、髪のリボンの結び目に赤が良いかしら」
「良いわね!着けて」
 マリアの前に少し屈むフェリシティ。マリアはハーフアップにして結んであるリボンの結び目にブローチを着けた。
「できた」
「すごく似合います」
 クラリスが顔の前で両手を合わせて目を輝かせる。
「でも後ろだから小さな鏡一枚じゃフェリさんが見られないわね」
 マリアが顎に手を当てて考えていると、王宮の侍女がクスクスと笑いながら手鏡を持って部屋に入って来る。
「これをお使いください。お嬢様方仲がよろしくて微笑ましいですわ」

 ブローチを着け終わると、侍女に案内されて五人で庭に出る。
 芝生に石が敷いてある小さな広場に丸いテーブルが置かれて、七名でのお茶会の準備が整えてあった。
「王太子殿下の他にどなたか来られるんですか?」
 案内された席に着きながら、シャーロットは侍女に聞く。
 シャーロットの席は二つ並んで空けられた席のちょうど正面側だ。
 シャーロットの右手にマリア、その右にフェリシティ。シャーロットの左手にクラリス、その左がオードリーだ。
 今回はクジじゃなかったけど、王太子殿下の隣じゃないみたいで良かったわ。
「アイリーン殿下がおいでになります。夜会でオードリー様とフェリシティ様を驚かせた事に謝意をお示しになりたいと」
「ああ…」
 なるほど。だからフェリシティさんとオードリーさんが近くの席なのかな。

-----

「今日は皆よく来てくれたな」
 オードリーの隣の席に着いたユリウスが言う。
 ユリウス殿下もアイリーン殿下もすごく真剣な表情をされているわ。
「オードリー様、フェリシティ様、先日の夜会ではご迷惑をお掛けしたわ。嫌な思いをさせたわね」
 フェリシティの隣りの席のアイリーンは神妙な表情でオードリーとフェリシティを見た。
 プライベートで二人きりならともかく、他の人がいる場所で王族の方が臣下に頭を下げる訳にいかない、アイリーン殿下の精一杯の謝意だわ。
「いいえ。気にしておりませんわ」
 フェリシティはにっこりと笑う。
「アイリーン殿下とはクラスが違いますし、こうしてお近付きになれて嬉しいです」
 オードリーもニコニコと笑った。

 ユリウス殿下とオードリーさんとクラリス、お話が弾んでるわ。学園の行事の話しみたいね。
 アイリーン殿下は黙ってお茶を飲んでおられるけど…フェリさんは歳上だし話しにくいのかな?それにあまりユリウス殿下の方を向かれないような…
 あんなにユリウス殿下に心酔されている様だったのに?

「…その、色違いのレースの花は皆でお揃いで購入した物なの?」
 アイリーンがフェリシティの方を向いてボソリと言う。
「ああ、これはロッテが作ってくれたのです」
 フェリシティはアイリーンにそう言うと、シャーロットの方を見た。
「ロッテ様が?」
 アイリーンがシャーロットの方を見る。
「あ、はい。私が作って皆さんに貰っていただきました」
「ふーん、貴女こういうの作るの」
 何となく視線に険がある気がする…貴女はお兄様に相応しくないって言ったのに何故ここにいるの?って視線かな?
「はい。あの、宜しければアイリーン殿下にもお作りいたしましょうか?」
「え?」
 アイリーンの眉間に皺が寄る。
 あ、媚びを売ってると思われたかしら?
 俯いたアイリーンは小さな声で言う。
「……わ」
「え?」
 聞き返すのは失礼かしら。でも聞こえなかったし…
「…作るなら、貰ってもいいわ」
 俯いたまま言うアイリーン。少し頬が赤い。
 ツ、ツンデレだ。アイリーン殿下、かわいい!
「作ります!色は髪と同じ紫が良いですか?それともお好きな色がおありですか?」
「……」
 アイリーンは隣のユリウスをチラッと見ると、小声で
「お兄様みたいな紫で」
 と呟いた。



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