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「十分経過いたしました。候補者は退出してください」
 ノックの音に続いて扉を開け、そう言ったのはルーカスだった。
 ユリウスは俯いたままだ。
 ソファから立ち上がったシャーロットはルーカスを見る。
「お兄…」
「ご退出を」
 ルーカスはシャーロットと目を合わせずに言う。
 お兄様、お仕事モードだわ。
「…わかりました」
 シャーロットは扉の前に進むと、振り返って深く礼をする。
 起き上がる時に、ユリウスを見ると、まだ俯いたままだった。
 シャーロットが出て行くと、扉が閉まる。
 シャーロットは扉に向かったまま、カクンと膝から力が抜けて、その場にペタンと座り込んだ。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
 扉の横に立っていた騎士が声を掛けて来る。
「私…あんなにお好きだったなんて…思っていなくて…」
 両手を口元に当てて呟く様に言う。
「?」
 騎士が不思議そうにシャーロットを見ていた。

「どうしたんだ?次の令嬢が来るから早く立て」
 やって来たメレディスが訝し気にシャーロットに手を差し出した。
「…はい」
 メレディスの手を取り立ち上がる。
「どうしたんだ?殿下に会ったから緊張したのか?」
 メレディスが敢えて当たり障りのない理由を口にしたのがわかる。ここは騎士や次に来る令嬢に不審がられない為にも乗った方が良い。
「はい。余りの緊張で…退出したら気が抜けました。ごめんなさいご心配を掛けしました」
 騎士に向けて言うと、騎士は安心した様だ。
「大丈夫そうで良かった」
「ありがとうございます」
 シャーロットはニコリと笑うと、騎士に一礼し、メレディスに着いて歩き出した。

-----

 しまった。
 そう思ったユリウスが顔を上げると、シャーロットが出て行った扉は既に閉じられていた。
「ロッテは何か殿下のご不興を買う様な事を申し上げたのでしょうか?」
 そう言うルーカスをユリウスはじっと見つめる。
 この、ルーカスが、
「殿下?」
 ユリウスを見るルーカスの顔に、ユリウス付きの侍従となり、挨拶に来た日のルーカスの顔が重なって見えた。

 ルーカスがユリウスに付いたのは、ユリウスが立太子する一年前、ユリウス十二歳、ルーカス十六歳の時だ。ユリウスの祖父である国王が崩御、ユリウスの父が即位し、ユリウスの立太子が一年後と決まった頃だった。
「本日よりユリウス殿下に付かせていただく事となりました、ルーカス・ウェインと申します。王太子となられるユリウス殿下のお役に立てる様、精進して参りますので何卒よろしくお願いいたします」
 王太子となる事が決まり、ユリウス付きの侍従の人数が増やされた時、その増員された人員の中にルーカスはいた。
 顔立ちがに似ている。
 まずそう思った。髪色は茶色。ほど濃くはない。瞳はヘーゼル色。
「ルーカス…と言ったか?何歳いくつだ?」
「はい。十六です」
「十六…よりは上に見えるな」
「はい。背が高いせいか、顔が老けているのか、よく実年齢より上に見られます」
 確かに背が高いな。顔が老けているとは思わないが、大人っぽく見えるのは確かだ。
「ルーカスには…姉がいるか?」
 少しドキドキしながら聞く。
「いいえ。十歳になる妹はおりますが、姉はおりません」
 …姉は、いない、のか。
「そうか」
 若干落胆しながらユリウスは頷いたのだ。

 あの時、姉はいないと言ったし、ルーカスより二、三歳上の濃茶の髪の令嬢に心当たりはないかを聞いて「いない」と言ったから、それからルーカスとを結び付ける様な事は考えなかったんだ。

 本当にルーカスがなら、俺は十年も何をしていたのか。
 そう思うと、何だか居た堪れない、羞恥に似た気持ちになって、ロッテの顔を見る事ができなかった。
 そして、一人になりたくて、ロッテを追い出す様な事を言ってしまった。

「ルーカス、お前、前国王の誕生パーティーで、俺と庭で会った事があるのか?」
 ユリウスの問い掛けに、ルーカスは意外そうに「ええ」と答える。
「ロッテとその話しをされたのですか?」
「ああ。その時…ルーカスは女そ…ドレスを着ていた、のか?」
「ええ。そうです」
 ルーカスはあっさりと頷いた。







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