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「殿下、次の方の資料です」
ソファにもたれるユリウスに、ルーカスは書類を渡す。
ユリウスは書類にザッと目を通すとルーカスへと書類を差し出した。
「あまり読まれないんですね」
「まあな。名前と歳くらいの情報で会う方が先入観がなくて良い」
「なるほど」
ユリウスは次の令嬢のために改めてお茶の準備がされていくテーブルを眺めながら言う。
「ルーカス」
「はい」
「…昨夜は嫌な態度を取った」
「いえ」
「言わなくて良い事を言った。まだ未熟だな、俺は」
「殿下…」
「ああ、それにしても、相手が変わる度に新しいお茶を飲むから腹がタポタポだな」
ユリウスは声のトーンを上げて言うと、自分の胃の辺りを摩った。
「次の令嬢が終わったら昼休憩にしましょうか。丁度十番まで終わりますし」
「ああ」
「ここまででユリウス殿下の中で合格を出された令嬢が何名かおられますか?」
「……」
「殿下?」
「…ルーカス」
「はい」
「お前の家の侍女を通したいのだが、良いか?」
ユリウスの言葉にルーカスは大きく目を見開いた。
「…マリアを、気に入られたのですか?」
ユリウスは首を横に振る。
「いや…ロッテを合格させるつもりだから、親しい者が一緒の方が良いかと思っただけで、気に入った訳ではない」
「は…?」
困惑した表情のルーカス。
「ロッテを?まだ会っていないのにですか?」
「少しでも気になれば合格にして良いと言ったのはルーカスだ」
「…はい。確かに私がそう言いました」
眉を顰めるルーカスを見て、ユリウスは小さくため息を吐いた。
ロッテともう少し話したい。こんな面接ではなく、図書室で会った時の様に。
俺はそう思っただけで、ロッテを妃にしたいと思っている訳ではない。少なくとも今は。だが…
「妹が俺に気に入られるのがそんなに嫌か」
小さな声で呟く。
「え?」
「……」
俯いて黙るユリウス。
「殿下?」
コンコン。
ノックの音の後、侍従が次の令嬢を伴って入って来る。
「…では、十分後にお声掛けいたします」
「ああ」
令嬢をユリウスの向かいのソファへとエスコートすると、ルーカスは礼をして部屋を出て行った。
-----
部屋に昼食を持って来た侍女は午後の面接がシャーロットから始まると告げた。
クラリスと昼食を済ませたシャーロットは迎えに来た侍女に連れられてサロンへとやって来た。侍女が下がりサロンに一人になる。
さすが来賓棟のサロンね。調度品も装飾も上品なのに豪華だわ。
シャーロットがサロンの飾り棚に置かれた燭台を眺めていると、別の侍女に伴われて綺麗な金髪の令嬢が入って来た。
侍女が出て行くと、金髪の令嬢は一人掛けのソファにボスンと腰掛けると、シャーロットの方を振り向くように見る。
「ねえ、貴女ってお兄様の縁故関係で残っているの?」
「え?」
シャーロットがその令嬢の方へ振り返ると、金髪の令嬢は不敵な笑顔を浮かべた。
「お兄様がユリウス殿下の筆頭侍従なんでしょう?だからお兄様に『三次までは残して』ってお願いしていたのかしら、と思って。四次からはユリウス殿下の意向が入るからお兄様が相当売り込んでも難しいでしょうけど」
「そんな事していませんよ」
シャーロットはにっこりと笑って言う。
マウント取って来る相手には余裕を持って返事をしなくちゃね。
笑顔を返されるとは思っていなかった令嬢は少し狼狽えた様にシャーロットから視線を外した。
「う…嘘よ。じゃあ何故貴女の様な特別美しい髪や特別美しい瞳を持つ訳でもなく、格別の美人と言う訳でもなく、ただ背が高いだけの人がここまで残ってるの!?」
うーん…また背が高いだけの人って言われたわ。そりゃ確かに私は目が覚める様な美人じゃないし、髪も瞳も茶色だけど、こう短期間に同じ様な事を複数の人に言われたらさすがに落ち込みそう…
「何故と言われても…」
「そのブローチ!朝食の時貴女の仲間の二人が着けてたわ。そんな仲良い人たちが揃って通るなんておかしいもの。何か不正があったに決まってるわ!」
金髪の令嬢がそう言った途端に、サロンの扉が開いてルーカスが入って来た。
「お兄様!?」
「え?」
ルーカスは不機嫌そうにシャーロットを一瞥すると、金髪の令嬢の座ったソファの前に立った。
「貴女には、ここで帰宅して頂きます」
真剣な表情で令嬢へ言う。
「なっ!」
ソファから立ち上がる令嬢を見つめるルーカス。
「メレディス」
ルーカスが開いた扉の向こうに声を掛けると、メレディスがサロンに入って来た。
ルーカスの後ろにメレディスが立つ。
「十一番の方を案内してくれ」
「はい。では、どうぞこちらへ」
メレディスがシャーロットを扉の方へと促す。
「は…はい」
シャーロットは、ルーカスと金髪の令嬢を横目に見ながら、メレディスの後に続いてサロンを出た。
「殿下、次の方の資料です」
ソファにもたれるユリウスに、ルーカスは書類を渡す。
ユリウスは書類にザッと目を通すとルーカスへと書類を差し出した。
「あまり読まれないんですね」
「まあな。名前と歳くらいの情報で会う方が先入観がなくて良い」
「なるほど」
ユリウスは次の令嬢のために改めてお茶の準備がされていくテーブルを眺めながら言う。
「ルーカス」
「はい」
「…昨夜は嫌な態度を取った」
「いえ」
「言わなくて良い事を言った。まだ未熟だな、俺は」
「殿下…」
「ああ、それにしても、相手が変わる度に新しいお茶を飲むから腹がタポタポだな」
ユリウスは声のトーンを上げて言うと、自分の胃の辺りを摩った。
「次の令嬢が終わったら昼休憩にしましょうか。丁度十番まで終わりますし」
「ああ」
「ここまででユリウス殿下の中で合格を出された令嬢が何名かおられますか?」
「……」
「殿下?」
「…ルーカス」
「はい」
「お前の家の侍女を通したいのだが、良いか?」
ユリウスの言葉にルーカスは大きく目を見開いた。
「…マリアを、気に入られたのですか?」
ユリウスは首を横に振る。
「いや…ロッテを合格させるつもりだから、親しい者が一緒の方が良いかと思っただけで、気に入った訳ではない」
「は…?」
困惑した表情のルーカス。
「ロッテを?まだ会っていないのにですか?」
「少しでも気になれば合格にして良いと言ったのはルーカスだ」
「…はい。確かに私がそう言いました」
眉を顰めるルーカスを見て、ユリウスは小さくため息を吐いた。
ロッテともう少し話したい。こんな面接ではなく、図書室で会った時の様に。
俺はそう思っただけで、ロッテを妃にしたいと思っている訳ではない。少なくとも今は。だが…
「妹が俺に気に入られるのがそんなに嫌か」
小さな声で呟く。
「え?」
「……」
俯いて黙るユリウス。
「殿下?」
コンコン。
ノックの音の後、侍従が次の令嬢を伴って入って来る。
「…では、十分後にお声掛けいたします」
「ああ」
令嬢をユリウスの向かいのソファへとエスコートすると、ルーカスは礼をして部屋を出て行った。
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部屋に昼食を持って来た侍女は午後の面接がシャーロットから始まると告げた。
クラリスと昼食を済ませたシャーロットは迎えに来た侍女に連れられてサロンへとやって来た。侍女が下がりサロンに一人になる。
さすが来賓棟のサロンね。調度品も装飾も上品なのに豪華だわ。
シャーロットがサロンの飾り棚に置かれた燭台を眺めていると、別の侍女に伴われて綺麗な金髪の令嬢が入って来た。
侍女が出て行くと、金髪の令嬢は一人掛けのソファにボスンと腰掛けると、シャーロットの方を振り向くように見る。
「ねえ、貴女ってお兄様の縁故関係で残っているの?」
「え?」
シャーロットがその令嬢の方へ振り返ると、金髪の令嬢は不敵な笑顔を浮かべた。
「お兄様がユリウス殿下の筆頭侍従なんでしょう?だからお兄様に『三次までは残して』ってお願いしていたのかしら、と思って。四次からはユリウス殿下の意向が入るからお兄様が相当売り込んでも難しいでしょうけど」
「そんな事していませんよ」
シャーロットはにっこりと笑って言う。
マウント取って来る相手には余裕を持って返事をしなくちゃね。
笑顔を返されるとは思っていなかった令嬢は少し狼狽えた様にシャーロットから視線を外した。
「う…嘘よ。じゃあ何故貴女の様な特別美しい髪や特別美しい瞳を持つ訳でもなく、格別の美人と言う訳でもなく、ただ背が高いだけの人がここまで残ってるの!?」
うーん…また背が高いだけの人って言われたわ。そりゃ確かに私は目が覚める様な美人じゃないし、髪も瞳も茶色だけど、こう短期間に同じ様な事を複数の人に言われたらさすがに落ち込みそう…
「何故と言われても…」
「そのブローチ!朝食の時貴女の仲間の二人が着けてたわ。そんな仲良い人たちが揃って通るなんておかしいもの。何か不正があったに決まってるわ!」
金髪の令嬢がそう言った途端に、サロンの扉が開いてルーカスが入って来た。
「お兄様!?」
「え?」
ルーカスは不機嫌そうにシャーロットを一瞥すると、金髪の令嬢の座ったソファの前に立った。
「貴女には、ここで帰宅して頂きます」
真剣な表情で令嬢へ言う。
「なっ!」
ソファから立ち上がる令嬢を見つめるルーカス。
「メレディス」
ルーカスが開いた扉の向こうに声を掛けると、メレディスがサロンに入って来た。
ルーカスの後ろにメレディスが立つ。
「十一番の方を案内してくれ」
「はい。では、どうぞこちらへ」
メレディスがシャーロットを扉の方へと促す。
「は…はい」
シャーロットは、ルーカスと金髪の令嬢を横目に見ながら、メレディスの後に続いてサロンを出た。
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