23 / 98
22
しおりを挟む
22
飲み物を口にした後、倒れたアイリーンを上から見ていたユリウスは、アイリーンたちの周りに出来た人垣の外で、シャーロットとマリアと、一人の令嬢が対面しているのに気付いた。
「あれは…スアレス?」
「え?」
ルーカスがユリウスの視線の先を見る。
「あそこでロッテと話してる…何故かドレス姿だが」
「ああ…確かにスアレス殿下の様ですね」
「三次選考に協力するのはアイリーンだけじゃなかったのか?スアレスは女装して何してるんだ?」
「わかりませんけど…あの感じだとロッテに何か言いたい事があるんでしょうかね?」
「ロッテに?」
ルーカスは小さくため息を吐く。
「大方、私の妹が三次選考に残っていると耳にされて、ロッテが王太子妃になるのは許せないとか、そんな感じの事だろうと思いますよ」
「…ロッテが王太子妃に?」
俺の隣に立つのが…ロッテ?
「もしくは、私がロッテに選考内容を漏らしたんじゃないか、とかですかね」
「は?ルーカスがそんな真似をする訳がない」
間髪入れずにそう言うユリウスに、ルーカスは口角を上げる。
「ありがとうございます。しかし私はスアレス殿下とアイリーン殿下に嫌われていますからね」
「は…?」
「私は何もしてないわ!」
一人の令嬢が叫ぶ様に言う。
視線を移すと、アイリーンが担架に乗せられている処だった。
アイリーンに三次選考に協力してもらおうと言い出したのはルーカスだ。確かに、参加する令嬢たちと同じ年代で、でも明らかに王太子妃候補ではなく、毒を盛られても不思議ではない王女という存在のアイリーンは選考には都合が良かったのだが。
ユリウスは担架で会場から運び出されるアイリーンを眺める。
しかし俺の前ではあまり喋らずいつも澄まし顔のアイリーンが何故協力してくれる気になったのか…そして何故ルーカスを嫌っているんだ?
ふと気付くと、シャーロットが辺りを見回していて、ユリウスたちのいるバルコニーに視線を固定したのが見て取れた。
ルーカスはバルコニーの手摺りに隠れている。ユリウスは柱の影に立っていたが、ユリウスからシャーロットが見えると言う事は、シャーロットからもユリウスが見えているのだろう。
ああ、ロッテも目の前の令嬢がスアレスだと気付いたか?
ユリウスは人差し指を口元に立てた。
図書室で「内緒」と言ってこうしたから、きっとその令嬢がスアレスで、この場で正体を暴かないでくれという意図がロッテには伝わるだろう。
やがてシャーロットとマリア、そしてスアレスはさり気なく会場を出て行った。
-----
「ではあくまでも貴女はルーカスと結託し、王太子妃候補になろうと画策した訳ではないと言い張るのね?」
扇で口元を隠してアイリーンはシャーロットを見ながら言う。
「言い張っているのではなく、事実です」
シャーロットは静かに言った。
「んまあ。私に口答えするの?」
「そうなんだ。姉上、こいつらみんな不敬なんだ」
スアレスがアイリーンにそう言うと、アイリーンはシャーロットとマリアを交互に見る。
「この、ウェイン家の侍女の男爵令嬢も?」
「そうだよ!『ルーカス様は不正はなさいません』とか言っちゃってさ。挙句に兄上の事を『我儘』だと言ったんだ」
「まあ!」
マリアは完全に開き直っている様で、
「本当の事しか言ってません」
としれっと言った。
「お兄様のどこが我儘なの?お兄様はいつも穏やかで、優しくで、綺麗で、頭も良くて、剣も体術も強くて、完璧なお方よ!」
…弟もアレで、妹もコレなのか。
シャーロットは心の中でため息を吐く。
「立太子された時に決められた婚約を一方的に反故にして、それから婚約を拒み続けているのは我儘と言わないんですか?」
マリアが抑揚のない話し方で言った。
「マリア」
「……」
咎める様に言うシャーロットから目を逸らして黙るマリア。
これは完全に怒ってるわ。
「マリア、何でそんなに怒ってるの?」
シャーロットはマリアを手をそっと握る。
まさか本当に不敬罪に問われるとは思わないけど、あまり王女と王子を怒らせてマリアに不利益があったら嫌だし…
「だって、ルーカス様が不正をしたみたいに言うし、ロッテの事だって『背が高い以外に特徴がない』って言ったのよ」
マリアは眉を寄せて悔しそうに言う。
お兄様だけじゃなく、私の事でも怒ってくれてるんだ…
「本当の事じゃないか」
スアレスがそう言うと、マリアはスアレスを睨む。
「…何だよ。本当の事じゃないか…」
マリアに睨まれたスアレスは気圧された様にもう一度言う。さっきとは違って弱々しい。
「ロッテは強くて優しくて、私の大好きな幼なじみの親友で主人だわ!ロッテは本当に良い子なんだから!王太子妃になったってちっともおかしくないくらいよ!」
「マリア…それは言い過ぎ…」
「なっ!お兄様がこんな嫋やかでも控え目でもない人とご結婚なさる訳ないわ」
アイリーンが割って入る。
うーん、マリアの戯言に本気で反応しないでよ…
「こんな人とは何ですか!?ロッテは!前世でも私たちを庇ってくれた、本当に優しい子なんですからね!!」
……え?
飲み物を口にした後、倒れたアイリーンを上から見ていたユリウスは、アイリーンたちの周りに出来た人垣の外で、シャーロットとマリアと、一人の令嬢が対面しているのに気付いた。
「あれは…スアレス?」
「え?」
ルーカスがユリウスの視線の先を見る。
「あそこでロッテと話してる…何故かドレス姿だが」
「ああ…確かにスアレス殿下の様ですね」
「三次選考に協力するのはアイリーンだけじゃなかったのか?スアレスは女装して何してるんだ?」
「わかりませんけど…あの感じだとロッテに何か言いたい事があるんでしょうかね?」
「ロッテに?」
ルーカスは小さくため息を吐く。
「大方、私の妹が三次選考に残っていると耳にされて、ロッテが王太子妃になるのは許せないとか、そんな感じの事だろうと思いますよ」
「…ロッテが王太子妃に?」
俺の隣に立つのが…ロッテ?
「もしくは、私がロッテに選考内容を漏らしたんじゃないか、とかですかね」
「は?ルーカスがそんな真似をする訳がない」
間髪入れずにそう言うユリウスに、ルーカスは口角を上げる。
「ありがとうございます。しかし私はスアレス殿下とアイリーン殿下に嫌われていますからね」
「は…?」
「私は何もしてないわ!」
一人の令嬢が叫ぶ様に言う。
視線を移すと、アイリーンが担架に乗せられている処だった。
アイリーンに三次選考に協力してもらおうと言い出したのはルーカスだ。確かに、参加する令嬢たちと同じ年代で、でも明らかに王太子妃候補ではなく、毒を盛られても不思議ではない王女という存在のアイリーンは選考には都合が良かったのだが。
ユリウスは担架で会場から運び出されるアイリーンを眺める。
しかし俺の前ではあまり喋らずいつも澄まし顔のアイリーンが何故協力してくれる気になったのか…そして何故ルーカスを嫌っているんだ?
ふと気付くと、シャーロットが辺りを見回していて、ユリウスたちのいるバルコニーに視線を固定したのが見て取れた。
ルーカスはバルコニーの手摺りに隠れている。ユリウスは柱の影に立っていたが、ユリウスからシャーロットが見えると言う事は、シャーロットからもユリウスが見えているのだろう。
ああ、ロッテも目の前の令嬢がスアレスだと気付いたか?
ユリウスは人差し指を口元に立てた。
図書室で「内緒」と言ってこうしたから、きっとその令嬢がスアレスで、この場で正体を暴かないでくれという意図がロッテには伝わるだろう。
やがてシャーロットとマリア、そしてスアレスはさり気なく会場を出て行った。
-----
「ではあくまでも貴女はルーカスと結託し、王太子妃候補になろうと画策した訳ではないと言い張るのね?」
扇で口元を隠してアイリーンはシャーロットを見ながら言う。
「言い張っているのではなく、事実です」
シャーロットは静かに言った。
「んまあ。私に口答えするの?」
「そうなんだ。姉上、こいつらみんな不敬なんだ」
スアレスがアイリーンにそう言うと、アイリーンはシャーロットとマリアを交互に見る。
「この、ウェイン家の侍女の男爵令嬢も?」
「そうだよ!『ルーカス様は不正はなさいません』とか言っちゃってさ。挙句に兄上の事を『我儘』だと言ったんだ」
「まあ!」
マリアは完全に開き直っている様で、
「本当の事しか言ってません」
としれっと言った。
「お兄様のどこが我儘なの?お兄様はいつも穏やかで、優しくで、綺麗で、頭も良くて、剣も体術も強くて、完璧なお方よ!」
…弟もアレで、妹もコレなのか。
シャーロットは心の中でため息を吐く。
「立太子された時に決められた婚約を一方的に反故にして、それから婚約を拒み続けているのは我儘と言わないんですか?」
マリアが抑揚のない話し方で言った。
「マリア」
「……」
咎める様に言うシャーロットから目を逸らして黙るマリア。
これは完全に怒ってるわ。
「マリア、何でそんなに怒ってるの?」
シャーロットはマリアを手をそっと握る。
まさか本当に不敬罪に問われるとは思わないけど、あまり王女と王子を怒らせてマリアに不利益があったら嫌だし…
「だって、ルーカス様が不正をしたみたいに言うし、ロッテの事だって『背が高い以外に特徴がない』って言ったのよ」
マリアは眉を寄せて悔しそうに言う。
お兄様だけじゃなく、私の事でも怒ってくれてるんだ…
「本当の事じゃないか」
スアレスがそう言うと、マリアはスアレスを睨む。
「…何だよ。本当の事じゃないか…」
マリアに睨まれたスアレスは気圧された様にもう一度言う。さっきとは違って弱々しい。
「ロッテは強くて優しくて、私の大好きな幼なじみの親友で主人だわ!ロッテは本当に良い子なんだから!王太子妃になったってちっともおかしくないくらいよ!」
「マリア…それは言い過ぎ…」
「なっ!お兄様がこんな嫋やかでも控え目でもない人とご結婚なさる訳ないわ」
アイリーンが割って入る。
うーん、マリアの戯言に本気で反応しないでよ…
「こんな人とは何ですか!?ロッテは!前世でも私たちを庇ってくれた、本当に優しい子なんですからね!!」
……え?
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる