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「何でわかったんだ?」
 夜会の会場の側の控室に入ると、黒髪の鬘を取ると頭を振って群青色の短い髪を揺らし、ドレス姿のまま胡座を掻いてソファに座り、不満気に唇を尖らせたのは、第二王子のスアレスだ。
 スアレス殿下今十四歳だっけ。細身とは言え良く見ると肩とか腕とか女装をするのは体型的にもそろそろ限界ね。
「普通、令嬢は兄の事を『兄上』とは言いませんから。それにスアレス殿下はアイリーン殿下が運ばれて行く時、アイリーン殿下の方をチラッとも見ませんでした。これは不自然です」
 スアレスの向かいのソファに座ったシャーロットがそう言うと、シャーロットの隣に座ったマリアも言う。
「そうね。王女が毒を盛られて運ばれて行くのに一瞥もしないと言うのは不自然だわ。普通は関係なくても心配はするもの。つまり、アイリーン殿下が毒を盛られたと言うのは嘘だと言う事と、スアレス殿下はそれを知っておられたと言う事ね」
「そうね。後は瞳が…群青色だったから」
 スアレスは「チッ」と舌打ちして自分の手で目を覆う。
「室内だから黒に見えると思ったのに」
「あの、でも、良く見ないとわからなかったですし、女の子にしか見えませんでしたよ?」
「慰めるなよ!俺はお前が兄上の妃になるなんて認めないからな」
 スアレスはシャーロットを睨む。
「私だって私が王太子妃になるなんて認めませんよ」
 ため息混じりに言うシャーロット。
「何!?兄上のどこに不満があると言うんだ!?」
「は?」
 何なの?この王子、私にどうしろって言うの。
王子おれに向かって『は?』とは何だ!お前の兄といい、不敬なんだよ」
 はい?何でここにお兄様が出て来るの?

「兄上は素晴らしい方だ。母親が違う俺にも優しくしてくれて、容姿端麗、文武両道、泰然自若、非の打ち所がない方だ」
「ええ~」
 弟にそんなに完璧だと思われてたら、本当だったとしても息が詰まりそう。
「何が『ええ~』だ?」
 ジロリとシャーロットを睨む。
「いえ。泰然自若なんて、普段使わない言葉をご存知なんだなあ、と感心しまして」
 たいぜんじじゃく、何事にも動ぜず落ち着いた様子、よね。
「…ふん。とにかくそう言って俺が兄上を褒める度、お前の兄は『ユリウス殿下を神格化するのはやめてください』と言うんだ」
 ああ、わかるわ。
 ブラコンも度が過ぎると相手の負担になると思う。
 でもここでそう言ったら猛反論されるんだろうな。
「ご自分の我儘でこうして大掛かりに王太子妃候補の選定なんてさせる事態になっているのに、その方が非の打ち所がない訳がないですよ」
 マリアが真顔で言う。
 あ、言っちゃったわ。私もそう思うけど、スアレス殿下怒るんじゃない?
「何だと!?」
「だってそうでしょう?」
「やめて、マリア」
 シャーロットは立ち上がりかけたマリアを制する。
「ロッテ…」
 マリアは悔しそうな表情でシャーロットを見た。
「こいつら、揃いも揃って不敬だ!」
 スアレスがドレスの裾を揺らしてソファから立ち上がる。
「そうお思いなら不敬罪にでも何でも問えば良いですわ」
 マリアはプイッとスアレスから顔を背ける。

「スアレス、やめなさい」
 控室の扉が空いてマントを被った人が入って来る。
 マントの裾からドレスの裾が見えた。
「姉上」
 扉が閉まると、マントを取る。
 現れたのは、波打つたっぷりな紫の髪に紫の瞳の女の子。
「アイリーン殿下…」
 アイリーンはシャーロットとマリアより一歳歳下の学園の一年生なので遠目で見掛けた事はある。
 あるけど…近くで見るとすごいオーラ!かわいい顔立ちなのに、かわいいと言うよりは綺麗…スアレス殿下も容姿端麗だし、麗しい姉弟だわ。
 もちろんユリウス殿下も同じくらい?もっと?オーラがあって綺麗だもの。三人が並ぶと見てる方は眩しくて目が潰れちゃうんじゃないかしら?
「スアレスはお兄様を好き過ぎるのです。お二方にはご迷惑をお掛けしましたわ」
 アイリーンは優雅にスアレスの隣に座る。
「姉上だって兄上の事大好きな癖に…それに上品ぶり過ぎて気持ち悪いぞ」
 唇を尖らせて言うスアレス。
 ドスッ。
「う…」
 アイリーンの肘打ちがスアレスの鳩尾に決まった。
「余計な事言わないのよ?スアレス」
 にっこりと笑うアイリーン。

 この方も大人しいお姫様とは違うみたいね…
 シャーロットとマリアは顔を見合わせる。
「姉上…酷い…」
 スアレスは鳩尾を押さえながらソファに倒れ込んだ。




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