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高い位置にあるバルコニーから夜会会場を見下ろすユリウスは、マントのフードを被って柱の影に半身を隠している。
「ロッテのダンスパートナーはメレディスか」
「アイツまたロッテに暴言吐かなきゃ良いが…」
ユリウスの隣に立つルーカスは呆れた口調で言う。
メレディスより少し大きいな。ドレスだから靴の踵が高いのか。メレディスであの位になるなら俺と並んだら目の高さが一緒になるかな。
図書室で会ったロッテは踵の低い靴を履いていたから少し視線を落とすとロッテの額が見えて…肌がすべすべで髪が柔らかくて…少し上目遣いなのがかわいかったな。
ダンスが終わると、メレディスがシャーロットを指差して何かを言っているのが見えた。
「メレディスは何を言ったんだ?」
「さあ…?ロッテの表情から見ると不愉快な事ではなさそうですが」
シャーロットが少し首を傾げている。
「キャーッ!アイリーン殿下!」
その時、夜会の会場に金切り声が響いた。
-----
何?
アイリーン殿下って、第一王女よね?
「どうした!?」
「殿下?」
声がした所へわらわらと人が集まって行く。
「ロッテ」
ダンスを終えたマリアがシャーロットに駆け寄って来る。
「アイリーン殿下、どうされたの?」
「よくわからないんだけど、倒れられたとか…」
シャーロットとマリアが話していると、人垣の中から男性の鋭い声が飛んだ。
「毒だ!!」
ザワッ。
会場に緊張が走る。
…毒?
シャーロットは青褪めて人垣を見る。
「アイリーン様!」
「医師を!早く!」
「飲み物か!?」
「どうしてアイリーン様が!」
声が飛び交う中、シャーロットは視線を感じて辺りを見回す。
「ロッテ?」
同じく青褪めた顔のマリアがシャーロットを見上げる。
「何か誰かに…」
見られてるみたいで。と言おうとすると、人垣の後ろにいた令嬢がシャーロットを見て
「あの人、キョロキョロして…怪しいわ」
と言った。
え?私!?
シャーロットが驚いて自分を指差すと、その令嬢はツカツカとシャーロットの前まで来る。
「貴女、ユリウス殿下の筆頭侍従の妹なんですってね?」
シャーロットを見上げる、気の強そうな瞳。
…あれ?この瞳…
「貴女みたいな背が高い以外に特徴のない人が王太子妃候補に残るなんておかしいわ!」
うわ。アイリーン殿下に毒を盛った疑いを掛けられた訳じゃないみたいだけど、何か酷い事言われたわ。
「一次では騎士と踊って目立って、晩餐会では一番前の席になるし、朝だってわざとらしく疑われた令嬢を庇って…おかしくない?筆頭侍従の兄上から手を回して選考を通る様にしてるんでしょ!?」
ん?
「二次だって兄上から選考内容を聞いていたに違いないわ!?」
んん?
「……」
シャーロットの隣でマリアがぐっと自分の手を握りしめる。
「私は何もしてないわ!」
シャーロットたちとは別の所…人垣の中から声。
人垣の中から担架に乗せられた紫の髪の女性が運び出されて来る。周りには護衛と思われる騎士服の男性が数人、後ろにはアイリーン付きの侍女と思われる女性が顔を伏せて付いて来て、シャーロットたちの横を通って会場の出口の方へと移動して行った。
複数の女性の言い合う声が人垣の方から聞こえる。
シャーロットの前に立つ令嬢は、運ばれて行くアイリーンには一瞥もくれず、シャーロットをじっと見ていた。
黒髪に、群青色の瞳。
やっぱりそうだわ。
シャーロットは会場の中に視線を巡らせる。
さっき私が感じた視線はこの令嬢からの視線とは違う。だとしたら。
高い位置にあるバルコニーの柱の後ろに見切れた人影が見えた。
いた!やっぱり。
黒い影の様に見える人をじっと見ていると、その人は人差し指を自分の口元と思われる位置に立てた。
「ルーカス様は不正な事はなさらないわ」
マリアが目の前の令嬢を睨みながら言う。
「どうだか。貴女はその『ルーカス様』の家の侍女なのよね?貴女も残ってるって事はグルなんじゃないの?どちらかが最終候補に残る様に企んだに違いないわ」
「ルーカス様は私もロッテも王太子妃にしたいなんて思われていないわ」
少し声が大きくなるマリアの手をシャーロットはそっと握った。
「待って、マリア」
「ロッテ?」
シャーロットは少し屈んでマリアに耳打ちをする。
「……」
「え?」
マリアは驚いた表情でシャーロットを見る。シャーロットはマリアを見ながら苦笑いで頷く。
「だから、ここで騒ぎになって注目されるのは不味いわ」
「そうね。移動しましょうか」
「な、何を勝手に話してるのよ!?」
シャーロットは人差し指を立てると自分の口の前に立てて、目の前の令嬢に微笑み掛けた。
「別室へ行きましょう?スアレス殿下」
高い位置にあるバルコニーから夜会会場を見下ろすユリウスは、マントのフードを被って柱の影に半身を隠している。
「ロッテのダンスパートナーはメレディスか」
「アイツまたロッテに暴言吐かなきゃ良いが…」
ユリウスの隣に立つルーカスは呆れた口調で言う。
メレディスより少し大きいな。ドレスだから靴の踵が高いのか。メレディスであの位になるなら俺と並んだら目の高さが一緒になるかな。
図書室で会ったロッテは踵の低い靴を履いていたから少し視線を落とすとロッテの額が見えて…肌がすべすべで髪が柔らかくて…少し上目遣いなのがかわいかったな。
ダンスが終わると、メレディスがシャーロットを指差して何かを言っているのが見えた。
「メレディスは何を言ったんだ?」
「さあ…?ロッテの表情から見ると不愉快な事ではなさそうですが」
シャーロットが少し首を傾げている。
「キャーッ!アイリーン殿下!」
その時、夜会の会場に金切り声が響いた。
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何?
アイリーン殿下って、第一王女よね?
「どうした!?」
「殿下?」
声がした所へわらわらと人が集まって行く。
「ロッテ」
ダンスを終えたマリアがシャーロットに駆け寄って来る。
「アイリーン殿下、どうされたの?」
「よくわからないんだけど、倒れられたとか…」
シャーロットとマリアが話していると、人垣の中から男性の鋭い声が飛んだ。
「毒だ!!」
ザワッ。
会場に緊張が走る。
…毒?
シャーロットは青褪めて人垣を見る。
「アイリーン様!」
「医師を!早く!」
「飲み物か!?」
「どうしてアイリーン様が!」
声が飛び交う中、シャーロットは視線を感じて辺りを見回す。
「ロッテ?」
同じく青褪めた顔のマリアがシャーロットを見上げる。
「何か誰かに…」
見られてるみたいで。と言おうとすると、人垣の後ろにいた令嬢がシャーロットを見て
「あの人、キョロキョロして…怪しいわ」
と言った。
え?私!?
シャーロットが驚いて自分を指差すと、その令嬢はツカツカとシャーロットの前まで来る。
「貴女、ユリウス殿下の筆頭侍従の妹なんですってね?」
シャーロットを見上げる、気の強そうな瞳。
…あれ?この瞳…
「貴女みたいな背が高い以外に特徴のない人が王太子妃候補に残るなんておかしいわ!」
うわ。アイリーン殿下に毒を盛った疑いを掛けられた訳じゃないみたいだけど、何か酷い事言われたわ。
「一次では騎士と踊って目立って、晩餐会では一番前の席になるし、朝だってわざとらしく疑われた令嬢を庇って…おかしくない?筆頭侍従の兄上から手を回して選考を通る様にしてるんでしょ!?」
ん?
「二次だって兄上から選考内容を聞いていたに違いないわ!?」
んん?
「……」
シャーロットの隣でマリアがぐっと自分の手を握りしめる。
「私は何もしてないわ!」
シャーロットたちとは別の所…人垣の中から声。
人垣の中から担架に乗せられた紫の髪の女性が運び出されて来る。周りには護衛と思われる騎士服の男性が数人、後ろにはアイリーン付きの侍女と思われる女性が顔を伏せて付いて来て、シャーロットたちの横を通って会場の出口の方へと移動して行った。
複数の女性の言い合う声が人垣の方から聞こえる。
シャーロットの前に立つ令嬢は、運ばれて行くアイリーンには一瞥もくれず、シャーロットをじっと見ていた。
黒髪に、群青色の瞳。
やっぱりそうだわ。
シャーロットは会場の中に視線を巡らせる。
さっき私が感じた視線はこの令嬢からの視線とは違う。だとしたら。
高い位置にあるバルコニーの柱の後ろに見切れた人影が見えた。
いた!やっぱり。
黒い影の様に見える人をじっと見ていると、その人は人差し指を自分の口元と思われる位置に立てた。
「ルーカス様は不正な事はなさらないわ」
マリアが目の前の令嬢を睨みながら言う。
「どうだか。貴女はその『ルーカス様』の家の侍女なのよね?貴女も残ってるって事はグルなんじゃないの?どちらかが最終候補に残る様に企んだに違いないわ」
「ルーカス様は私もロッテも王太子妃にしたいなんて思われていないわ」
少し声が大きくなるマリアの手をシャーロットはそっと握った。
「待って、マリア」
「ロッテ?」
シャーロットは少し屈んでマリアに耳打ちをする。
「……」
「え?」
マリアは驚いた表情でシャーロットを見る。シャーロットはマリアを見ながら苦笑いで頷く。
「だから、ここで騒ぎになって注目されるのは不味いわ」
「そうね。移動しましょうか」
「な、何を勝手に話してるのよ!?」
シャーロットは人差し指を立てると自分の口の前に立てて、目の前の令嬢に微笑み掛けた。
「別室へ行きましょう?スアレス殿下」
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