長身令嬢ですが、王太子妃の選考大会の招待状が届きました。

ねーさん

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 王妃と王太子が晩餐会の会場から退出すると、令嬢たちの空気が少し和んだ。
「お名前、お伺いしても宜しいですか?」
 シャーロットに、斜め前の席の令嬢が声を掛けて来る。
「はい。ロッテと申します」
「私はフェリシティ。ロッテさん王妃殿下と微笑み合われてましたよね?」
 フェリシティは上目遣いでシャーロットを見ると笑顔を浮かべた。
「微笑み合ったと言うか…私が見惚れていたから視線を感じられたんじゃないかと」
「王妃殿下とお知り合いな訳では?」
「いえ、もう全然」
「そう…家名は聞くなと言われたけど、歳は聞いても良いのよね?ロッテさんはおいくつですか?」
「もうすぐ十六です」
「あら。歳下なのね。私は十七歳、学園の三年生よ」
 フェリシティはにっこりと笑う。

 晩餐会が終わり、シャーロットは席の近かったフェリシティと並んで会場を出た。
「ロッテさん背が高いのね」
「はい」
「目立って羨ましいわ」
「羨ましい?」
 フェリシティさんは目立ちたいの?
「目立てば王太子殿下に覚えてもらえるじゃない?私は王太子妃とか興味ないんだけど、父がね。何としても最終候補の五人に残れって言うの。最終的に王太子妃に選ばれなくても王太子や王妃に顔を売れるからって」
 部屋に戻る廊下を歩きながらフェリシティは言う。
 ああ、だから目立ちたいのね。
「ウチは地方の貴族だから、父には中央に近付きたい野心があるのよ。学園に入る時も一歳歳上のユリウス殿下とどうにかしてお近付きになれって言ってたわ。友人でも恋人でも良いって」
「恋人…」
「王太子殿下と恋人になれって、我が親ながら無謀な事言うわよねぇ。まあ私はそんな気はないからはいはいって適当に流してたけど」
 そう言って笑うフェリシティ。
 何だかはっきりサバサバしてて、フェリシティさん、好きかも。

「私も王太子妃になりたい訳ではないので…それに目立ちたくないんです」
「ああ…ごめんね?私ちょっと無神経な処があるのよね」
 少しバツが悪そうに言うフェリシティにシャーロットは少し慌てる。
「ああフェリシティさんを責める気持ちはなくて、ただ何もしなくても目立っちゃうので損だなあ~って」
「フェリで良いわよ。そうね。目立ちたくない時にその他大勢に紛れられないのは…辛い時もあるわよね」
「そうなんですよね」

「ロッテ~」
 後ろからマリアとクラリスが小走りでやって来る。
「あ、フェリさん、私の友人のマリアとクラリスです。こちらはさっき私の斜め前の席だっフェリシティさん」
「フェリシティです。ロッテさんより一つ歳上よ」
「マリアです。ロッテと同い歳です」
「クラリスです。来年学園に入ります」

「こういう時見つけてもらいやすいのは得ですかね?」
 シャーロットがフェリシティに目配せをしながら言うと
「すごく得だわね」
 とフェリシティは笑って言った。

-----

「ない!ないわ!」
 朝の来賓棟に女性の声が響く。
 朝食の時間まであと少し、ほとんどの令嬢が身支度を終えて、食堂へ行き、席に着こうとしていた時、寝間着姿の令嬢が一人、叫びながら食堂に駆け込んで来た。

「何かしら?」
 食堂の端の方の席に着いていたシャーロットが隣の席のクラリスに言う。
「何でしょう?」
「あれ?…あの方…」
 クラリスの隣の席のマリアが駆け込んで来た令嬢を見て首を傾げた。
「マリア、知ってるの?」
「確か、ハクルート公爵家のイザベラ様じゃないかな…」

「ネックレスがないのよ!今夜の夜会で着ける予定のネックレスが!」
 ヒステリックに叫ぶ令嬢。後から追いかけて来た友人か取り巻きらしき令嬢が
「イザベラ様、落ち着いて」
 と声を掛ける。
「落ち着いてなんていられないわ!あのネックレスはお母様がお父様から頂いた、大切な物なのよ!」
「お嬢様、ひとまずお部屋に戻ってお着替えを…」
 侍女が声を掛ける。食堂の外には給仕の男性などが控えている。イザベラが寝間着姿なので近くに行けないのだ。
「いやよ!あのネックレスは盗まれたのよ!」
 腕を掴む侍女や友人の令嬢の手を振りほどく様に身体を捩ったイザベラは、呆然としてイザベラたちを眺めている令嬢たちを順番に見渡した。

 そして、視線が一角で止まる。
「盗んだのは、あの子よ」
 イザベラがすっと人差し指を伸ばす。

 指し示した先には、クラリスがいた。




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