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 前世での結婚披露宴みたいな席ね。新郎新婦の席と、長テーブルが二列。
 新郎新婦の席…高砂って言うんだっけ。そこに王太子殿下が座られるんだろうけど…何故、私がその高砂の真ん前の席になるの!?
 長テーブルが二列、つまり九人の列が四列ある。前から後ろまでそんなに長い訳ではないが、シャーロットの席はシャーロットの言う処の「高砂」から見て左の内側の一番前だ。
 シャーロットの背中側の席と共に高砂に一番近い席なので、何となく後ろの席になった令嬢に睨まれている気がする。
 公爵令嬢や侯爵令嬢にとって「王太子妃になる事」は、私たちにとっての夢物語の中のプリンセスとは違って、もっと身近でリアル事なんだろうな。二次までと空気が全然違うもの。
 でも怖いから睨まないで欲しい…
 マリアはシャーロットと同じ列の後ろから二番目、クラリスは背中側の列の前から五番目と二人とも目立たない位置だ。

 筆頭侍従のルーカスともう一人の侍従が晩餐会の会場の扉を開けると、ユリウスと、ユリウスの母である王妃が入って来た。
 誰も声を発したりはしないが、母が息子の結婚相手候補を見定めに来たのだろうと、会場に緊張が走る。
 うわ。確かにユリウス殿下、背が高いわ。
 それに、王妃殿下!こんなに近くで見る事なんて一生ないと思ってた!
 シャーロットが「美形の親はやっぱり美形だわ…」と思いながら王妃を眺めていると、王妃がシャーロットを見てにっこりと微笑んだ。
 わっ私!?不躾に見過ぎたかしら!?
 シャーロットも引き攣りながら笑顔を返す。
 王妃は小さく頷くと、視線を外して席に着いた。

 宰相の挨拶と、乾杯の後、歓談の時間になる。
 侍女が「個人的な会話はしない」と言っていた通り、ユリウスと王妃は令嬢たちとは話さない事になっているようで、ユリウスはあまり令嬢たちの方に視線を向ける事もなく、王妃は興味深そうに全ての令嬢を見ているようだった。ごくたまに王妃がユリウスに耳打ちし、何かを小声で話している。

「ユーリあの子はどう?所作が綺麗だわ」
「母上…」
 小声で言う王妃にうんざりした口調で返すユリウス。
「じゃああの後ろの子は?」
「やめてください」
「でも私の一押しはあの子ね。あの一番前の紺のドレスの子」
 王妃が視線で示した先は、シャーロットだ。
 ん?それはルーカスの妹じゃ…
「身体が丈夫そうだわ」
「……」
 ユリウスが視線だけでシャーロットを見ると、シャーロットは背筋をピンと伸ばしてナイフとフォークを操っていた。
 今日は食堂でトレイに驚いていた時より緊張した顔だな。

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「いくら母上が気に入ったと言っても、その子たちが三次を通過するかどうかはわかりませんよ」
 令嬢たちより早く晩餐会の席を立ち、貴賓室に戻って来たユリウスは、上着を脱ぎながら言う。
 ソファに座った王妃は唇を尖らせた。
「わかってるわよ。でもねユーリ、王妃って体力勝負なんだから、余り『華奢』で『儚げ』で『か弱い』子は選ばないでね」
 今でこそ元気な母上だが、俺を産んだ時の産後の肥立ちが悪く長く伏せっていた。そのため俺の次の子供を望めず、父上は側妃を娶ったんだ。側妃はとても優しくて良い人だが、母上には正妃として忸怩たる思いがあるのだろう。

「王妃殿下、ユリウス殿下に余計な先入観を持たせないでください」
 ルーカスが少し咎める様に言う。
「あら。私はユーリに、王妃は外国に行く機会も多いし、式典や儀式や、公務もほぼ毎日あるし、身体が丈夫じゃないと務まらないわよって教えてるだけよ?現に私は十年近く公務から遠ざかって、陛下にご迷惑をお掛けしたんだもの」
 王妃はますます唇を尖らせる。
「それはわかりますが…とりあえず私の妹を推すのは止めてください」
 ため息混じりに言うルーカス。
「何故?折角王太子妃になれるチャンスなのに」
「王妃殿下は公爵家の出ですからおわかりではないかも知れませんが、伯爵家の娘が公爵家や侯爵家の令嬢を押し退けて王太子妃になるなど、苦労するだけです」
「同じ公爵家でも格があって、私の実家は下の方だから少しはわかるけれど、伯爵家だとそんなに苦労するの?何か言われたり、されたりするのかしら?」
「それはもう。言われますし、されます」
「それは、耐えられないもの?」
 ルーカスの眉がピクッと動く。
「母上」
 ユリウスが王妃の言葉を止める様に言うと、王妃は肩を竦めた。
「わかったわ。もう言わないわ」


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