上 下
12 / 98

11

しおりを挟む
11

「へえ、ロッテはレース編みが趣味なのか」
「はい。だからこうして庭を見たり花を見たりするのは図案の参考になって楽しいです」
 庭園の小径を歩くシャーロットとグリフ。
 この世界に生まれ変わって良かったのは、令嬢は運動をしなくて良いって事と、手芸が趣味でも似合わないとか暗いとか言われない事。前世では背が高いというだけでバレーやバスケに勧誘されて…それで運動神経悪いから落胆されて。勝手に期待して、勝手に失望されて、割に合わないったらなかったもん。

「きゃっ!」
「おっと」
 小径の段差に足を取られて転倒しかけたロッテをグリフが抱き止める。
 シャーロットの背中にグリフの片手が回り、もう片方の手が腰に添えられて、抱き合う様な体制になる。
 目の前にグリフの肩。シャーロットを包み込む程の大きな体躯。
 もちろん今世では貴族令嬢なので、男性に抱きしめられた経験はない。いや、前世でもカレシなどいなかったから、そんな経験はないのだが。
「大丈夫か?足を捻ったりしなかったか?」
「だっ。大丈夫です」
 シャーロットがグリフから離れようとすると、シャーロットの髪の毛がグリフの肩章に引っかかってしまう。
「いたっ」
「ああ髪の毛が。ロッテ、無理に引っ張らない方が良い」
 グリフがシャーロットの後ろ頭に手を添えて、それ以上離れないように止めた。
「はい…」
 シャーロットの頭を抱き込む様に腕を回して引っ掛かった髪の毛を外す。
 シャーロットの顔がグリフの首元に当たっていて、シャーロットの心臓はドキドキと速く鳴った。
「取れた」
「申し訳ありません」
 頬を真っ赤にしてグリフから離れるシャーロット。
「謝る事はない。俺としてはかわいい女の子と密着できて役得だったし」
 ニヤッと笑って言うグリフ。
 かっ…かわいい?私が「かわいい女の子」?
 シャーロットの頬がますます真っ赤に染まった。

-----

 グリフ様といると、私が普通の女の子みたいだわ。
 部屋に戻ったシャーロットはソファに座ってため息を吐いた。
「どうしたの?ロッテ」
 先に部屋に戻っていたマリアがシャーロットの前に紅茶のカップを置く。
「うん。グリフ様は本当に大きいな、と思って」
 マリアはシャーロットの隣に座ると自分の前のカップを手に取った。
「グリフ様ってロックハート辺境伯家のご次男なのよね?」
「そうなの?」
「さっきサロンで聞き込みしたのよ」
「聞き込み?」
「ウェイン伯爵家の令嬢シャーロット様のお相手に相応しいか、お調べするのが侍女である私の役目でもありますもの」
 改まった口調で言うマリア。
「なっ。お相手って!」
 赤くなって慌てるシャーロットにマリアは思わず吹き出した。
「ふふ。ロッテ慌て過ぎよ。王太子の護衛騎士だから、結構ご存知の方多かったわ。ルーカス様のご友人なら人柄も良いわね。きっと」
「マリア。だからお相手って…」
「辺境伯家は位としては侯爵に近いもの、伯爵令嬢のロッテとは家柄も釣り合うわ」
「マリア」
「懸念としてはロッテを辺境伯領へ連れて行っちゃわないか、という事ね。ご次男だからずっと王都に住んでくださると良いのだけど」
「マーリーアー」

 そう話していると、他の二人の令嬢と、クラリスが部屋に戻って来る。
 程なくして、結果を知らせに侍女が部屋にやって来た。

「公爵家や侯爵家のご令嬢に、一次から参加した『その他大勢』が勝つと面白いと思うわ」
 侍女が退出した後で、同室だった学園四年生の伯爵令嬢が言う。
「それも貴女たち三人の誰かが王太子妃候補になればすごく面白いわ」
 三年生の子爵令嬢も頷く。
 シャーロット、マリア、クラリスの手には揃いの封筒。三日後の三次選考の案内書が入っているのだ。

 伯爵令嬢と子爵令嬢は「頑張ってね~」と手を振って笑顔で部屋を出て、帰路に着いた。

 残った三人は顔を見合わせる。
「面白い…ですか?」
 クラリスがシャーロットとマリアを上目遣いで見る。
「自分が当事者じゃなければ面白いかも」
 シャーロットは視線を上にあげて言う。
「そうね真理だわ」
 マリアは顎に手を当てて頷いた。

「まあ、とりあえず…こうなってしまったら仕方ないわ」
「それもそうね。今更辞退もできないし」
「そうですね。またロッテさんとマリアさんに会えるのを楽しみにして来ます」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

転生巫女は『厄除け』スキルを持っているようです ~神様がくれたのはとんでもないものでした!?〜

鶯埜 餡
恋愛
私、ミコはかつて日本でひたすら巫女として他人のための幸せを祈ってきた。 だから、今世ではひっそりと暮らしたかった。なのに、こちらの世界に生をくれた神様はなぜか『とんでもないもの』をプレゼントしてくれたようだった。 でも、あれれ? 周りには発覚してない? それじゃあ、ゆっくり生きましょうか……――って、なんか早速イケメンさんにバレそうになってるんですけど!?

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈 
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

処理中です...