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「グリフ様、王太子殿下の護衛騎士という事は関係者では?こうして私と会って大丈夫なんですか?」
庭園の小径を歩きながらシャーロットが言う。
「俺、昨日とは違う服だろ?」
「はい」
昨日は白で装飾の多い騎士服だったが、今日は黄土色で装飾は少ない。
「これから山賊討伐で地方へ行くんだ。しばらく戻らないから、王太子妃候補選定には関与できない。だから大丈夫」
王太子の護衛騎士たちは実戦感覚を鈍らせないために、山賊海賊などの討伐や、国境警備、紛争解決などの他の騎士の仕事に加勢したりしているのだ。
並んで歩くシャーロットとグリフを、来賓棟の最上階の貴賓室の窓から眺めているのはユリウスだ。
やっぱり彼女に雰囲気が似ているな。
「ルーカスの妹、二次選考を通ったらしいな」
「ロッテですか。…ええ、まあ」
テーブルに書類を置きながらルーカスが嫌そうな表情で言う。
「おれが面接するのは四次だったか?」
「……」
外を見たままで問うが、ルーカスからの返事がない。
「?」
ユリウスが室内のルーカスの方へと振り返ると、ルーカスは苦虫を噛み潰したかの様な表情でユリウスを見ていた。
「…何だその顔」
「殿下、ロッテは三次選考で落ちますから」
「別にお前の妹に会いたくて聞いた訳ではない」
「それなら良いです。そう仰られると言う事は、少しは王太子妃候補に興味が出て来ましたか?」
「いや。ただこんな所に閉じ込められて、同じ顔ぶれにしか会えず、他に考える事がないからだ」
「仕方ないでしょう?王太子妃候補の選定は公爵、侯爵家の令嬢を加えたこれからが本番です。王太子妃の地位を狙う令嬢やその親などが殿下に接触して来るのを防ぐためですから」
宰相や文官、王太子の侍従や従僕、数多くの侍女やメイドが選定に関わる事になり、王太子の側が手薄になるのを防ぐため、ユリウスは来賓棟最上階の貴賓室に謂わばカンヅメになっているのだ。そしてそれは、三日後から三日掛けて行われる三次選考、そして四次選考でのユリウスとの面接が終了するまで継続するのだ。
「わかっている」
そう言って、ユリウスはむっつりと黙り込む。
下手に反論すると「この様な事になりましたのも、殿下がご婚約を拒まれるからです」と返されるのがわかり切っている。それに、宰相や侍従などの選定に関わる者たちもユリウスと同じ様に家にも帰れずカンヅメ状態になっているのを知っているからだ。
俺だって、婚約者がいないこの状態をが良いとは思ってはいない。
国王陛下…父上が即位したのは五年前、三十四歳の時だ。当時の国王が五十五歳で急逝したから。その前の国王も四十代、その前も五十代、更に前は三十代で逝去していて…どうやら王とはあまり長生きできないものらしい。今は外国との戦もない平安な時代だからそういう方面での心配は少ないが、今後の事はわからない。あらゆる不測の事態に備えるのは王家の義務だ。
それなのに、王太子となった十三歳の時に選定された婚約者候補を、俺は拒んだ。
それからは婚約話自体を拒んで来た。
俺の心を捕らえている「あの女性」。
十年前、八歳の時に一度だけ会った、恐らく十四、五歳の令嬢。せめて彼女の素性がわかるまで、誰も心に入れたくなかった。
「いつまでもそんな事言っていられないのも…わかってる」
小さく呟く。
だからこの王太子妃候補の選考会には強く反対しなかったんだ。
もうすぐ十八歳になる。来春には学園を卒業する。それから直ぐに婚儀の準備をし、なるべく早く世継ぎをもうける…個人の感情など挟む余地はないんだ。
「何か仰りましたか?」
ルーカスが言う。
「いや…あ!」
庭を歩くシャーロットが転びかけ、グリフが抱き止めるのが見えた。
「何ですか?庭?」
「いや、お前の妹が転びそうになって…なかなか離れないな」
シャーロットとグリフは、抱き合う様な体制のままだ。
「ロッテが?」
ルーカスも窓の側に来て下を覗き込む。
「ああ、グリフと一緒ですか」
「抱き合っているのは気にならないのか?」
「会ってまだ二日目なのは気になりますが、まあグリフなら」
王太子妃の選考に通るのはあんなに嫌そうな顔をするのに、グリフなら良いのか。
そう思ってルーカスを見ると、窓に齧り付いて顔を顰めている。
なるほど。嫌なのは嫌なのか。
「妹とはそんなにかわいいものか?」
「かわいいですよ。ユリウス殿下はアイリーン殿下をかわいいとお思いではないのですか?」
「アイリーンとスアレスは母が違うし…兄妹愛とか言われるものは正直良くわからないな」
アイリーンはユリウスの妹、スアレスは弟なのだが、ユリウスは王妃である正妃の子、アイリーンとスアレスは側妃の子で立場が違い、あまり交流もないのだ。
庭を見ると、シャーロットとグリフはまた並んで歩き出していた。
「グリフ様、王太子殿下の護衛騎士という事は関係者では?こうして私と会って大丈夫なんですか?」
庭園の小径を歩きながらシャーロットが言う。
「俺、昨日とは違う服だろ?」
「はい」
昨日は白で装飾の多い騎士服だったが、今日は黄土色で装飾は少ない。
「これから山賊討伐で地方へ行くんだ。しばらく戻らないから、王太子妃候補選定には関与できない。だから大丈夫」
王太子の護衛騎士たちは実戦感覚を鈍らせないために、山賊海賊などの討伐や、国境警備、紛争解決などの他の騎士の仕事に加勢したりしているのだ。
並んで歩くシャーロットとグリフを、来賓棟の最上階の貴賓室の窓から眺めているのはユリウスだ。
やっぱり彼女に雰囲気が似ているな。
「ルーカスの妹、二次選考を通ったらしいな」
「ロッテですか。…ええ、まあ」
テーブルに書類を置きながらルーカスが嫌そうな表情で言う。
「おれが面接するのは四次だったか?」
「……」
外を見たままで問うが、ルーカスからの返事がない。
「?」
ユリウスが室内のルーカスの方へと振り返ると、ルーカスは苦虫を噛み潰したかの様な表情でユリウスを見ていた。
「…何だその顔」
「殿下、ロッテは三次選考で落ちますから」
「別にお前の妹に会いたくて聞いた訳ではない」
「それなら良いです。そう仰られると言う事は、少しは王太子妃候補に興味が出て来ましたか?」
「いや。ただこんな所に閉じ込められて、同じ顔ぶれにしか会えず、他に考える事がないからだ」
「仕方ないでしょう?王太子妃候補の選定は公爵、侯爵家の令嬢を加えたこれからが本番です。王太子妃の地位を狙う令嬢やその親などが殿下に接触して来るのを防ぐためですから」
宰相や文官、王太子の侍従や従僕、数多くの侍女やメイドが選定に関わる事になり、王太子の側が手薄になるのを防ぐため、ユリウスは来賓棟最上階の貴賓室に謂わばカンヅメになっているのだ。そしてそれは、三日後から三日掛けて行われる三次選考、そして四次選考でのユリウスとの面接が終了するまで継続するのだ。
「わかっている」
そう言って、ユリウスはむっつりと黙り込む。
下手に反論すると「この様な事になりましたのも、殿下がご婚約を拒まれるからです」と返されるのがわかり切っている。それに、宰相や侍従などの選定に関わる者たちもユリウスと同じ様に家にも帰れずカンヅメ状態になっているのを知っているからだ。
俺だって、婚約者がいないこの状態をが良いとは思ってはいない。
国王陛下…父上が即位したのは五年前、三十四歳の時だ。当時の国王が五十五歳で急逝したから。その前の国王も四十代、その前も五十代、更に前は三十代で逝去していて…どうやら王とはあまり長生きできないものらしい。今は外国との戦もない平安な時代だからそういう方面での心配は少ないが、今後の事はわからない。あらゆる不測の事態に備えるのは王家の義務だ。
それなのに、王太子となった十三歳の時に選定された婚約者候補を、俺は拒んだ。
それからは婚約話自体を拒んで来た。
俺の心を捕らえている「あの女性」。
十年前、八歳の時に一度だけ会った、恐らく十四、五歳の令嬢。せめて彼女の素性がわかるまで、誰も心に入れたくなかった。
「いつまでもそんな事言っていられないのも…わかってる」
小さく呟く。
だからこの王太子妃候補の選考会には強く反対しなかったんだ。
もうすぐ十八歳になる。来春には学園を卒業する。それから直ぐに婚儀の準備をし、なるべく早く世継ぎをもうける…個人の感情など挟む余地はないんだ。
「何か仰りましたか?」
ルーカスが言う。
「いや…あ!」
庭を歩くシャーロットが転びかけ、グリフが抱き止めるのが見えた。
「何ですか?庭?」
「いや、お前の妹が転びそうになって…なかなか離れないな」
シャーロットとグリフは、抱き合う様な体制のままだ。
「ロッテが?」
ルーカスも窓の側に来て下を覗き込む。
「ああ、グリフと一緒ですか」
「抱き合っているのは気にならないのか?」
「会ってまだ二日目なのは気になりますが、まあグリフなら」
王太子妃の選考に通るのはあんなに嫌そうな顔をするのに、グリフなら良いのか。
そう思ってルーカスを見ると、窓に齧り付いて顔を顰めている。
なるほど。嫌なのは嫌なのか。
「妹とはそんなにかわいいものか?」
「かわいいですよ。ユリウス殿下はアイリーン殿下をかわいいとお思いではないのですか?」
「アイリーンとスアレスは母が違うし…兄妹愛とか言われるものは正直良くわからないな」
アイリーンはユリウスの妹、スアレスは弟なのだが、ユリウスは王妃である正妃の子、アイリーンとスアレスは側妃の子で立場が違い、あまり交流もないのだ。
庭を見ると、シャーロットとグリフはまた並んで歩き出していた。
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