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「やっぱりヒールよね…」
 用意してもらった昼餐会用のドレスはアフタヌーンドレス。薄い青のシンプルなドレスはシャーロットによく似合っていた。
 ただ、平均的な身長の女性が着ればヒールでも裾が床に着くくらいで足は隠れるだろうが、シャーロットが着るとくるぶしが出てしまう。丈の長さはマナー違反ではないが、足が見えるので、この場合踵の高い靴を履かないとバランスが悪いだろう。
 ドレスと一緒に用意されたハイヒールを履いて、全身の写る鏡をじっと見つめた。
「ロッテは普段ヒールの低い靴しか履かないけど、やっぱりヒールが高いと足が綺麗に見えるわ」
 マリアが言う。
 マリアのドレスは紺色。少し大人びてとても綺麗だ。
「ロッテさんドレスの型録から抜け出たみたいです!すごく格好良いです!」
 クラリスが胸の前で手を組んで言う。
 クラリスのドレスはアイボリーでとてもかわいらしい。
「ありがとう」
 クラリスに格好良いって言われると、素直に嬉しいな。
 それぞれ侍女にお任せで用意してもらったのだが、やはり王城の侍女はセンスが良いんだなあ、とシャーロットは思った。

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 昼餐会の会場に行くと、ずらりと席が用意されていた。
「席は決まっておりませんのでお好きな所へどうぞ」
 係の人にそう言われて、シャーロットとマリアはクラリスを挟んで会場の端の方の席に着いた。
 広い昼餐会場に設けられた席に令嬢たちが着いたタイミングで、王太子の侍従たちが会場に入って来た。
 侍従たちの先頭に立つのはシャーロットの兄ルーカス、後に続く十名の中には学園の舞踏会でシャーロットが葡萄ジュースを掛けてしまった男子生徒メレディスもいる。
 あ、あの人王太子殿下のご友人の。殿下の侍従なのね。
「あいつ、ロッテに暴言吐いた奴じゃないの」
 クラリス越しにマリアが小声でシャーロットへ言う。
「あれは、私が悪かったのよ」
 シャーロットが言うと、マリアは眉間に皺を寄せた。
「だからって、言って良い事と悪い事があるわよ」
 シャーロットはマリアを見て、ふっと笑いを漏らした。
「自分の事の様に怒ってくれるマリア、好きだわ」
「…ロッテはもう少し怒った方が良いわよ」
 少し照れた様に言うマリア。
 本当に大好きだわ。
「お話はわかりませんけど、ロッテさんとマリアさんは本当に仲良しなんですね」
 クラリスがニコニコしながら言った。

「少々準備に時間が掛かっておりますが、着席のままお待ちください」
 侍従たちが手分けをして会場をそう言いながら回りだす。
 ルーカスもメレディスもシャーロットたちの席とは遠い所を歩いていた。

 侍従たちが会場のあちこちに分かれて立つ。そこが各自に決められている場所の様だ。
 何もないまま、時間が過ぎていく。
「まだかしら…」
「長いわね」
 あちこちでサワサワも令嬢たちが話し出す。

 こういう時に姿勢を崩すとお父様とお母様に叱られるのよね。
 シャーロットは背筋を伸ばした。
 シャーロットは背が高いが、猫背ではない。
 幼い頃から周りより背が高かったのは前世も今世も一緒だが、前世では猫背だった。しかし今世では、父と母が「背が高いのはシャーロットの個性だ。背中を丸めるなんて許さない」と言うスタンスで、少しでも姿勢が崩れると注意が入るのだ。
 なのでウェイン家では、家族も使用人も皆姿勢が良い。もちろんルーカスもマリアもだ。
「クラリス、背筋を伸ばすとスタイル良く見えるわよ」
 マリアもピンと背筋を伸ばしてクラリスに言う。
「こうですか?」
 クラリスはシャーロットとマリアを見ながら背筋を伸ばす。
「そうそう。あ、少し顎を引いて」
 シャーロットの言葉に「はい!」と返事をして顎を引くクラリス。
「あ、良いわ。すごく綺麗よ」
 シャーロットが言うと
「うん良いわね」
 マリアも頷く。
「ありがとうございます」
 素直にそう言って笑うクラリスはとてもかわいい。

 暫くして、食前酒ならぬ食前ジュースが配られ始める。
「王城では百人規模の晩餐会なんて珍しくもないんだから、こんなに待たせたと言う事は、この待ち時間が二次選考なんじゃないかしら?」
 ロッテがそう言うと、
「あり得るわね」
 とマリアも頷く。
「待ち時間が?」
 クラリスが首を傾げる。
「待っている間の何かを…見られていたんでしょうね。侍従たちに」
 マリアにそう言われると、会場に散らばってる侍従たちが鋭い視線を巡らせている…様な気がするわ。
 シャーロットがそう思いながら侍従たちに視線をやると、ルーカスと視線が合った。
 ルーカスがシャーロットを見て少し眉を顰めたのがわかる。
 …あれ?あのお兄様の嫌そうな感じ。これ、もしかして…私、二次選考通っちゃったんじゃないのかしら?


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