上 下
8 / 98

7

しおりを挟む
7

 一次選考を通過し、控室に入った令嬢が十人になると、係員がやって来た。
「では、この十名で王城へと移動いたします。今夜は王城へ泊まっていただき、明日二次選考となります」
 そう言われ、十人で固まって係員に付いて歩き、王城の来賓棟へと移動する。
「二次選考へ進まれる方は百名余りおられますので一名一室と言う訳には参りません。五名で一室をご利用頂きます。一室に侍女を一名づつ付けますので、ご入用の物はお申し付けください」
 来賓棟の入口で説明を受け、五人づつに分かれて部屋に入る。
 シャーロットとマリアは隣にいたので同じ部屋になる事ができた。
 部屋に入ると、そこは元々ツインの部屋だったらしく、エキストラベッドが三台、応接室の様な部屋に並べてあった。応接室と繋がっている寝室には通常のベッドが二台あるのだろう。
 部屋で待っていた侍女が入って来た五人に恭しく礼をする。
「明日の昼餐会が二次選考となります。昼餐会用のドレスもご用意できますのでお申し付けください。お化粧や髪を結うのもお手伝い致しますのでご心配になられませんよう。他にもご入用の物がおありでしたら何なりとお申し付けくださいね」
 侍女はニッコリ笑って言った。

 夕食と明日の朝食はこの部屋で摂るので、今日はもう着替えて自由にして良い。昼餐会用のドレスなど、入用の物は少し後でまた聞きに来る、と言って侍女は部屋から出て行った。
 学園四年生の伯爵令嬢と三年生の子爵令嬢の二人が寝室を、学園未入学十四歳の男爵令嬢とシャーロットとマリアが応接室を使う事になり、それぞれ荷物を置いて普段着に着替える。
「ロッテ、ドレスある?」
「ないわ。マリアは?」
「今日帰るつもりだったから…一応招待状に一泊できるようにって書かれてたから、部屋着とか下着とかは持って来たけど」
「同じく」
「昼餐会用のドレス、お願いしなくちゃね」
「…うん。でも私に合うドレスなんて用意できるのかしら?」
 横はあるだろうけど、縦が。つんつるてんになりそう。
「侍女さんからルーカス様に『家からドレス持って来て』って伝言してもらう?」
「うーん、でもあんまりお兄様と接触しない方が良いんじゃないかと思うのよね」
 シャーロットは不正防止などで関係者と参加者は接触できないのではないかとの考えをマリアに話す。
「あー確かに。ルーカス様が妹に一次通過の紙を渡したんじゃないかとか、二次、三次選考を通過するにはどうすれば良いか指南したとか思われるものね」
「お兄様なら絶対に私を通過させないけど、知らない人にはそんな事はわからないもの」
「そうね」

 マリアと話しているシャーロットに、十四歳の男爵令嬢が「あの…」と声を掛けて来た。
 あ、マリアとばかり話して、あの子に疎外感を感じさせたのかも。
「お姉様たちは、お友達なのですか?」
 ふんわりとした雰囲気の男爵令嬢は、十四歳らしい無邪気な様子でニコニコと話し掛けて来る。
 うわあ、かわいい!
 ふわふわのピンクかがった金髪に緑の瞳。大きな眼、まつ毛長い。艶々でプルンとした赤い唇。
 ん?これは…
「あ!!」
「ロッテ?」
 マリアと男爵令嬢が大きな声を出したシャーロットを驚いた顔で見る。
「ごめんなさい。何でもないわ。そう、私とマリアは幼なじみなのよ」
「そうなの。私はマリア・マードック。学園の二年生で、この間十六歳になったばかりよ」
「私はマリアと同じ二年生のシャーロット・ウェイン。ロッテと呼んでね」
「マリア様とロッテ様」
「様はいらないわ」
 シャーロットがそう言うと、マリアも「そうね」と頷く。
「マリアさんとロッテさん…?」
 少し上目遣いでおずおずと言う。
 かわいいなあ。
 シャーロットとマリアはうんうんと頷いた。
「私、クラリス・ケーリーです。来年学園へ入ります」
 クラリス!
 名作カリ城!名前もピッタリ!
 ピンクゴールドの髪にエメラルドの瞳、小さくて華奢で守ってあげたくなる様な超美少女!

 これは、この子が「ヒロイン」なんじゃない!?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...