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番外編2

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 リリー様がご結婚なさる事になった。
 王太子妃になる筈の、公爵家の令嬢であるリリー様が、何故王都に屋敷を持たない伯爵に嫁がなくてはならないのか。しかもリリー様より十九歳も年上で、しかも離婚歴もある相手。
 更にその相手はローゼの伯父で、その家にはローゼの母と言う小姑がいて、更に更にローゼにそっくりと言われている養女までいるのだ。
「自分の子はいなくたってコブ付きと同じような物じゃない…」
 ベティは呟く。
 リリー様程の方が…どうして?
 納得いかない。なのに、リリー様はどうしてあんなに幸せそうなのか。

「ベティは公爵家ここに残っても良いのよ?もちろん、ついて来てくれたらものすごく嬉しいけれど」
 そうリリー様は言う。
 実際、学園を卒業されてから、教会から王太子との婚約解消の許可が出るまでのこの一年間、リリー様は何度もお相手の家へ行かれたが、一度も私を伴った事はない。  
 どうして?リリー様は私を信頼してくださっていると思っていたのは…ただの自惚れだったの?
 だからと言って他の侍女を連れて行かれる訳ではないのだけど…
「リリー様が望んでくださるなら、共にブラウン家に行きます」
「本当!?」
 リリー様の表情がパッと明るくなる。
 本当に喜んでくださってる…
「ただ…あのね。ブラウン家にはローゼリアがいるじゃない?」
「はい」
 リリーが少し眉を寄せて言う。
 ローゼリアはローゼにそっくりというブラウン伯爵家の養女。元は身寄りのない市井の娘で、養女になるまではブラウン家で働いていたと聞いている。
 元使用人のお嬢様と私が上手くやっていけるか心配されているのかしら?
 でもそのお嬢様は学園生だから長期休暇にしかブラウン家には戻らないだろうし、事もあろうかサイオン王太子殿下に妃にと望まれているそうだから、卒業後に家に戻ったとしてもそう長い期間にはならないと思うんだけど。
「本当に、本当に、ベティが一緒に来てくれるなら…話しておかなくてはならない事があるのよ」
「はい?」
「本当に、来てくれるのかしら?」
 真剣な表情。
「本当に、行きます」
 私が頷くと、リリー様は花のように笑った。

-----

 馬車から降りるリリー様を迎える赤茶色の髪の男性。
 この人がリリー様の結婚相手のシドニー・ブラウン伯爵、三十九歳か…
 ベティはリリーの手を取り穏やかに微笑むシドニーを少し離れた所から眺める。
 マーシャル公爵家に挨拶に訪れたシドニーを見掛けた事はあるが、遠目だったこともあり、髪色以外あまり印象に残っていなかった。
 童顔だから三十九歳には見えないわ。確かに優しそう。
 そして…シドニー様に向き合うリリー様がものすごくかわいい顔をなさってる!
「本当に…お好きなのね…」

「ベティ様」
 自分を呼ぶ声がして、そちらを向くと、ピンクの髪の女性が二人立っていた。
「ローゼ!…リア様」
「お久しぶりです。ベティ様」
 ニコリと微笑むのはローゼだ。
 途端に、ベティの眼に涙が浮かんだ。
「…ベティ様」
「今だけ、ローゼの先輩に戻っていいでしょうか?」
「もちろんです」
「もう!何よ!生きてて良かったわ!」
 べしんとローゼの腕を叩く。そして、ローゼを抱きしめた。
「ベティ様…」
 何だかんだ言って、私もローゼをかわいく思ってたんだなあ。

「ベティさん?ローゼが色々お世話になったそうで…」
 ローゼと抱き合っていると、もう一人のピンクの髪の女性から声を掛けられた。
「あ。ローゼ…リア様のお…母…様?え?お姉様?」
「ローゼリアの母のアメリアです。これからよろしくお願いしますね」
 お母様!若い!ローゼに似てる!

 その後、シドニー様、いえ、旦那様にもご挨拶をした。
 あ、笑顔かわいい。なるほど。この笑顔をリリー様は好きになったと言う訳ね。

「ベティさん…様は伯爵家の令嬢なのに、リリー様について来て良かったんですか?」
 ブラウン伯爵家に来て約一週間が経ち、明日はリリー様と旦那様の結婚式、と言う日に、ブラウン伯爵家の従僕で、執事見習い中のニックに声を掛けられた。
「…同じ使用人なんですから『様』は要りませんよ」
「そうですか。ではベティさん」
「はあ」
 ニコニコと微笑んでいるニック。
 …確かブラウン家の執事が高齢なので、ニックさんが執事見習いをしながら徐々に仕事を引き継いでるって聞いたわ。
 歳は二十代後半くらいかしら?黒髪に茶色い瞳。見目は良いわね。旦那様たちとは違って切れ長の眼が鋭い雰囲気だけど。
「王宮へ勤め、王太子妃付きの侍女になる予定のベティさんが、公爵家ならまだしも、伯爵令嬢なのに、同じ伯爵家に仕えると言うのには、忸怩たる思いがおありなのではないですか?」
「…は?」
 あくまでもニコニコしているニック。
 何なんだろう。この貼り付けたみたいな笑顔は。
「何ですか?嫌味か何かなんですか?」
 睨むようにニックを見る。
「いえいえ。単純な、興味ですよ」
 ニックは手を振りながらニッコリと微笑んだ。



 
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