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番外編1
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エンジェル男爵家のクレイグの私室の扉を勢いよく開けて、デボラが飛び込むように入って来る。
「クレイグ様!」
「デボラ嬢?」
ソファで本を読んでいたクレイグは驚いて顔を上げた。
「どうした?今日はローゼたちと出掛けるんじゃ…」
クレイグは立ち上がって扉の前に立つデボラに近付く。
ローゼが学園の編入試験を受けに王都へ来たタイミングで、リリーとデボラが泊まりに来ていて、今は翌日の昼前だ。
「それです!」
「それ?」
「『デボラ嬢』って、よそよそしくありませんか?」
「呼び方の事?」
「そうです」
クレイグは顎に手を当てて、目の前のデボラを見下ろす。
何故こんな事を急に言い出したのかな?
何だかわからないけど、必死な顔をして…かわいいな。
「じゃあ何て呼べば良いかな?皆が呼ぶように『デビィ』?」
「皆と同じ…」
くるんとした瞳が上目遣いでクレイグを見る。
「ん?」
微笑みかけると、デボラは目を見開いて扉の方へ振り向くと扉を閉じた。
扉を背に、デボラはクレイグを見る。
…どういう意味の行動だろう?
「扉は開けておいた方が良くないかな?」
「嫌です」
「嫌?」
「ク…クレイグ様!」
デボラはクレイグの名前を呼ぶと、クレイグにぶつかるような勢いで抱きついた。
「…えー…と?」
クレイグが若干戸惑っていると、デボラはクレイグの胸に額を押し付けて言う。
「捕まえておくって、どうやるんですか?」
「ん?」
「昨夜リリー様に言われたんです。好きかどうかわからないなら、クレイグ様を頂戴って」
「んん?」
頂戴って、リリー様のお相手にって事か?
「私…嫌ですって言ったんです」
「うん」
…話はよくわからないが、嫌だと言ってくれたのは嬉しい。
「そうしたらリリー様『嫌ならちゃんと捕まえておきなさい』って…でもどうやったら良いかわからなくて…」
クレイグはデボラの背中をポンポンと叩く。
「私は、例えばリリー様を娶れとサイオン殿下に命じられたとしても断るよ?」
デボラが顔を上げて下からクレイグを見上げる。
「本当ですか?リリー様みたいに綺麗でかわいらしい方でもお断りを…?」
私にとっては、かわいいと思うもの、好きだと思うのも、デボラ嬢だけだしなあ。
「ああ」
クレイグが笑い掛けると、デボラも照れたように笑った。
-----
「ローゼとリリー様と出掛けなくて良かったのかい?」
午後、ローゼとリリーは街へ出掛けて行き、デボラはクレイグの部屋のソファに膝を抱えて座っている。
「まだ私はローゼリアと知り合ったばかりの設定なので、一緒に出掛けるのは不自然かな、と思いまして。…お邪魔ですか?」
デボラの隣に座るクレイグは、読みかけの本を膝の上に開いて置いている。
「いや。私もデボラ嬢と過ごせて嬉しいよ」
「良かった…でも『デボラ嬢』かあ」
「やはり呼び方を変えて欲しいかな?」
「はい。でも『デビィ』じゃ皆と同じなので、何か違う呼び方が良いです」
「他の呼び方か…デボラだから、デブもデビィも愛称としては普通だな」
「どちらも誰かが呼んでます」
頷くデボラ。
「……」
クレイグは口元に手を当てて黙り込む。眉間に薄っすらと皺が寄っていた。
「…クレイグ様?」
デボラがクレイグを窺うように言うと、ハッとしたクレイグは口元に当てていた自分の手で目を覆う。
「あの…クレイグ様?」
「…いや」
デボラの方から顔を背けようとするクレイグ。デボラは咄嗟に手を伸ばしてクレイグの目を覆っている手を引っ張った。
見えたクレイグの目尻が少し赤い。
「……デビィと、呼んでいたな、と思って」
呟くように言う。
「え?誰が…あっもしかしてマリック!?」
デボラがそう言うと、クレイグはデボラが掴んでいるのとは反対の手で目元を覆う。
「…私は、自分が思っていた程大人ではないし、心も広くないんだ」
ヤキモチ!?そして照れてる!?
かっ…かわいい!クレイグ様!
「じゃあやっぱりクレイグ様だけが呼ぶ、愛称が欲しいです」
クレイグが目元を覆った指の隙間からデボラを見る。
「では…『ディー』と」
小声で言う。
「『ディー』ですか!良いですね!」
クレイグは手を伸ばして、両手をデボラの肩に置くと、自分の腕の間に項垂れる。
「クレイグ様?」
「…ディー」
とくん。とデボラの心臓が鳴る。
クレイグ様だけが呼ぶ、特別な私の呼び名。…恥ずかしいけど、ものすごく嬉しい。
「ディーが学園を卒業した時、他に特別な男性ができていなくて、私の事を嫌いではなければ…その時には私と結婚してくれないか?」
「…随分消極的な求婚ですね」
「精一杯だよ。これでも」
クレイグが少し顔を上げてチラッとデボラを見る。
「ディー」
「はい」
「頼むから『はい』と言ってくれ」
デボラは満面の笑みで言った。
「はい。学園を卒業したら、結婚しましょう」
エンジェル男爵家のクレイグの私室の扉を勢いよく開けて、デボラが飛び込むように入って来る。
「クレイグ様!」
「デボラ嬢?」
ソファで本を読んでいたクレイグは驚いて顔を上げた。
「どうした?今日はローゼたちと出掛けるんじゃ…」
クレイグは立ち上がって扉の前に立つデボラに近付く。
ローゼが学園の編入試験を受けに王都へ来たタイミングで、リリーとデボラが泊まりに来ていて、今は翌日の昼前だ。
「それです!」
「それ?」
「『デボラ嬢』って、よそよそしくありませんか?」
「呼び方の事?」
「そうです」
クレイグは顎に手を当てて、目の前のデボラを見下ろす。
何故こんな事を急に言い出したのかな?
何だかわからないけど、必死な顔をして…かわいいな。
「じゃあ何て呼べば良いかな?皆が呼ぶように『デビィ』?」
「皆と同じ…」
くるんとした瞳が上目遣いでクレイグを見る。
「ん?」
微笑みかけると、デボラは目を見開いて扉の方へ振り向くと扉を閉じた。
扉を背に、デボラはクレイグを見る。
…どういう意味の行動だろう?
「扉は開けておいた方が良くないかな?」
「嫌です」
「嫌?」
「ク…クレイグ様!」
デボラはクレイグの名前を呼ぶと、クレイグにぶつかるような勢いで抱きついた。
「…えー…と?」
クレイグが若干戸惑っていると、デボラはクレイグの胸に額を押し付けて言う。
「捕まえておくって、どうやるんですか?」
「ん?」
「昨夜リリー様に言われたんです。好きかどうかわからないなら、クレイグ様を頂戴って」
「んん?」
頂戴って、リリー様のお相手にって事か?
「私…嫌ですって言ったんです」
「うん」
…話はよくわからないが、嫌だと言ってくれたのは嬉しい。
「そうしたらリリー様『嫌ならちゃんと捕まえておきなさい』って…でもどうやったら良いかわからなくて…」
クレイグはデボラの背中をポンポンと叩く。
「私は、例えばリリー様を娶れとサイオン殿下に命じられたとしても断るよ?」
デボラが顔を上げて下からクレイグを見上げる。
「本当ですか?リリー様みたいに綺麗でかわいらしい方でもお断りを…?」
私にとっては、かわいいと思うもの、好きだと思うのも、デボラ嬢だけだしなあ。
「ああ」
クレイグが笑い掛けると、デボラも照れたように笑った。
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「ローゼとリリー様と出掛けなくて良かったのかい?」
午後、ローゼとリリーは街へ出掛けて行き、デボラはクレイグの部屋のソファに膝を抱えて座っている。
「まだ私はローゼリアと知り合ったばかりの設定なので、一緒に出掛けるのは不自然かな、と思いまして。…お邪魔ですか?」
デボラの隣に座るクレイグは、読みかけの本を膝の上に開いて置いている。
「いや。私もデボラ嬢と過ごせて嬉しいよ」
「良かった…でも『デボラ嬢』かあ」
「やはり呼び方を変えて欲しいかな?」
「はい。でも『デビィ』じゃ皆と同じなので、何か違う呼び方が良いです」
「他の呼び方か…デボラだから、デブもデビィも愛称としては普通だな」
「どちらも誰かが呼んでます」
頷くデボラ。
「……」
クレイグは口元に手を当てて黙り込む。眉間に薄っすらと皺が寄っていた。
「…クレイグ様?」
デボラがクレイグを窺うように言うと、ハッとしたクレイグは口元に当てていた自分の手で目を覆う。
「あの…クレイグ様?」
「…いや」
デボラの方から顔を背けようとするクレイグ。デボラは咄嗟に手を伸ばしてクレイグの目を覆っている手を引っ張った。
見えたクレイグの目尻が少し赤い。
「……デビィと、呼んでいたな、と思って」
呟くように言う。
「え?誰が…あっもしかしてマリック!?」
デボラがそう言うと、クレイグはデボラが掴んでいるのとは反対の手で目元を覆う。
「…私は、自分が思っていた程大人ではないし、心も広くないんだ」
ヤキモチ!?そして照れてる!?
かっ…かわいい!クレイグ様!
「じゃあやっぱりクレイグ様だけが呼ぶ、愛称が欲しいです」
クレイグが目元を覆った指の隙間からデボラを見る。
「では…『ディー』と」
小声で言う。
「『ディー』ですか!良いですね!」
クレイグは手を伸ばして、両手をデボラの肩に置くと、自分の腕の間に項垂れる。
「クレイグ様?」
「…ディー」
とくん。とデボラの心臓が鳴る。
クレイグ様だけが呼ぶ、特別な私の呼び名。…恥ずかしいけど、ものすごく嬉しい。
「ディーが学園を卒業した時、他に特別な男性ができていなくて、私の事を嫌いではなければ…その時には私と結婚してくれないか?」
「…随分消極的な求婚ですね」
「精一杯だよ。これでも」
クレイグが少し顔を上げてチラッとデボラを見る。
「ディー」
「はい」
「頼むから『はい』と言ってくれ」
デボラは満面の笑みで言った。
「はい。学園を卒業したら、結婚しましょう」
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